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 王家主催のダンスパーティーではアーシャ様を守ってみせる。


 そう決意したものの、どうすればいいのかなんてすぐには思い付かなかった。アーノルド様たちは私のドレスアップをどうするかばかりを論議なさっていてアーシャ様の危機をわかっていないように見える。もちろん、アーシャ様ご本人も。


「あまり目立つ事をしては逆効果でしょうし、かと言って地味過ぎても伯爵家としての体面に関わってしまいますわよね……」


 私が深いため息をついていると、老執事のマートスさんが「それでしたら」とギルドに相談することを提案してくれたのだ。


「《《あの》》ギルドならば、大概の事はなんとかなると聞いております。エトランゼ様はこのセノーデン伯爵家の若奥様でいらっしゃいますから多少の事なら聞いてもらえるかと」


「ギルド……。それは名案だわ、マートスさん!実は他にも相談したいことがあるんです。セノーデン伯爵家の皆さまには内緒で……」




 私は最近考えていることがあった。


 私って……めちゃくちゃ愛されている。と。


 アーノルド様たちの褒め殺しは未だに慣れず恥ずかしいばかりだが、それが心地良いと感じている自分にも気付いてしまった。なによりも、本当に大切にされているのだと……。


 最初こそ、“金で買われた令嬢”だと思って最悪の未来を予想していた。だがそんなものはすぐに杞憂に終わったのだ。


 セノーデン伯爵家のみんなの優しさは本物だった。乾いて空っぽだった私の心にじわじわと染み込んでくるそれが、今は私の全てになっている気がする。


 ────私は、セノーデン伯爵家の家族になりたい。


 悪役令嬢だと教えられて、私の未来がこれからどうなるかなんてまだわからないけれど、アーノルド様と一緒ならばきっと大丈夫。そう思えるようになった。


 あんな、毎日のように愛を囁かれ続けて……全身で愛を伝えられて、なんとも思わない女がいるのだろうか?アーノルド様の側は心地良い。いつまでもこの愛に包まれていたい。……誰にもアーノルド様を奪われたくない。その想いは日々強くなっていく。自分がこんなに独占欲が強いだなんて今まで知らなかった。


 もちろん、ヒロインにだって負けたくない。アーノルド様の妻は私なのだから。


 だから、セノーデン伯爵家の皆さんに私の気持ちを伝えたかった。恥ずかしいけれど、ここで恥ずかしがっていたらいけない気がした。





 こうして私は秘密裏にギルドと連絡を取ることに成功したのだが、まさかのナイジェルがやってきたのには驚いた。


「ボスのお願いだって聞いたから」


 未だに私のことを「ボス」と呼ぶのはどうにかして欲しいとは思うけれど、ナイジェルが有能なのはわかっているのでありがたいとも思う。そしてアーシャ様の事とプレゼントの事を相談したのだが……。




「まぁ、異国の職人さんですか?“魔道具”なんて初めて聞きました」


「最近売り込みに来た職人なんだ。身元の確認はちゃんとしたし、商品の取り引きの権限は俺が持ってるんだ。だから旦那に報告しなくてもいいから内緒に出来るだろ?それに、これならボスのお望みを両方叶えられるかもと思ったんだ」


 しかし職人に発注となるとそれなりに料金がかかるという。それはもちろんだが、私の手持ちのお金では足りないとわかってしまった。ナイジェルはセノーデン伯爵家にツケとけばいいなんて冗談をいうが、それではダメなのだ。


「……じゃあ、私がギルドで働きます!ナイジェル、どうか私に仕事を斡旋してください!」


 一緒に話を聞いていたマートスさんが焦って止めようとしてきたがなんとか説得し、なぜか笑い転げているナイジェルに頭を下げた。


 こうして私はナイジェルがこっそり持ってきてくれた書類や納品リストの整理をしてお給金をもらい、そのお金で異国の職人さんに仕事の依頼を出すことが出来たのである。


 ただ、《《仕掛け》》の方にお金がかかったので、宝石は加工の際に出た欠片やクズ石しか使えなかった。なんとか試作品までこぎつけたところでアーシャ様にバレてしまったが、溶かした銀を使って出来る“金継ぎ”なる技術を教えてもらったおかげでブローチはなんとか完成した。異国の職人さんが“金継ぎ”を知っていたのもあってわずかな追加料金で加工を施してもらえたのだ。


 私とアーノルド様たちの瞳の色を表した宝石の欠片たちを繋ぎ合わせた蝶々のブローチ。さらに糸を引っ張れば、アーシャ様を自然に目立たなくして王子の関心から逃れられる仕様だ。


 これならきっとアーシャ様を守れるはずである。それに、瞳の色を表したお揃いのアクセサリーをみんなでつけているとなれば私を金で買ったと言われているセノーデン伯爵家の悪評も払拭できるはずだ。その“金で買われた令嬢”は、こんなに大切にされて幸せそうだと周りに見せつけるのも目的のひとつである。いつまでもセノーデン伯爵家を《《そんな目》》で見られるのは屈辱だからだ。


 こうして私は無事に目的を達した。



 他にも色々とあるけれど、とりあえずはパーティーを切り抜けてから相談しよう。アーノルド様ならきっと私の話をちゃんと考えてくださるとわかっているのだから。


 だって、私は悪役令嬢なのでしょう?一般的には、とてもわがままな令嬢の事をそう言うらしい。


 だったら愛されることに慣れて、少しくらいわがままになってもいいのかもしれない。なんだかその方がセノーデン伯爵家の人間は喜ぶような気がするからだ。それに、ほんの少しだがアーノルド様を振り回してみたい気もする。



 絶対に、離したりしないわ。



 執着だと言われればそうだろう。私はアーノルド様に……セノーデン伯爵家に執着しているのだから。



 あぁ、それにしても……ここに嫁いでから侯爵家にいた頃なら絶対に出来なかった経験ばかりをしているがそれを「楽しい」と感じてしまっている。労働してお金を稼ぐのもそうだが……。



 “魔道具”って、とっても面白そう。



 例の職人さんとは手紙でのやりとだけで細かい打ち合わせはナイジェルに任せていたので本人と会うことはなかったが、なんだか胸がドキドキした。自分の想いが形になるなんて、とても素敵だ。



 もし私が、“魔道具”に興味があるから異国へ行きたいって言ったら……その職人さんに会ってみたいと言ったら、アーノルド様は賛成してくださるかしら?







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