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聖印×妖の共闘戦記―妖王乃書―  作者: 愛崎 四葉
第十章 頂点に立つ妖王
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エピローグ 旅立ち

 妖王・天鬼が、討伐されてからというもの、聖印京は、平和を取り戻したように見える。

 復興も進み、活気を取り戻していった。

 だが、彼を討伐した柚月と九十九は、行方不明となった。

 彼らを帰りを待っていた人々は、一向に彼らが戻ってくる気配がなかった為、隊士達が、獄央山へ、向かったのだ。

 だが、獄央山の洞窟は、崩れており、彼らは見つからなかった。

 ありとあらゆるところを探してもだ。

 今も捜索しているが、未だ見つかっていない。

 それから、二年の月日がたった。


「姉さん……行ってきます。もう少しだけ、これ、貸してね」


 朧は、姉の墓の前で、そう、告げる。

 そして、椿の愛刀であった紅椿を手にし、荷物を肩にかけて、歩き始めた。

 あれから、朧は、自分を鍛えた。

 柚月と九十九を探す旅に出るために。

 たった一人で。

 本当は、二年前に、旅立ちたかった。

 だが、彼は、まだ、幼い。

 それに、呪いが解けたばかりだ。

 勝吏や月読、そして、綾姫達からも反対された。

 そのため、朧は、自分を鍛え上げ、強くなった時に、旅立とうと決意したのだ。

 少しだけ、大人びた朧は、討伐隊に所属し、妖を討伐する日々が続いていた。

 だが、おびえた妖をむやみに、討伐せず、逃がしてやることも多かった。

 それは、彼の優しさであるが故であろう。

 だが、彼だけでなく他の人々も、妖を受け入れつつある。

 聖印京は、変わっていこうとしているのだ。

 だが、問題は、山積みだ。

 襲ってくる妖もいる為、戦いは、まだ終えていない。

 彼の支配から解けた一部の妖達は、人間との共存を望んでいるともいう噂もある。

 だが、まだ、妖におびえる人々もいる。

 妖によって家族を奪われた悲しみや憎しみは、簡単に消す事は、難しい。

 心の傷が癒えるのは、まだ時間がかかるかもしれない。

 それでも、朧は、信じていた。

 いつの日か、人間と妖が共存できる日が来ると。

 柚月と九十九が、願った日が来ると。



 鳳城家の屋敷を出た朧は、本堂にたどり着いた。

 そして、部屋にいる勝吏と月読に挨拶するため、部屋に入った。

 勝吏と月読は、朧を迎え入れ、朧は二人の前に座り、一人で旅に出る事を報告した。


「そうか……行くのか」


「はい」


「……だが、隊士達が、柚月と九十九を探している。それでは、駄目なのか?」


「……どうしても、見つけたいんです。兄さんと九十九を」


 月読が言いたいこともわかる。

 旅に出るという事は、危険が迫る可能性もある。

 朧は、たった一人で行こうとしているのだ。

 もし、何かあったらと思うと、気が気でないのであろう。

 だが、朧の決意は固い。

 そう言うところは、柚月にそっくりだ。

 やはり、兄弟なのであろう。

 柚月に見せてあげたいくらいに。


「そうか、なら、もう止めはしない。行ってくるといい」


「はい、ありがとうございます、母さん」


「たまには、ここに帰ってくるんだぞ」


「はい、父さん」



 勝吏と月読に分かれを告げた朧は、本堂を出る。

 本堂の入り口で虎徹が待機していた。

 朧に会うために。


「よう、朧」


「あ、虎徹様……じゃなかった。師匠」


「うん、よろしい」


 虎徹は、朧の師匠となった。

 前まで、「虎徹様」と呼んでいた朧であったが、柚月同様、「師匠」と呼ばされることとなった。

 だが、朧は、未だ、「師匠」と呼ぶことに慣れていない。

 虎徹に、指摘される前に、言いなおす癖ができてしまったほどだ。

 だが、そのやり取りもほほえましい。

 当分できないのだと思うと、少し、寂しく思う虎徹なのであった。


「行くんだな」


「はい。あ、でも、綾姫様達にご挨拶してから行きます」


「そうか……」


 やはり、朧の決意は固い。

 行くと聞かされていた時から、虎徹は、行かせたくなかったため、説得を試みたものの、彼が揺らぐことはなかった。

 ついに、虎徹は、承諾したのだ。

 朧の想いを感じ取り、彼に柚月と九十九を託そうと決意して。


「でもなぁ、可愛い子には旅をさせよと言うが……寂しくなるなぁ」


「たまには、帰ってきます。父さんにもそう言われましたし」


「そりゃあ、そうさ。勝吏は、人一倍の寂しがり屋だからな」


「そうでしたね」


 朧は、噴き出して笑ってしまう。

 確かに、勝吏も、相当、反対されたものだ。

 それでも、最後まで、朧の決意を変えることはできなかった。

 その時の勝吏は、涙を流していた。

 とても、寂しそうに。

 だからこそ、たまには、帰ってこいと言ったのであろう。

 朧も、勝吏の性格をわかっているからこそ、あの時、うなずいた。

 たまには、帰ってこないと、勝吏や月読が寂しがるだろうからと。


「あ、師匠。僕がいない間、妖をいじめちゃ駄目ですからね!」


「はは。わかったよ。お前さんは、柚月より上手だなぁ」


 朧にさらりと忠告されてしまった虎徹。

 九十九によって助けられたことで、妖に対する考えは、改まったものの、幼い妖達を見るとついついからかってしまうようだ。

 柚月のように。

 そのせいで、朧達は、妖達に警戒されたことがある。 

 そうならないようにと思って、忠告したのだろう。

 あの真面目な柚月なら、到底できない事だ。

 もし、柚月や九十九がこんなやり取りを見たら、驚くであろうと虎徹は、思っていたのであった。


「行ってきます、師匠」


「ああ」


 朧は、虎徹に別れを告げて去っていった。



 朧は、蓮城家を訪れる。

 景時に会うためだ。

 景時の部屋には、景時、透馬、天次がいた。

 朧は、景時達の前に座り、旅に出ることを告げた。


「そう……朧君、行っちゃうんだね」


「さみしい……おぼろがいなくなるの……」


 天次は、寂しそうな表情を見せる。

 朧は、天次と仲良しだった。

 景時が、嫉妬するほどに。

 だからこそ、別れを惜しんでいるのであろう。

 天次の気持ちは、朧にも痛いほど伝わっていた。


「うん、ごめんね、天次。でも、天次も、兄さんと九十九に会いたいでしょ?」


「うん!あいたい!」


「見つけたら、すぐに会わせてあげるからね!」


「うん!まってる!」


 天次は、元気よくうなずく。

 朧は、よく柚月と九十九の話を天次に聞かせていた。

 だから、天次も彼らに会いたがっていたのだ。

 朧に諭された天次は、朧が、柚月と九十九を見つける時が来るのを待ち望んでいるかのように、微笑んでいた。


「けどさ、朧。本当に、一人で行くのか?俺達も一緒に行きたいんだけど……」


「そうだよ~?僕達だって探しに行きたいよ~?」


 景時と透馬は、朧の身を案じて、一緒に連れてってほしいと再度懇願する。

 朧が、旅に出ると聞いた時、二人は、何度も、一緒に行きたいと懇願したのだが、それでも、朧は、断った。

 彼らも、柚月と九十九を探しに行きたい。 

 何より、朧を一人で旅立たせるのは、心配だったからだ。

 旅の道中は、何があるのかわからないのだから。

 共に行けば、その心配も、少しは解消されるであろう。

 だが、朧は、断り続けたのであった。


「駄目だよ。透馬は、鍛冶職人になるんでしょ?先生だって、ここを離れたら、誰が、病気を治すんですか?みんな、先生の事、頼ってるんですよ?」


「そ、そうなんだよね……」


「まぁ、そうなんだけどさ」


 景時は、医者である。

 それも、優秀な医者だ。

 誰しもが、景時を頼っているのだ。

 かつての朧と同じように。

 そのため、もし、彼が、聖印京を離れてしまっては、皆が、不安がってしまうだろう。

 それほど、景時は、彼らにとってなくてはならない存在なのだ。

 透馬も、今は、天城家の屋敷に戻って修行している。

 立派な鍛冶職人になるために。

 そのため、朧は、邪魔をしたくなかった。

 彼には、鍛冶職人になって、自分の宝刀を作ってほしかったから。


「それに、もし、僕がいない間に、兄さん達が帰ってきたら、教えてほしいんです。それに、二人は、次期当主。ここを離れるなんて言ったら、反対されますよ?」


「そう来たか……。そう言われると何も言えなくなるんだよね……」


「そうそう。本当、朧には、適わないよなぁ」


 もちろん、それだけが、理由ではない。

 景時と透馬は、次期当主。

 もし、彼らに何かあっては、一族にとっては、困るのだ。

 それに、朧は、巻き込みたくなかった。

 旅は、困難となる可能性だってある。

 彼らを傷つけたくない一心で、朧は、一人で旅立とうと決意したのだ。

 朧に諭された二人は、何も言えなくなり、ついには、観念した。

 やはり、朧の決意を変えることはできないようだ。


「本当に、ありがとうございました」


「気をつけてね」


「絶対、戻ってこいよ」


「うん」


 景時、透馬、天次に別れを告げて、朧は、蓮城家を去った。



 最後に、訪れたのは、千城家だ。

 綾姫と夏乃に、旅立つ事を告げるために。

 綾姫の部屋に案内された朧は、綾姫と夏乃に会い、腰かけて、旅立つ事を告げた。


「そう、行くのね」


「はい」


「本当に、一人で行かれるのですか?」


「はい」


 やはり、ここでも同じ質問をされてしまう朧。

 皆、朧の身を案じているのだ。

 朧が、一人で旅立つと言った時は、誰しもが反対したぐらいなのだから。

 それでも、朧は、一人で行くと決め、彼らは観念したように承諾した。

 綾姫も夏乃も。

 夏乃の質問に対して、うなずいた朧を見た綾姫と夏乃は、やはり、朧の決意は、帰られない事を悟り、それ以上は、尋ねることも反対することもしなかった。


「絶対に、見つけてきますから、待っててください」


「ありがとう、朧君」


 見つけると宣言した朧。

 綾姫は、微笑み、うなずいた。

 柚月と綾姫が愛し合っている事を知っている朧は、綾姫の為にも、必ず、見つけようと心に決めているのだ。

 もう一度、柚月に会わせたいと願って。


「あーあ、本当は、朧君についていきたかったのになぁ」


「そ、そうですね……ですが……」


「わかってるわ。ここを守るのが、私達、千城家の務め。柚月達が帰れるように、守らなきゃ」


「はい」


 やはり、綾姫は、大胆不敵なお姫様だ。

 姫と言う立場であるにもかかわらず、朧の旅についていきたいというのだから。

 だが、夏乃も今回は、綾姫と同意見のようだ。

 夏乃も、柚月と九十九に会いたい。

 だが、綾姫は、千城家の姫君。

 結界を張り、ここを守らなければならない。

 今は、まだ、その役目は来ていないが、いつか来るはずだ。

 そのため、綾姫と夏乃は、ここに残り、柚月と九十九が帰ってこれるよう守る事を決意した。


「頑張るのよ、朧君」


「旅の無事をお祈りしています」


「ありがとうございます」


 綾姫と夏乃に別れを告げた、朧は、千城家の屋敷を出る。

 いよいよ、旅立ちだ。

 向かう先は、獄央山と決めている。

 自分の目で真実を見る為に。

 朧は、聖印門の前に立つ。

 緊張しているのか、心臓が高鳴りそうだ。

 朧は、深呼吸をし、心を落ち着かせた。


「よし、行こう!」


 朧は、聖印門を潜り抜けて、外へ出た。


――必ず、見つけるよ。兄さん、九十九。僕が……必ず!


 こうして、朧は、旅立っていった。

 柚月と九十九を必ず見つけると誓って。

聖印×妖の刀戦異聞録は、これにて完結です。

ご愛読ありがとうございました。


ですが、まだ終わりません!

いや、終わらせません(笑)

続編やります!

なので、皆さま、引き続きよろしくお願いします。

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