花火
「……あの、三神さん。今更ではありますが、本当にここでいいのですか?」
「ふふっ、ほんとに今更だね。あと、もちろん本当にいいよ。だいたい予想通りの感じだし」
それから、一時間ほど経て。
立ち止まり、そんなやり取りを交わす僕ら。さて、今いるのは広い土手の端の方――屋台の並ぶ道からも、花火が打ち上がる位置からもわりと離れているため、果たしてほとんど人はいないわけで。
ちなみに、今しがたの会話からお察しかもしれないけれど、この辺りを希望したのは三神さんで。僕自身も好きな雰囲気だし、そもそも彼女自身のご希望なので、もちろん僕としては異存なんてないのだけど――
「……まあ、言いたいことは分かるけどね。でも、こっからでも十分に見えるし……それに、花火自体はわりとどっちでもいいし」
「……?」
すると、僕の心中を察したようでそう口にする三神さん。まあ、確かにここからでも十分に見えるのでそこに疑問はないのだけど……でも、花火自体がどっちでもいいとはどういうことだろう? だって、そもそも花火を見るために移動をしたはずで――
「…………あっ」
そんな疑問の最中、隣からポツリと声が。そんな彼女の視線は、遥か遠くに広がる夜空――そこには、大きな音と共に鮮やかな大輪の花が広がって。
「……綺麗だね、弥夢さん」
「……はい、そうですね三神さん」
「…………あれ、続きは?」
「続き?」
ややあって、色とりどりに開く花々を眺めながらそんなやり取りを交わす僕ら。……ところで、続きって何のことだろ?
ともあれ、しばしぼんやりと夜空を見上げる僕ら。ふと隣を見ると、三神さんもまた偶然にもこちらを見ていて。色とりどりに光る空の下、柔らかに微笑む彼女があまりにも綺麗で思わず目を逸ら――
「……っ!!」
「……? どうかし……ああ、そういうこと。やっぱり誘われてたんだね、あの人にも」
「……あっ、その……はい」
刹那、呼吸が止まる。というのも……思わず背けた視線の先、そこには同世代の――以前、カラオケで見たあの女の子達で。そして、即ちそこには蒼那さんの姿もあるわけで――
……いや、まあ見られてもいいんだけど。蒼那さんはきっと驚き、そして三神さんとの関係を尋ねるだろうけれど……でも、あのカラオケの時もそうだったけど、僕らの関係を知られても三神さんとしてはこれと言って問題のないご様子。なので、後は僕の方なんだけど……うん、特にこれと言った支障もない。全てが報酬のためという、なかなかに後ろめたい動機だっただけに以前は言うのを躊躇ってしまったけど、かと言ってどうしても隠さなきゃいけないほどでもないし……それに、今は報酬だけのためというわけでもないしね。
……ただ、今は見られては困る理由が他にあって。というのも――三神さんの言った通り、実はこのお祭りにはそもそも蒼那さんも声をかけてくれていて。でも、そもそもその日は仕事の予定――なので、申し訳なくもお断りしてしまったわけで。まあ、仕事については話していないのだけれど……それでも、お誘いを断ったはずの僕がここにいるところを見られるのはやはり気まずいといいますか――
(……うん、よかった。先に手を打っといて)
「……ん?」
「ううん、何でも」
すると、隣からポツリと声が。でも、花火の音もあってか内容は全く以て聞き取れず……まあ、よくあることだけども。
その後、幸いにもこちらに気づくことなく遠ざかっていった蒼那さん達。そして、その後もしばし二人で夜空を彩る鮮やかな花々《はな》を眺めていた。
「――今日もありがと、弥夢さん。ほんと、めっちゃ楽しかった!」
「はい、僕もとても楽しかったです。こちらこそありがとうございます、三神さん」
花火の後、数十分が経過して。
三神家の前にて、和やかに挨拶を交わす僕ら。……うん、ほんとに楽しかった。このお祭りには今までにも何度か行ったけど、その中でもきっと――
「……ん?」
そんな感慨の最中、ふと控え目に僕の裾を掴む三神さん。そして、
「……来年も、一緒に行こうね。今日みたいにタコ焼きを食べたり、あーんしたり……一緒に、花火を見たり」
「……三神さん」
そう、じっと僕を見つめ口にする。……来年も、三神さんと……うん、それはとても楽しそうで、断る理由なんてどこにもない。なので――
「……そう、ですね。はい、是非とも」
少しの間の後、ゆっくりとそう口にする。来年も一緒に――ということは、その時もまだ彼女との縁が続いているということ。もちろん、それは本当に嬉しくありがたいことで。
――だけど……僕は、続けられているのかな。一年後という、近いようで遠いその時に……まだ、僕は彼女のコーチを続けられているのかな。




