歌唱タイム
「――さて、あんまり文句ばっかり言っててもしょうがないしそろそろ切り替えるとして……じゃあ、どっちから歌う? 弥夢さん? 私? それとも……二人で一緒に?」
「……えっと、よろしければ三神さんからで……」
「……まあ、そう言うかなとは思ったけど。あと、最後のはほぼ間違いなく選ばないであろうことも」
ともあれ、話が一段落した後そんなやり取りを交わす僕ら。……うん、まあ分かるよね。どう見ても、真っ先に歌い出すタイプには見えないだろうし。
「……さて、やっぱり最初はこれかな?」
その後、慣れた手つきで機器を操作し送信をする三神さん。……あれ、ほんとに久しぶり? まあ、もちろん詮索するつもりもな――
「――それじゃあ、ちゃんと見ててよ弥夢さん。貴方のこと、すっかり虜にしてあげるから!」
「……ふふっ、楽しみにしてますね」
すると、ビシッとマイクを僕へ向け宣言をする三神さん。そして、そんな彼女が可愛らしく思わず声がもれてしまう僕。ふふっ、楽しみにしてますね。
「…………ふぅ」
「……とっても素敵でした、三神さん。あまりに可愛くて、思わず見蕩れてしまうくらいに」
「……へっ? あ、ありがと……」(……うん、意外とストレートにくるなぁ。この人)
それから、数分経て。
歌唱を終え、そっと胸に手を添え呼吸を整える三神さん。そして、そんな彼女へ率直な感想を伝える僕。……ところで、最後の方は何と……うん、まあいっか。独り言なら詮索するのもどうかと思うし。
ともあれ……うん、ほんとに可愛かった。いや、もちろんいつも可愛いんだけど、そんな彼女の魅力がいっそう溢れ――
「それじゃあ、次は弥夢さんだね」
「……へっ? 僕の番があるのですか?」
「……いや、なんでないと思ったの? カラオケに複数で来て、誰かのソロライブになったことある?」
「……まあ、そうですね」
一人でほのぼのとしていると、ふと僕にマイクを差し出し告げる三神さん。……うん、まあそうなるよね。ご本人が望むなら歓迎だけど、一人でずっと歌わせてしまうのは流石にちょっと申し訳ないし。
……でも、さてどうしようか。正直、最近の流行りとかもあんまり知ら……あっ、でもあれならうろ覚えだけど何とか――
「あっ、ちなみにだけど……私に気を遣って、無理に流行りの曲とかにしなくていいからね? 私は、弥夢さんが好きな曲を楽しく歌ってるのを聞きたいんだから」
「……三神さん」
すると、僕の心中を察したのか、じっと僕を見つめそう告げる三神さん。透き通る綺麗な瞳には、優しく温かな圧すらも感じられて……うん、ありがとう。
「……へぇ、意外と上手いね、弥夢さん。いや、ほんと意外だった」
「……ほ、ほんとですか……その、ありがとうごさいます」
それから、数分経て。
歌唱を終えた僕へと、ややあって称賛の言葉をくださる三神さん。目を大きく開いたそのお表情からも、どうやら社交辞令の類でなく本心から言ってくださっているようで……ほ、ほんとに? ……その、ありがとうございます。
「……ところで、弥夢さん。その、何というか……意外とストレートなラブソングだったけど、今のが歌いたい曲だったんだよね? あの、だとしたら……あっ、ううん何でも」
「……?」
すると、何かを尋ねようとするも自身で留める三神さん。彼女の言うように、僕が歌ったのはストレートなラブソングだったんだけど……でも、何を訊こうとしたんだろう? まあ、彼女自身が留めた言葉を詮索するなんて野暮なこともしないけど。
ともあれ、その後も交互に楽しく歌唱を。そして、時折デュエットなんてしたり……うん、ちょっと恥ずかしいね。ともあれ、開始からしばし経過して――
「ところで、なにかいります? 飲み物。ちょうど行こうと思っていたので、三神さんのも入れてきますよ?」
「ありがと、弥夢さん。でも、じゃあ私も行くよ。一緒に行こ?」
少し休憩、となった辺りでそっと立ち上がり尋ねてみる。すると、ゆっくりと立ち上がりお答えになる三神さん。……もしかして、気を遣ってくれてる? 僕の身体のこと。だとしたら、本当に申し訳ない。
でも、だとしたら本当に不要な心配で。その気持ちは申し訳ないしありがたいけど、実際に日常生活はほぼ支障なく行える。例えば、飲み物の入ったグラス二本を運ぶくらい全く問題ないわけで。……とはいえ、一緒に来るというのならもちろん拒む理由もないんだけど。
そういうわけで、それぞれグラスを手に談笑しつつ廊下を歩く。そして、角を曲がりドリンクバーのところへと――
「……っ!! 三神さん、こっちへ!」
「……へっ?」
瞬間、三神さんの手を取りさっと身を引く。というのも――
「……ねえ、美穂。今、何か聞こえなかった?」
「うん、そんな気がするけど……でも、気のせいじゃない? 何か聞こえた? 蒼那」
「……いえ、私は何も」
ほどなく、そんな会話が微かに届く。そして、身を潜めつつそっと視線を向けると……ドリンクバーの前にいたのは、友人の美少女たる蒼那さんを含む数人の女の子達で。




