祝福
「――改めてですが、本当におめでとうございます三神さん!」
「うん! 改めてだけど、ほんとありがと弥夢さん!」
それから、およそ三週間後の八月下旬。
空が黄昏に染まる頃、柔らかな陽が優しく差し込む空間にて祝福の言葉を送る僕。そして、そんな僕に満面の笑顔で答えてくれる可憐な少女。……うん、本当におめでとう、三神さん。
さて、今いるのは三神さんのお部屋。この度、全国大会にてめでたく優勝を果たしたことのお祝いをしているわけで。
ところで、とても楽しいこの状況なのだけども……実は、一つ懸念があって。というのも、めでたく優勝をはたした本日、チームのみんなで優勝をお祝いすべく食事をするお話があったとのことで。……まあ、それは当然そうなるよね。試合の日時は決まっているんだから、予定を空けておくことも難しくないだろうし。
だけど、三神さんは断ったとのこと。尤も、断ったと言ってもあくまで今日は、という意味で後日お祝いをする約束をしたとのことだけど……でも、今日じゃなくてよかったのかな、とは思う。だけど――
『――うん、申し訳ないとは思ったよ。……でも、私の中では最初から決めてたの。優勝の最初のお祝いは、絶対に弥夢さんと二人でするって』
数時間前、懸念を口にした僕に対し微笑み答えた三神さん。もちろんそう言ってくれるのは嬉しいし、僕も三神さんと一緒にお祝いしたいけれど、それでもやっぱり最初はチームのみんなと……いや、よそう。彼女自身がこう言っているのだから、これ以上僕がどうこう言っていいことじゃないし。そういうわけで、三神さんのお部屋にてしばし和やかに過ごしていると――
「…………あ」
ふと、ポツリと声が。というのも……隣にいた三神さんの頭が、僕の膝へとコトンと降りてきたからで。そして、スヤスヤと寝息を……まあ、そうなるよね。すっごく疲れてるだろうし。なので――
「……本当にお疲れさまです、三神さん。僕の膝で申し訳ないですが、ゆっくりお休みになってくださいね」
そう言って、躊躇いつつもそっと頭を撫でる僕。すると、ほどなく口元に微笑を浮かべる三神さん。僕が撫でたから……なんて、そんな馬鹿な思い上がりはしないけども……でも、よかった。僕のせいで悪夢を、なんてことになったら申し訳なさすぎるし。
「――今日も……ううん、今日はいつも以上にありがとね、弥夢さん」
それから、しばらくして。
星の瞬く空の下、玄関の扉の前にてそう告げてくれる三神さん。今日は指導もしていないので、僕としてはわりとほんとに何もしてないんだけど……でも、彼女自身の感謝の気持ちを僕が否定するのもおかしな話で。なので――
「……あの、三神さん。今まで、本当にありがとうございました。これからも、ずっと応援しています」
そう、頭を下げ感謝を告げる。……いや、何が『なので』なのか分からないけど……ともあれ、これで僕の役目は終わり。正直、少し……いや、すごく寂しいけど仕方がない。なにせ、彼女にとって僕はもう不要で――
「………ん、なに言ってるの?」
「…………へっ?」
ふと、呆気に取られたような声が。驚き顔を上げてみると、そこには声音に違わずキョトンとした表情の三神さんが。……えっと、いったいどう――
「……いや、本気で不思議そうな表情しないでよ。そもそも、知ってると思うけどまだ全然終わってないし、契約期間」
「……それは、そうですが……でも、三神さんはもう優勝して……」
「うん。むしろ、だからこそじゃない? つまりは、教え子を優勝に導いた名コーチってことでしょ? 弥夢さんは。なのに、三神側から契約の延長を打診することはあっても、解雇にするなんてあり得ないでしょ。来年もその先も、私はずっとバレーを続けていくのに」
「……三神さん」
すると、呆れたように微笑み告げる三神さん。……僕が名コーチだなんて、全く以て思っていない。どれほど自分を過大評価したとて、そんなことは到底思えるはずがない。
……それでも、結果だけを見れば彼女の言い分はご尤も――そして、教え子の彼女自身が僕をコーチとして評価してくれているのなら、評価を僕が否定するのもおかしな話で。なので――
「……それでは、不束かなコーチではありますが……今後とも、よろしくお願いします。三神さん」
「ふふっ、何それ。うん、これからもよろしくね、弥夢さん」
そう言うと、少し可笑しそうに答える三神さん。そんな彼女に、僕も微笑み頷いた。




