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二十六歳無職がJKに助けられる話  作者: 灰音


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一話目

 俺はドブみたいな人生を送っている。

 二十六歳、無職。

 実家暮らしの、身分には合わないような贅沢な暮らし。

 住むところにも困らず、食う物にも困らず。

 問題なのは精神的なものと、社会的な立場。

 親は当然働くことを望んでいるだろうし、真っ当な人生を俺に送って欲しいと思っているはず。

 だけど、そういう事を望まれながらも今より強く言われない理由が一つだけある。

 それは交通事故に遭い、生死を彷徨った経験があるからだ。

 当時は俺ごときが死にかけたぐらいで、家族が心配してくれているのを意外に思ったぐらいだ。

 やはり親にとっては、こんな子でも大切に見えるらしい。

 母親に関しては普段から仲が良かったし、母親というのもあって心配する気持ちは分かる。父親に関しては普段はそんなに関わりがない。だから意外に感じた。

 まあ、そんな事があったから生きているだけで多少感謝される立場がある。

 後遺症でリハビリを続け、やっと最近、走る以外なら普通に生活できるようになった。

 つまり、本当に働けよって思われる立場って事だ。

 今でも多少は残っているが、リハビリがほぼ完了したって事は本来嬉しい事のはずなのに、俺にとってはそうではない。

 なぜなら、今の生活から正常な人間のルートに行かないといけないからだ。


 大学は何とか卒業できたから、後は本当に働くだけ。

 働きたくない。

 それに尽きる。

 今みたいにリハビリをして、それ以外は好きなように動ける時が好きだ。

 それを自ら捨てるって、俺みたいなクズには難しい話だろ?

 だから自堕落な生活から抜けられない。

 だからきっと、このままクズみたいな人生を歩んでいくんだろう。



☆☆☆☆☆





 一日のやる事。


 八割好きな事。二割に風呂飯リハビリ、その他もろもろ。


 何とも贅沢な生活だ。


 あー、働きたくねえな。


 そんな事を考えながら、一日二回の散歩に参る。勿論これもリハビリの為だ。


 本当なら家から一歩も出たくない。


 言うなれば、俺の仕事だ。これをすると家での立場が少しだけ回復する。


 これだけで後は基本的に好きな事を出来てるんだから、何とも楽な生活だ。




 自堕落な生活を送っている人間が変わりたいのであれば、何かきっかけが必要だ。


 俺みたいなクズは特に理由が無いと変われない。


 まともな人生を送るとか、そういう理由ではない。


 引きこもりの人間が学校に行くようになるには何が一番か。


 それは学年が上がった時に勇気を出して行くことだ。


 そのような転機が必要なのだ。


 二十六歳の無職にそんな転機はない。


 だから、きっと一生このままの生活なんだろう。


 家での立場も無く、社会的立場も無く。




 だけどそれは突然やってきた。


 急に家で人を預かる事になったらしい。


 親の知り合いの娘で、向こうの親御さんが仕事関係でしばらく家を空けることになり、うちで預かるといった流れだ。




「あんた暇でしょ?皐月ちゃんの事、ちゃんと面倒見てあげるのよ」




 それは予想外だった。




 何で俺が?


 いや、無理やろ。




 ここ数年病院の人達か、家族としか話してない俺が?




 二十六歳の無職の俺が?




 しかも、相手は女子高校生らしい。




 年が近いから仲良くなれるとか言われて。




 いや、そりゃ父親や母親よりは近いんだけどさ。




 大体八歳ぐらい離れてるぞ。




 若者の流行もなんにも分かんねーし、向こうに俺と関わる気が少しでも無ければ俺には無理だぞ?




 そりゃ俺はずっと家にいるしさ、家族は仕事で外に出てる事が多いしさ。俺が面倒を見る流れになるのは分かるんだけどさ。




 出来るはずないだろ……。




 ある日、寝ているとインターホンが鳴る。




 家には多分俺しかいない。




 だけど、眠いから出ない。




 インターホンが何度も連続でうるさく響く。




「はい、どちらさんでしょうか……」




 普段から誰とも会いたくない。身だしなみもぼさぼさ。誰かと会うだけで精神的ダメージを食らうから。




 だから今みたいに連続で鳴り続ける以外は出ないようにしてる。




「あ、やっと出てきた。今日からお世話になる柊皐月ひいらぎ さつきです。猫島千歳ねこじま ちとせさんですよね?」




「あ、ああ……」




 あ、この子がうちに来る子なのか。




 小さいガキだな……。




「……入る?」




「そうですね。その為に来たので」




「そうだな……」




 気まず。




 まー、普通に考えて、この子の方が不安だろうしな。




 俺が特に何かを気にする必要はないか。




 俺には不安しかない。




 二十六歳無職と女子高生が同じ家に住むって許されるの?




 ははは。




 まあ、正直そんなに関わる事は無いだろう。




 お互い部屋に居る事が多くなるだろうし。




 俺も部屋から特別出る気はないし。




 最低限の面倒を見るぐらいだろうか。




 俺には社会性がないから、最低限ってどのぐらいなのか分からないんだけどな。




「家の説明した方がいいか?何か他に先に聞きたい事があるなら聞くけど」




「じゃあ、説明お願いします」




「お、おお……」




 この子を見て、最近のJKってこんな感じなんだなって思った。




 俺からしたら子供で、それ以外大して何も感じないな。




 家の中の構造を案内していく。




「先に荷物部屋に持っていくか」




「はい」




「持つよ」




「いえ、大丈夫です」




「……そうか」




 流石に見ず知らずの人間に私物を触られるのは嫌か。




 キャリーバッグって意外と重そうだけどな。




 今時見ず知らずの子供に声を掛けただけで通報される時代だしな。




 俺が小さい時はそんなもん当たり前だったけどな……。




「ここが君の部屋だ。余程変な事をしない限り、好きに使っていいはずだ」




「ありがとうございます。分かりました」




 素直で大人しいな。最初だけかもしれんが。




「ってことで、こんなもんだ。他に気になる事はある?」




「そうですね。猫島さんって呼ぶとあれなんで、千歳って呼んでいいですか?」




 こ、こええ……。これが今時のJKなのか?距離の詰め方が異常すぎんだろ……。




 猫島さんってのは俺の家族に対してでもあるか。流石に父や母に呼び捨てはないだろうしな。




 つまり俺みたいなゴミには呼び捨てで十分。




 納得だな。




「好きに呼んでくれていいよ。とんでもない暴言とか以外なら」




「私をなんだと思ってるんですか……?分かりました。私の事は皐月でも何でも好きに呼んでください。お任せします」




「あ、ああ……。分かった」




 何が?




 何にも分かってない。




 結局どう呼べばいいんだよ?




 流石にここで皐月とかって呼ぶのやばすぎない?




 相手は俺の事を名前で呼ぶ権利はあるけど、俺側にはそれらしい理由はない。




 難しすぎんだろ。




「難しい顔してますね?」




「生まれつきだ」




「私との距離感で悩んで、どう呼ぶか悩んでますね?」




 俺を覗き込み、まるでこいつの方が上位の存在のように圧を掛けてくる。




 いや、実際に上位存在だ。




 ニートとJK。




 価値があるのはどう考えてもJK。




 俺はこのバトルに敗北しているらしい。




「そうだ」




「潔いですね。そういうの楽で助かります」




「ああ……」




 特に他に声にならなかっただけなのだけれど。コミュ障丸出しで、惨めでしかない。




「面倒なんで、皐月でいいですよ。その方が今後も楽でいいでしょ。あだ名で呼びたくなったりしたら、どうぞご勝手にお願いします」




「ああ……」




「一度呼んでみてもらえます?」




「え」




「ほら、はやく」




「さ……さ、つきちゃん……」




「ぎこちな……」




 これがコミュ障ニートのなれの果てか。




 病院の人とか、リハビリの人とか相手だったら普通に話せるんだけどな。




 いや、シチュエーションが悪いのでは?




 そうだ。年下の女子にマウント取られて怯えてるだけなんだ。




 どういう状況なんだよ、それ。




「ま、それでお願いしますね。千歳」




「分かった」




 家での上下も初日から決められ、ますます俺の立場が色々な意味で無くなった。




「荷物置けたら、一旦家を案内していいか?」




「はい、お願いします」




 家の紹介とかって何を教えるべきか分からないが、何となくで案内していった。




「まあ、こんなもんかな。じゃあ、俺は部屋にいるから。もし何かあったら呼んでくれていいから」




 とりあえず俺の仕事は終わりか。




 ふう。何とか無事に済ませられたな。




「部屋で一旦準備終わったら、千歳の部屋行って良い?」




「え……え?」




「ちょっと部屋で準備させてもらってから行くね」




「え……?」




 ……え?

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