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聖印×妖の共闘戦記―妖王乃書―  作者: 愛崎 四葉
第一章 宝刀使いと妖狐の再会
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第二十話 変化の兆し

 九十九は本性を現した妖と戦いを繰り広げていた。

 武器を所持していない九十九は、劣勢を強いられた。しかも、妖は柚月に斬り落とされた右腕が先が尖がっており、鋭利な刃物のように斬りつけることができる。

 妖は、九十九に襲い掛かるが、九十九は右腕で防いだ。


「くっ!」


 右腕に、激しい痛みが走り、攻撃を振り払って後退した。


「かってぇ!やっぱ、素手じゃ無理があるか……」


 妖の攻撃を受けた九十九の右腕は痣ができている。骨にひびが入ったようだ。手を動かそうとしたが、動きが鈍くなっていた。


――明枇さえありゃあよかったんだがな。けど、あの妖刀を持てるのは俺だけだ。柚月には持たせられねぇ。かといって、九尾の炎も使えねぇしな。


 九十九の武器である妖刀・明枇は、離れに置いてきた。

 九十九は狐に変化して行動しなければならなかったため、明枇を持ち歩くことはできない。柚月に持たせようとも考えたが、妖刀を持てるのは妖だけ。明枇が柚月を切り刻む危険性もあり、致し方なしに置いてくることとなった。

 九尾の炎も、森で使えば、たちまち聖印寮に気付かれてしまう。それでは、意味がない。

 対抗手段は、残されていなかったが、それでも、九十九は負ける気がしなかった。


「柚月が来るまでこいつと遊んでやるか!」


 九十九は武器がなくても、追い詰められても、好戦的だ。

 柚月が来ると信じているからであろう。

 九十九は、構え、再び妖と戦いを繰り広げていた。



「あいつ、どこへ逃げたんだ?」


 柚月は、九十九を探していた。

 実は柚月は、急きょ九十九に作戦の変更を告げていた。

 自分が細い道に入ったら、二手に分かれると。九十九が姿を現して、妖から逃げ、都の裏門から出るように指示していた。

 柚月は、他の裏門から出て、先回りし、妖を挟み撃ちにして追い詰めるという作戦であった。

 柚月と九十九はあの男が妖だとは感づいていたが、確信が持てなかった。そこで、九十九が一人になって現れたら、妖であれば、必ず追いかけるであろうと考え、急きょ二手に分かれて行動することとなった。

 だが、九十九はなぜか、都の外で合流するはずだったが、森の中へと逃げ込んでしまった。

 これには柚月も驚き、急いで妖と九十九を追いかけたが、見失ってしまったのであった。


――まさか、森の中へと逃げ込むとはな。あいつ、自分が妖を仕留めたかったのか?


 九十九が好戦的であるのは柚月も気付いている。だが、九十九が妖狐の姿を見せては問題だ。だからこそ、柚月が仕留める作戦となっていたが、よほど、妖と戦いたかったのか、人目につかない森へと逃げ込んでしまった。


――朧だったら、こういう時どうするんだろうな……。


 柚月は、瞼を閉じて、思考を巡らせる。

 だが、何も思いつかない。自分と朧は違う。朧は九十九を親友と思うからこそ、わかることがあり、自分では朧のように見つけ出すことは不可能だと気付かされた。


――どうすれば……。


 柚月は再び、思考を巡らせる。

 ふと、柚月は異様な気配に気付いた。妖気だ。しかも殺意に満ちた妖気であった。

 柚月は、この妖気を知っている。天鬼が九十九と戦った時に放っていた妖気だ。

 やはり、九十九はこの森のどこかで妖と戦っている。この妖気をたどれば、九十九を見つけ出せるだろう。

 柚月は、神経を集中させた。


――見つけた!


 九十九の妖気を探り当てた柚月は、駆けだす。

 他の妖が柚月に襲い掛かるが、柚月は容赦なく斬り捨てる。

 他の妖に構っている暇はない。急がなければならないからだ。妖と戦っている九十九の元へ……。



 柚月は、九十九の元へたどり着いた。だが、九十九は、右太もも、左腕を刺され、さらに、右の脇腹を斬られていた。

 先の戦いで九十九は右腕の骨にひびが入っている。

 普通の人間なら、立つことだけで精一杯であろう。九十九は、戦ってはいるが、追い詰められた状況であった。

 柚月は、妖が、九十九の喉を切り裂こうとしているのが見えた。


「九十九!」


 柚月は、銀月で妖の右わき腹を切り裂き間一髪で九十九の窮地を救った。妖は奇声を上げ、よろめきながら、後退した。

 柚月は、九十九の前に立ち、かばうようにして構えた。


「おせぇんだよ!」


「仕方がないだろ!お前が森になんか入るからだ!」


「こうするしかなかったんだよ!ここの方が誰にも気付かれずに済む…って、柚月、後ろ!」


 九十九は、叫ぶ。妖が柚月に迫ってきたからであった。

 柚月は、銀月で防ごうとするが、防ぎきれず、右肩を切り裂かれた。


「っ!」


「す、すまねぇ!」


「黙ってろ。あとは、俺がやる」


 柚月は、右肩を押さえていた手を放し、意識を集中させる。柚月の右腕に刻まれた聖印が光り、柚月が光の刃と化する。柚月は、異能・光刀を発動した。


『やはり、お前は厄介だな。ならば……』


 妖は、自分の左腕を斬り落として、刃と化した。

 二本の腕が同時に柚月に迫りくる。柚月は、左手で左腕をはじき、さらに、右腕をつかむ。妖に隙ができ、柚月は突きを放った。


『ちっ!』


 妖は、右肩を刺され、よろめく。柚月から強引に離れ、体制を整えた。

 柚月に傷一つ付けることができない妖は、形勢逆転となり、追い詰められた状態となった。


『こうなれば……』


 妖は、妖気を放ち、柚月達の目の前から逃げ切ろうとしていた。


「逃がすかよ!」


 九十九は柚月よりも早く妖が逃げることに気付き、これまでみせなかった素早い反応で妖に迫り、妖をとらえた。両腕をとらえた九十九は手から血が流れていた。


「九十九!」


 妖は、九十九から逃れようともがく。その度に、九十九は手を傷つけられ、血が多く流れた。

 それでも九十九は依然として妖から手を放そうとしなかった。


「行け、柚月!」


 九十九が叫ぶと、柚月は、霞の構えをとる。そのまま柚月は、九十九と妖に向かって突っ込むように走り始めた。

 刀が骨を貫く嫌な音が九十九の耳に入ってくる。だが、九十九は驚いていた。柚月は、なんと、妖の額を貫いていたからだ。それも正確に。

 妖は、もがいて刀から逃れようとするが、柚月は決して抜くことはない。

 銀月が光り始めた。柚月は、銀月天浄を発動する。光の刃となった銀月を持ちかえて、柚月は振り上げた。

 頭部を切り裂かれた妖はそのまま倒れ、跡形もなく消え去った。


「相変わらず、容赦ねぇな」


「相手は妖だ。情けをかける必要がない」


「こえぇ奴。けど、別に額じゃなくても、首を狙えばよかっただろ?がしゃどくろの弱点は首と額なんだし。わざわざ、あんな高いところ……」


「銀月を発動するのに、お前が邪魔だった。だから、額を刺しただけだ」


 柚月は、九十九の問いに答えながら、銀月を収めた。

 今回の柚月の行動は、九十九を怪我させないための考慮にも思える。だが、柚月はそうは思いたくないからあのような発言をしたのであろう。

 九十九はそのことを理解しているため、あえてその言葉をそのまま受け取ることにした。


「そういうことにしといてやるか」


「行くぞ」


「どこに?」


「母上に報告だ」


 柚月は九十九に告げて、都へと戻る。九十九も何も言わずに、柚月についていくように歩き始めた。



 柚月と九十九は、月読に妖を討伐したことを報告した。

 その結果、月読は今回の処罰はなしと二人に告げた。

 妖との戦いでけがを負った柚月達は治療を月読に施してもらい、体を休めた。

 こうして、二人の共闘は、成功したのであった。



 妖を討伐してから、一日がたった。

 朧の怪我も、だんだん治ってきているようで休んでいた朧は、起き上がれるようになった。

 柚月と朧は再び、共に食事を取ることができるようになり、朧はうれしそうだ。

 朧が回復してきていると知った柚月もまた嬉しそうであった。


「朧、怪我の方はどうだ?痛むか?」


「ううん、治ってきてるからもう痛くないよ。ありがとう、兄さん」


 朧はいつものように満面の笑みを見せる。

 柚月は朧の笑顔に癒され、それと同時に朧を必ず守り通すことを誓ったのであった。

 料理を半分残した朧は膳を持ちあげて立ち上がった。


「これ、九十九にあげてくるね」


「待て、朧」


「ん?」


 柚月に呼び止められ、朧は立ち尽くしたままとなった。

 柚月は、言いにくそうな顔をしていたが、降参したかのように語り始めた。


「……あいつ……九十九にここに来るように言っておいた。そのうち来るだろう」


「え?」


 朧は驚く。今、柚月は九十九の名を呼んでいたのだ。しかも、この部屋に来るようにも言ったと。それは、柚月が九十九にこの部屋に入ることを許したということになる。

 朧は、何が起きているのかわからなかった。

 すると、足音が聞こえ、朧は、振り返ると部屋の前に九十九がいたのであった。


「九十九!」


「よう」


 九十九を見た朧は嬉しそうに呼ぶ。九十九も手を上げて朧に軽く挨拶をした。

 柚月は九十九に対して不愛想なままであった。


「遅いぞ」


「おそかねぇだろ。そりゃ、ちょっとのんびりとはしてたけど。で、なんだ?」


「……朧が、料理をお前にあげたいそうだ。食べるか?」


「兄さん……」


「……遠慮なくいただいてやるよ」


 九十九は、朧の隣に座る。朧は、膳を九十九の前において、どうぞと渡した。

 料理を差し出された九十九はおいしそうに料理をほおばる。柚月は何も言わず、静かに料理を口に運んだ。

 部屋の中はいつものように静かだ。だが、こうして三人が食事をとれるようになった。

 それだけでも、十分良い変化だ。朧はうれしくて思わず笑みをこぼしていた。



 時間が立ち、空に星が出始めた頃であった。

 九十九は星空を見上げたが、その目はどこか寂しそうな目をしている。

 星を眺めていると足音が聞こえ、九十九は振り向いた。

 九十九の背後に柚月がいた。


「やはり、ここにいたか……」


「おう、なんだよ」


「お前に、言っておきたいことがあってな」


 柚月を見た途端、九十九は寂しさを隠すようにいつもの挑発的な表情を見せる。

 柚月は、表情を一つ変えず、冷酷な顔を九十九に見せて、歩み寄り、九十九の隣に立った。


「お前と共に戦うことは了承した。共に暮らすこともな。だが、それはお前を利用するためだ」


「そういうことか」


 柚月はやはり、九十九を許したわけではなかった。

 九十九は不思議でならなかったのだ。柚月がなぜ、自分と戦うことを決意したのか、なぜ、部屋に呼び寄せて共に食事をとらせたのか。許されるはずがないと思っていた九十九にとっては、戸惑うばかりであった。

 だが、先ほどの言葉を耳にして、九十九は納得した。

 納得したからこそ、九十九は挑発的に柚月に言葉を返した。

 柚月は、九十九の挑発に乗ることはせず、淡々と語った。


「……天鬼を殺した後、俺は……お前を殺す」


「いいぜ、やれるもんなら、やってみろよ」


「……そうさせてもらう」


 柚月は九十九に宣戦布告とも言える言葉を告げた。九十九も、柚月を挑発するように受け取る。

 九十九に告げた柚月はそのまま九十九に背中を向けて立ち去った。

 九十九も、振り返ることはせず、星空を見上げた。再び寂しそうな目で……。


――そうだ。それでいい。俺を憎め。俺を憎んで……俺を殺せ


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