95話 帰路
結局、何事も無く学生の現地実習も学者様の学術調査も終わった。
隔離されていたので、どんな事をしていたのかは分からないが後々この調査が何かの役に立ったり学生達がこの実習を活かしてくれればと思う。
それから再び乗合馬車にギチギチに押し込められ・・・るかと思ったが帰りは荷物も減っているので意外とゆったり座る事が出来た。
そして、最寄りの街でエレノアちゃん達とは別れ帰路についた。
宿に行くと御者さんは暇を持て余し過ぎて溶けていた。
曰く、暇すぎて散財しそうになっては我慢しての繰り返しで。後、数日遅かったらサイフが空になっていた自信があると語っていた。
「外ってやっぱ良いなぁ」
「だなぁ」
馬車の荷台にマットレスを敷き詰め寝転びながら空を見上げる。
と、言っても幌馬車なので後ろの方しか見えないが。
「ダンジョンの中ってやっぱ息が詰まるって言うか閉塞感があったな」
「だ・・・な・・・」
あぁ、エーリッヒが寝落ちした。
馬車は普通に座ってるとお尻も痛いし腰も痛い。背中も痛くなれば首も痛くなる。
降りた時にはもう全身バキバキになる。
でも、マットレスを敷いて寝転んでいると振動だったり揺れも心地よくなってきて眠りを誘ってくる。
「んー、俺も寝るかな・・・」
夜はしっかり寝ている。でも、なんで移動中っていうのはこんなにも気持ちよく寝れるのだろうか?
電車とか車の助手席とか眠くなくても直ぐ寝れる上に短時間のはずなのに長時間しっかり寝たくらいの充足感を得られる。
不眠症の人の為の寝台列車とかやったら人気出そうな気がする。
そんな事を考えているといつしか俺も眠りに落ちていた。
「おい、起きろ」
「んー?」
「いつまで寝てんだ」
「何かあったか?」
「そろそろ飯だ」
「そっか」
「だから、飯出してくれ」
「出来た訳じゃなのか・・・」
飯だと叩き起こされたのに。食べろって意味じゃなく作れと言われる理不尽。
これほどの理不尽は中々無いよな。と、思ったが、世の中のお母さんはそんなのが日常っぽい気がした。
ゆっくりと頭が起きて状況が掴めてきた。
時間帯的に昼飯時だ。でも、馬車は動き続けているから本格的な昼飯という訳ではない。
即ち・・・このバカが小腹空いて目が覚めて、その小腹を満たす為に起こされたのか・・・。
「って事だろ?」
「そうだな」
「水でも飲んでろよ」
「いや、簡単なので良いから」
簡単もクソも無い。アイテムボックスから出すだけだから俺の手間は何も変わらない。
「そろそろお昼にしますかー?」
「そうすっか!」
と、空気を読んだのか御者さんがお昼休憩の提案をしてきた。
エーリッヒは気に食わないが御者さんの顔を潰すのも忍びない。
渋々、起き上がり承諾した。
「どこか良さげな場所ありますか?」
「この先に開けた場所があったはずです」
「この辺り詳しいんですか?」
「2度目ですね」
「良くそれで覚えて・・・って、先月来た時にですか?」
「はい」
「来た時は逆からなのに良く覚えてますね」
「1度通った道はなるべく覚えるようにしています」
覚えるように意識しただけで覚えれたら皆覚えるだろうな。
しかも、逆から通った道を覚えるとか本当に凄い。
「あ、見えてきましたね。あの辺りでどうですか?」
「良いですね」
馬車を止め、馬の世話は御者さんに任せて俺は食事の準備を進める。
「何にするんだ?」
「お前は御者さんの方でも手伝って来いよ」
「えー・・・任せといた方が良くないか?」
「水出すくらいして来よ」
「確かに。行って来るわ」
エレノアちゃん達と接してる時はしかりしてたのに気が抜け過ぎじゃないか?
良い格好見せようと気を張ってた反動だったりするんだろうか。
テーブルを出し、椅子を並べ、食器を並べていく。
「1時間くらいは休みますよね?」
「そうですね。ちょっと疲れてそうなので」
1ヶ月しっかり休んでいたはずなのにもう疲れたのか。
預けていた所の世話が良くなかったのだろうか?
給水桶にポーションを少し垂らしたので疲れなら直ぐに回復するだろう。
もしどこか怪我をしているなら御者さんが気付くだろうし恐らくはこれで大丈夫だ。
時間もある事なのでアイテムボックスの中の料理は温存してこれから料理をする事にした。
まずは火を起こして鍋を掛けて湯を沸かす。
そこに適当に野菜や肉をぶち込み出汁と醤油と味噌で味を整える。
定義が良く分からないが、これが俺なりのなんちゃって豚汁だ。
認識としては豚肉の入った味噌汁が豚汁だけど、このなんちゃってに入っているのは猪肉だ。
豚と比べると脂が少なくて赤身の旨味が強い。その分、クセも多少あるが慣れると気にならなくなるし、そのクセがクセになる。
「スープだけか?」
「いや、肉も焼く」
「いいな」
本日のメニューはなんちゃって豚汁と猪肉の生姜焼き定食。ご飯はおかわり無料。




