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27(アーシャ視点)

「まぁ!家族旅行ですか?!」



 王子が無事に異国に出荷された報告をした翌日のことだった。お兄様の隙をついてさりげなくエトランゼ様とお茶をするのを日課にしようと企んでいると、なにやら頬を赤らめた(可愛い)エトランゼ様がぴょんと跳ねるようにわたくしの前に姿を現して話してくれたのである。


「そうなんです!昨夜、思い切ってアーノルド様にお願いしにいったら許してくださったんです!私、アーノルド様と“ちゃんと”夫婦に────セノーデン伯爵家の“家族”となった実感というか、そういうのが欲しくなってしまって……!もうすぐ長期休みだし、まだ結婚式もしていないのにいきなり家族旅行なんてワガママだと思われるかもしれないけど、学園を卒業するまで待てなくて……」


 珍しく興奮気味に少し早口に語るエトランゼ様の話によれば、なんと夜遅くにお兄様の部屋を訪ねてお強請りしにいったのだとか。二人は夫婦ではあるがあくまで書類上でのことで(お兄様の過度なスキンシップはあれど)まだ《《そういう関係》》ではない。それに部屋も別々だし、全てはエトランゼ様が学園を卒業して結婚式を執り行ってから、と決めていたはずである。よくよく聞けば「大切なお願いなので、ちゃんと身を清めて気合いをいれてから訪ねました!」なんて言ってはいるが、そっちの方面で進展があった様子はないのよね……。


 どうやらお兄様は我慢(待て)ができたようだ。エトランゼ様ってば、“お願い”するのに必死でどんなシチュエーションになっていたかまで考えていなかったのでしょうね。(可愛い!)


 お兄様はきっとエトランゼ様が去った後は悶え苦しんだことだろうけど。ふはっ(鼻で笑う)


 なんでもエトランゼ様は幼少期に“楽しい家族旅行”の思い出がないらしい。その思い出作りの相手に我々が選ばれたなんて夢のようである。だってそれってつまり……。


 そこまで思考を巡らせたときに、エトランゼ様が少し恥ずかしそうに上目遣いでつぶやいたのだ。



「“エトランゼ・セノーデン”として、皆さまと一緒に思い出を作りたいなって思ってしまったの」


 その弩級の可愛らしさにわたくしは思わず天を仰いだ。


 指をグッジョブ!しながら「可愛過ぎるお強請り、プライスレス……!」と叫んだことは許して欲しい。叫ばずにはいられなかった。すぐにエトランゼ様を驚かせてしまったかと焦ったけれど、エトランゼ様に気にする様子はなく話を続けてくれている。わたくしの奇行(自覚はある)に慣れてきてくれたようで嬉しい限りだった。


「弟のロナードまで一緒になんて、さすがに断られるかと思ったのだけど……アーノルド様はお優しいから許してくださったわ。ロナードにも旅行を楽しませてあげたくて……」


「エトランゼお義姉様の弟ならば、わたくしたちにとっても家族同然ですわ!さっそく一緒に旅行の計画を練りましょう!お父様とお母様だって諸手を挙げて大賛成するに決まってますわ!」


「ありがとう、アーシャ!」


 エトランゼ様の満面の笑みをしっかり拝めてわたくしは幸せいっぱいだった。だってこの笑顔を見るために転生してきたんだって信じているんだもの。


 そう、わたくしたちセノーデン一家は……“悲劇の悪役令嬢エトランゼ”を救って幸せにするために……そして家族になるためにこの世界にやってきたのだから。



 それからさっそくみんなで旅行の計画を相談した。お兄様は寝不足みたいだったけど(笑)エトランゼ様のご実家にも手紙を出してロナード様と旅行する許可もしっかりいただいたし、数日かけて練って出来上がったのは完璧な旅行計画だったわ!


 なぜかナイジェルも来ることになっちゃったからお兄様が不貞腐れてたけどね。だって、エトランゼ様が熱望している魔道具作りの見学が、ナイジェルが職人との間に入ってやりとりしてくれてやっと叶ったんだもの。先方もナイジェルが一緒にくるならと、受け入れてくれたのだから仕方がない。


 まぁね、不安がないわけじゃないわ。だって異国はあの王子が出荷された国だし、いくら魔道具の職人の工場が町外れにあるからってもしかしたらなんて事もあるかもしれないじゃない?でも、ロナード様と一緒になって「魔道具ってとってもすごいのよ!」「ボクも見てみたい!」なんてはしゃいでいる姿を見たらなにがなんでも叶えてあげたいですもの!



 エトランゼ様との、初めての家族旅行。きっと楽しい旅行になるはずだった。


 まさかエトランゼ様が興味を持った魔道具のせいであんなことになるなんて、その時は思いもしなかったのである。





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