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 パーティーも無事に終わり、私は今の幸せを噛み締めていた。


「これでようやく一段落ですわね!」


 一緒にお茶をしているアーシャがにっこりと笑顔を見せた。


「王子は結局、異国にしゅっka……いえ、婿入りすることが決まったそうですわ。すでにしゅっka、いえ、出国手続きを済ませてお持ち帰りされたみたいですわよ。王子さえ来てくれればこれまでの騒動を全部なかったことにした上に周りの国への釈明と輸出入の条件も良くしてくれるなんて破格の待遇ですわね」


 アーシャの言葉にあの時のことを思い出す。まさか、あんな大どんでん返しが起こるとは夢にも思わなかったからだ。


「それにしても、ライア姫の熱烈なアプローチはすごかったですね。遠目からでしたから、お話の内容はよく聞こえませんでしたけれど……王子の顔に滴が落ちたのが見えてしまって、もしかしたら結婚を断られてライア姫が泣いてしまったのではないかとハラハラしてしまいましたがあれは歓喜の涙だったとわかってホッとしました。……でも、その後に王子が会場を指差したのはなんだったのかしら?」


 あの時はなんだか嫌な予感がして咄嗟にみんなでブローチの紐を引っ張ったのだ。周りの人たちもライア姫の公開逆プロポーズに圧倒されたのか、いつの間にか蜘蛛の子を散らすように壁際に張り付いていたので王子が指差した先には誰もいないように見えていたはずである。ブローチの効果は一度使ったら壊れてしまったけれど、あの瞬間にアーシャを守れたのならじゅうぶんだった。


 しかもその後、王子は気絶するようにその場に倒れてしまった。そのままライア姫と異国の王に引き摺られるようにして連れて行かれてしまったけれど、あれはなんだったのだろうか?


 するとアーシャはほんの少し目を細めて「そうですわねぇ……?」と首を傾げた。


「もしかしたら、最後の悪足掻きでもしようとしたのではないでしょうか?」


「最後の悪足掻き、ですか?」


「ゲームの強制力がどこまであったのかは不明ですが、乙女ゲームのパーティーで断罪はつきものですから。どのように足掻くつもりだったのかはわかりませんけれど……“誰か”を道連れにするつもりだったのかもしれませんわね」


 アーシャのその言葉に、私の“義妹を守らねばセンサー”が反応した。そもそもあのパーティーは王子の婚約者探しのためのパーティーでアーシャはその候補だったのだ。しかもお金のためなら犯罪まがいのことだって平気でするらしいあの王子ならあり得ないことではない。



「……道連れって、まさか、ライア姫のプロポーズを受けた上でアーシャを愛人として連れて行こうとしてたってことですか?!」


 お金大好き王子のことだから持参金目当てだろうけれど、アーシャが優秀であることがバレていたのかもしれない。あの王子は、仕事をアーシャに押し付けてアーシャの持ってきたお金で遊び呆けるつもりだったのだ。きっとそうに違いない!


 ヒロインと結婚するのを諦めたかと思ったら、異国でも似たような事をしようとしていたのね!それに、ライア姫がいくらしっかりしているとはいえまだ子供だ。王子と結婚出来ると喜んでいるライア姫の目の前で愛人を決めようとしていたなんてとんでもないことである。


 アーシャが無理強いされている姿とライア姫が悲しんでいる姿を想像してしまい力がこもってしまった。特に私の可愛い義妹を利用しようなんて考えていたのかと思うと腹が立って仕方がない。


「あんな王子なんて、異国で厳しく教育されてしまえばいいんだわ!」


 私が思わず頬を膨らませてそう言うと、アーシャがクスクスと笑いながら「そうですわね」と同意してくれる。


「そういえば、ヒロインもいつの間にかいなくなっていましたし……ようやく全部のルートを潰すことができましたわね。これでエトランゼ様の……いえ、《《お義姉様》》の未来も安心です!」


 そしてちょっと照れたような、はにかんだ笑顔をみせてくれた。それを見て胸がキュンとしてしまう。


「そうね、これで心配事はなくなったのよね!」


 私の“悪役令嬢としての未来”はこれで消え去ったはずだ。ヒロインもいなくなったし、攻略対象者とやらも目の前から消えた。つまりこれからはセノーデン伯爵家の一員として、アーノルド様の妻として平穏に暮らしていける。それが嬉しかった。


 アーノルド様とは書類上では夫婦になってはいるが、まだそれだけだ。愛されているのは感じているし、私だってアーノルド様のことを……。


 だから《《ちゃんと》》夫婦になりたいな。と、思っていた。卒業までなんて待っていられない。誰かに奪われたりしないように、アーノルド様に“私”という存在をもっともっと深く刻み込みたいと感じていた。



 だから、勇気を出して《《お願い》》することにしたのだ。





 その夜、私はアーノルド様の部屋へとやって来た。心臓が爆発しそうなくらいドキドキしているが、妻が夫の部屋を訪ねるのは変じゃないはずである。


 お風呂でだってメイドにお願いして念入りに洗ってもらったし、以前アーノルド様がプレゼントしてくれた薔薇の香油もつけた。


 多少、強引なわがままかもしれないけれど……でもアーノルド様にしか叶えてもらえない案件なのだ。たまには勢いも必要だと思うし、ここは妻としての魅力を最大限に出して押し切るしかない……!



「……ア、アーノルド様、少しよろしいですか?」


「エトランゼ嬢?こんな夜更けにどうしたんで……」


 扉が開いた瞬間、私は勢いに任せてアーノルド様に抱きついた。たぶん今の私は顔が真っ赤になっている気がする。


「アーノルド様……!つ、妻として、だ、旦那様にお願いがあってやってきました!」


「!エ、エトランゼ嬢……まさかそれって。ほ、本当に……?いいのですか?」


「も、もしかして……すでに私の気持ち、わかってしまいましたか?私、どうしても学園を卒業するまで待てなくて……!だから────」


 アーノルド様は一瞬ぶるりと体を震わせると、返事の代わりにそっと私の体を抱きしめ返してくれたのだ。


「嬉しいです、エトランゼ嬢。僕はいつでも────」


 そう言って、アーノルド様は私の顎をつまんだ。視線が重なり、私は意を決してこの気持ちを口にしたのである。





「伯爵家の皆さまで家族旅行がしたいんです!」




「へ?」




 憧れの家族旅行!もちろん実家でも家族旅行はしたことはあるが、父が旅行ではしゃぐなんてみっともないという考えだったし、領地視察ばかりで楽しく過ごした記憶はほとんどなかった。


 でも、セノーデン伯爵家のみんなとなら。


「もしお許しいただけるなら、弟のロナードも一緒に連れていきたいのですが……。それに実は異国の魔道具にもとても興味がありまして、是非作っているところをこの目で見学したいなって……。み、皆さまと知らない土地に行って美味しいものを食べて、わいわいしたら絶対に楽しいと思って……!


 本当なら旅行なんて大それたこと、卒業して結婚式を済ませてからだってわかっているんですが────」


 私は恥ずかしさと、とうとう言ってしまったという興奮で潤んだ目を向けた。





「お願いします、旦那様」


「………………!わ、っかりましたぁ……!!」





 アーノルド様はすぐに了承してくれた。なぜか天を仰いでいたが。詳細は後日に相談しようと約束をして、私はうきうきしながら自室に戻ったのである。






 深夜、アーノルドの部屋からブツブツと独り言とすすり泣く声が聞こえたらしいが、使用人全員が華麗にスルーした。

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ドンマイw(ノ∀≦。)ノアーノルド君w
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