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聖印×妖の共闘戦記―妖王乃書―  作者: 愛崎 四葉
第一章 宝刀使いと妖狐の再会
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第十九話 共闘作戦、開始

「失礼します」


 柚月は、九十九を狐に変化させ、月読がいる南堂へ入った。

 月読は、驚きもせず、ただ冷静に柚月と九十九を見上げた。


「お前達、なぜ、ここに来た。謹慎だといったはずだが?」


「母上、お話があります。どうか、聞いてください」


「……座れ」


 月読はため息をつく。柚月は、一礼して、月読の前に座った。

 南堂は静まり返っていた。

 月読は読んでいた文を閉じて、冷たい目で柚月達を見据えた。


「それで、話とは何だ?」


「母上、俺達にもう一度機会を与えていただけないでしょうか?」


「何?」


 月読の眉毛がぴくりと動く。謹慎だと言ったにもかかわらず、機会を与えてほしいなど、言えた立場かと思っているのであろう。

 柚月も自分の言動を考えれば、月読が静かに怒りを露わにするのは当然だ。だが、今は謹慎が解かれるのを待っているわけにはいかない。自分が招いた失敗を払しょくするには、怒られるのを覚悟してでも九十九を連れて、月読に懇願するしか道はないと考えたのであった。

 冷たい視線を向けられた柚月は、一瞬固まってしまうが、息を吐き心を落ち着かせた。


「……俺は、この妖狐の提案を拒否し、妖狐を一人で行かせてしまいました。それが、失敗の原因です。責任は俺にあります」


「ちょっと、待て、お前……」


「いいから、黙ってろ。気付かれるぞ」


 柚月は、黙らせるように九十九の頭を押さえる。九十九はまだ言いたげそうな顔をして、ジタバタと動くが、柚月は強引に押さえつけた。

 九十九は、他の人間に気付かれることよりも、九十九が余計なことを言うことを恐れたようにも思えた。

 だが、九十九も黙っていられなかったのだ。自分だって失敗の原因を作った。それなのに、柚月は一人で責任を負おうとしている。

 九十九はそんなことさせたくなかった。だが、頭を押さえられ、何も言えない。

 柚月は、話を強引に進めた。


「……だから、俺は考えを改めました。つまらない意地が、命取りになる。ならば、妖狐の提案を受け入れようと思うのです。どうか、お願いします」


 柚月は、頭を下げる。月読の答えを聞くまで頭を下げることはしない。

 九十九も月読の答えを待った。

 月読も、二人が自分の答えを待っていることに気付いており、ため息をついて、答えを出した。


「……駄目だ。お前達を謹慎としている。許されない失敗をしたんだ。当然だろう」


「母上!」


「くっだらねぇ理由だな」


「は?」


「何?」


 謹慎を解こうとしないことに九十九が怒り、突然話に割って入り前へ進み始める。柚月は、驚いてしまったため、九十九を止めることができず、月読は眉をひそめて九十九をにらんだ。

 だが、九十九は怖気づくことなく、月読に反論し始めた。


「くだらねぇって言ってんだよ。何が許されない失敗をしたからだ。だから、柚月が、取り返してやるって言ってるんだろ?機会の一つや二つ与えてやれよ」


「……ならば、再び失敗したときはどうするというのだ?次などないのだぞ」


「だったら、俺を処罰しろよ。てめぇの見込み違いだったってことにすりゃあいいだろ?」


「お前、勝手なことを……」


「謹慎中のこいつが、俺を連れててめぇのところに来たんだ。わかってやれよ!」


 九十九は柚月の気持ちを十分に理解していた。

 突然、自分の部屋に入り、月読のところに行くと言った時は、心底驚いた。柚月だけで行くならともかく、自分も連れていくというのは、どういう風の吹き回しかと。

 さらに、柚月と九十九は謹慎中だ。離れを出て、任務に出たいと申し出るのは、覚悟のいることだ。月読が、黙って許可をするはずがない。それでも柚月は申し出た。全ては自分の責任だと言って……。

 九十九は、それを月読にわかって欲しかった。だからこそ、九十九も、処罰を受ける覚悟で、月読に反論したのだ。

 月読は再びため息をつき、柚月と九十九を見据えた。


「柚月、九十九の提案で、妖に勝てると思っているのか?」


「……はい、勝てます。妖狐の提案を踏まえて、俺が妖を誘導し、仕留めます」


 柚月は月読の問いに真剣なまなざしで答える。もはや彼の眼に迷いがなかった。

 柚月の眼をじっくりと見た月読は、静かにうなずいた。


「いいだろう、お前達に機会を与える。だが、失敗したら、お前達二人を処罰する。いいな?」


「はい、ありがとうございます!」


 柚月は、頭を下げた。

 それに対して月読は、いつものごとく冷静だ。それでも、柚月は、許可をもらえただけでも十分うれしかった。

 二人のやり取りを見た九十九は、どこか誇らしげに笑っていた。



 夜になった頃、柚月は変装し、街中に入った。

 九十九も、狐に変化したまま柚月の懐に入り込み、誰にも姿が見えないように隠した。

 人がいない細い通りには言った二人は、街中の様子をうかがった。


「本当に、成功するんだろうな?それ」


「信用できないなら、やめるか?」


「いいや、やってやるよ。上等じゃねぇか」


 柚月の問いに九十九はやる気満々の様子で答える。柚月はふっと笑みをこぼし、再び街中の様子をうかがった。


 柚月の作戦は、以下の通りだ。

 まず、九十九は柚月の懐に隠れて姿を見せないまま妖気を放つ。

 人間に化けた妖は九十九のようにに気付き、探すであろう。様子がおかしい人間を二人で見つける。

 妖を見つけ次第、ゆっくりと妖を誘導する。人ごみの中で妖が正体を現せば、前のように混乱が起きてしまうだろう。妖を人気のない場所まで引き付けることで、人々の安全の確保をしようと考えた。

 柚月達は、一度都から出る。外であれば、聖印一族も人もいない。妖を討つには絶好の機会だ。

 妖が外に出たところを見計らって九十九が正体を明かす。となれば、妖も前のように正体を現すであろう。


 柚月と九十九は、人間に化けた妖を探るが、昨日と同様人が多い。あれほどの騒ぎがあっても、人がいるのは聖印寮が妖を退治してくれるという安心感のためであろう。どうやら妖を見つけ出すのは容易ではなさそうだ。

 柚月は通りを抜けて人ごみの中に紛れるようにして歩いた。


「どうだ?いそうか?」


「いや、いなさそうだ。そっちはどうだ?妖気を感じるか?」


「全然だな。まさか、逃げたのか?」


「いや、妖はお前を探していた。なら、まだいるはずだ。それに、結界の外に出てしまえば、都に入ることは不可能だ。結界がほころんでいない限りな」


「ああ、なるほど。けど、俺は入れるぜ。結界が張ってあっても」


「らしいな」


 妖は通常なら結界を張られたら都に入ることは不可能だ。だが、九十九はなぜか、その結界をすり抜けて侵入することができる。なぜ、そのようなことができるのか、本人ですらわからないようだ。

 人ごみの中を歩いていた柚月がふと立ち止まる。

 視線を感じたからだ。それも異様な視線を。

 柚月は、その視線の正体を慎重に探ると柚月をじーっと見ている男と目があった。


「柚月……」


「わかっている」


 男と目があった柚月は、わざと男とすれ違うように歩いた。九十九の妖気を妖に発見させ、誘導するのが目的だ。そのためには男に近づく必要があった。

 男は見事作戦にはまり、すれ違った柚月の後をついていく。

 柚月は人ごみに紛れないように人目につく場所を選んで歩き始めた。

 男も柚月の後を追う。男が自分を追うように歩いていることを確認した柚月は、静かに誘導する。

 妖が自分を見失わないように、誘導が気付かれないように……。


 柚月は突然、右へ曲がって、細い路地裏へ入り込む。

 男も柚月を追って、右へ曲がるが、柚月の姿はなかった。

 男はあたりを見回すと、そこへ現れたのは柚月ではなく、何と九十九だ。

 九十九は男と目が合うと、即座に走りだす。男は異様な笑みを浮かべて、九十九を追いかけた。

 九十九は細い路地裏を抜け、裏門を潜り抜ける。男も九十九を追いかけるように裏門を抜ける。

 だが、九十九はひたすら走り続ける。ガサガサと草むらをかき分け、森の中へと入る。

 男も九十九を異様な笑みを浮かべたまま九十九を追いかけた。



 男は、九十九を追いかけていたが、見失ってしまった。呼吸が乱れてもあたりを見回す。

 その時だった。ガサッと足音が聞こえ、男は、目を大きく見開いて振り返る。

 背後にいたのは、なんと妖狐の姿をした九十九であった。


「よう、待たせたな。会いたかったんだろう?俺に」


『見つけた、見つけたぞ!』


 異様な声を発した男は見る見るうちにがしゃどくろへと変化を遂げる。

 九十九も、笑みを浮かべて構えた。


「やっと、見つけたぜ。とっと終わらせてやる!」


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