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聖印×妖の共闘戦記―妖王乃書―  作者: 愛崎 四葉
第十章 頂点に立つ妖王
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第百五十話 二人の帰る場所

 その数は、百匹以上はいるだろか。

 柚月と九十九は、これまで、大群の妖と対峙し、討伐してきたが、今までとは、比べ物にならないほどの数だ。

 動けば、一瞬にして取り囲まれるかもしれない。

 それに、援護してくれていた綾姫達は、ここにはいない。

 この大群をたった二人で、討伐し、進まなければならないのだ。

 そうしなければ、自分達が戦わなければ、この大群の妖は、聖印京へ向かってしまうかもしれない。

 いや、おそらくは、自分達が、ここへ目指していた間、大群の黒い妖達が、聖印京へ向かっていた可能性もある。

 もはや、後戻りなどできない。

 しかし、生き残れる保証もなかった。

 

「どうするんだ?この数。さすがに、二人は、辛いぞ?」


「それでも、やるしかないだろ。嫌なら、逃げてもいいんだぞ?」


「誰が、逃げるかよ」


 九十九の質問に対して、憎まれ口を叩く柚月。

 だが、九十九は、逃げるつもりは毛頭ない。

 それどころか、喜んでいるようにも見える。

 九十九は、元々好戦的な性格だ。

 これだけ多くの妖達を殺せると思うと血が騒いでいるのだろう。

 彼の表情を見た柚月は、半ばあきれていた。

 この状況だというのに、笑っているのだから。

 だが、たくましくも、心強いとも思える。

 勝利が、確信できるほどに。

 柚月と九十九は、鞘から刀を抜き、構えた。


「全部、ぶっ殺す」


「ああ、そのつもりだ」


 二人は、そのまま、大群の妖の中へと突進するかの如く、走りだす。

 それに反応した黒い妖達も、一斉に二人に襲い掛かっていった。



 朧は、鳳城家の離れでたった一人、聖印京で柚月と九十九の無事を祈っていた。

 あんなに賑やかだった離れは、静かだ。

 それだけで、心苦しくなってしまう。

 不安に駆られそうになるほど。

 二人が、聖印京を出てから、長い時間がたった。

 もう、二人は、たどり着いているのだろうか。

 無事なのだろうか。

 考えることは、そればかりだ。

 あの天鬼を討伐するというのだ。

 熾烈な戦いとなることは、朧も目に見えている。

 あの二人ならと、信じているのだが、二人を身を案じていた。


――兄さん、九十九……。


 今は、無事を祈るしかない。

 そう、朧は、自分に言い聞かせていた。

 不安を無理やり、拭い去るように。

 だが、その時だった。


「大変だ!あの黒い妖が、こっちに来てるぞ!」


「!」


 黒い妖が、迫ってきていると聞いた朧は、居てもたってもいられず、離れを出て、裏門へと向かう。

 真実を確かめるため、朧は、勢いよく裏門を開けた。

 だが、現実を目の当たりにした瞬間、衝撃を受け、立ち止まってしまった。

 

「あ、あれは……」


 今、朧の目に映っている光景は、ひどく、残酷だ。

 大群の黒い妖が、聖印京へと迫ってきている。

 しかも、取り囲むように。

 なんと、黒い妖達は、聖印京を包囲しようとしていた。



 黒い妖達の事は、本堂にいる勝吏と月読の耳にも届いており、唖然としていた。


「こうも早く来てしまったとは……」


「勝吏様……二人は……」


「……今は、信じるしかないだろう」


 聖印京の事も、心配であるが、何より、柚月と九十九の事が気がかりであった。

 彼らは、自分達以上に、過酷な状況に違いない。

 だが、それでも、二人を信じて待つしかない。

 彼らなら、天鬼と討伐できると……。


「私達は、信じて待つ。そして、二人の帰る場所を守る!それだけだ!」


「はい!」


 勝吏は、決意を新たにする。

 自分達のできることをやるために。

 柚月と九十九を信じて、聖印京を守るために。

 月読もうなずき、勝吏についていくことを決意した。


「月読、全隊士に告げよ!警戒態勢に入れと!」


「はっ!」


 勝吏に、命じられた月読は、急いで本堂を出た。


 月読に命じられた隊士達が、一斉に、外に出て、聖印京を守るように、構えている。

 結界が、張ってあると言えど、破壊されてしまうかもしれない。

 黒い妖達の力は未知数だ。

 どうなるか、誰にも分らない。

 警護隊、討伐隊、密偵隊、陰陽隊が、妖の前に立っている。

 聖印京を守るために、一丸となって。


――信じなきゃ!兄さんと九十九は、絶対に帰ってくるって!だから……。


 隊士達を見た朧は、決意して、懐から、札を取り出す。

 今、自分にできることは、二人を信じて待つばかりではない。

 二人の帰る場所を守る事だ。


――僕も、ここを守る!


 朧は、構えた。

 必ず、聖印京を守ることを誓って。



 柚月と九十九は、大群の黒い妖達と死闘を繰り広げていた。


「せやっ!」


「おらっ!」


 迫りくる妖達を次々と切り裂いていく二人。

 幸い、ここにいた妖達は、自分達が思っていたほど、強くないらしい。

 と言っても、数が多すぎる。

 噛みつかれ、斬られ、傷を負っていく。

 だが、斬った妖の血が飛び散り、顔にかかろうとも、何度も傷を負おうとも、構わず、刀を振り続けた。

 柚月が、真月輝浄と八雲聖浄を同時に発動し、九十九が妖気を放って、妖達を吹き飛ばすように、倒していく。

 ここで、ようやく、妖達が減ってきたのを感じ取り、後退して、妖達と距離をとった。


「だいぶ、やったんじゃねぇの?」


「なんとかな……。だが……」


 柚月と九十九は、あたりを見回す。

 確かに、減ってはいるものの、ようやく、半分は、倒したと言ったところであろう。

 大群の妖が立ちはだかっていることには変わりない。

 気が遠くなりそうだ。

 終わりの見えない戦いのように思えてきた。


「まだ、半分くらいは残ってるみてぇだな……」


「そうだな……」


 柚月は、一呼吸し、心を落ち着かせる。

 九十九は、明枇を肩に担いで、威嚇しているようだ。

 すぐさま、二人は、妖の群れへと突っ込んでいく。

 だが、先ほどと比べて、確実に疲労はたまってきている。

 このまま長期戦には持ち込みたくない。


――やっぱ、やるしかねぇか。


 九十九は、ある覚悟をしていた。 

 だが、柚月は、気付いていた。

 九十九が何をしようとしているのかを。


「九十九」


「なんだよ」


「お前、九尾の炎を発動しようと考えてないか?」


「……だったら、どうしたんだよっ!」


 九十九は、薙ぎ払いつつ柚月の質問に答える。

 それも、否定せず。

 やはり、九十九は、九尾の炎を発動しようとしているようだ。


「それだけは、させないからなっ!」


「やるしかねぇだろっ!」


 柚月も、妖達を薙ぎ払うように、斬りながら、九十九を止めようとする。

 大群の妖を、九尾の炎で燃やし尽くそうとすれば、どれほどの命を削るか、一目瞭然だ。

 そんなことさせるつもりはない。


「長期戦に持ち込みたくねぇんだよ。いい加減、腹くくれ!」


「断る!」


 このまま戦い続けても、終わりは見えてこない。

 最悪の場合、天鬼にたどり着く前に、殺される可能性だってある。

 ならば、確実にこの妖達に勝利する方法は、九尾の炎で一斉に燃やし尽くすことだ。

 もはや、それしか手段はない。

 そう、考えていた九十九は、自分の命を犠牲にすることをためらわず使用しようとしている。

 それでも、柚月は、使わせようとはしなかった。


「……失いたくないんだ。お前を」


 柚月は、九十九を失いたくないから、止めていた。

 いくら、切り札だと言えど、九十九を犠牲にして得た勝利など欲しくない。

 二人、そろって聖印京に帰還しなければならない。

 それは、朧との約束であり、自分に対する誓いでもあった。

 彼の想いを聞いた九十九は、言葉が出てこなかった。


「おおおおおおっ!」


 柚月は、雄たけびを上げて一気に妖達の中へと突進する。

 傷を負った体に鞭を打ちながら。


「馬鹿やろう……」


 柚月の想いを知った九十九は、九尾の炎を発動する事をためらってしまう。

 以前の九十九なら、ためらわず、制止されても使用しようとしただろう。

 だが、真実を知った柚月は、二度と九尾の炎を使わないようにと忠告していた。

 それでも、いざという時、九十九は、覚悟を決めていたのだ。

 柚月に恨まれても、九尾の炎を使用することを。

 それなのに、柚月は、自分を迷わせる。

 ただ、柚月を助けたいだけなのにと。

 どうするべきなのか、九十九は、迷っていた。

 だが、その時だ。


「っ!」


「柚月!」


 柚月は、妖にかみつかれてしまう。

 柚月の妖を振り払おうと、刀を振るう。

 だが、その隙を逃さなかった妖達が、一斉に柚月にとびかかかっていった。


「うおおおおおっ!」


 危機に陥ろうとしている柚月を目撃した瞬間、九十九は、雄たけびを上げる。

 そして、ついに発動させてしまった。

 九尾の炎を。

 九十九の命を削って。


「やめろ!九十九!」


 柚月は、制止して叫ぶ。

 それでも、九十九は、止めない。

 九尾の炎を発動し続け、一気に妖達を燃やし尽くした。

 妖達は、一瞬で灰となり、その場に残ったのは、柚月と九十九のみとなった。

 柚月と九十九は、荒い息を整えるように、呼吸を繰り返している。 

 二人は、辛くも、大群の妖達に勝利した。


「くっ!」


「九十九!」


 命を削ったせいか、九十九は苦悶の表情を浮かべ、胸をかきむしるように抑え、うずくまる。

 柚月は、九十九の元へ駆け付け、支えた。


「なぜ、九尾の炎を使った!そんなことをしたら、どうなるかわかってるだろ!」


「わかってるよ!けど、俺も同じなんだよ!お前を失いたくねぇんだ!」


「九十九……」


 九十九の想いも同じだ。

 柚月を失いたくない。

 だからこそ、九尾の炎を発動したのだ。

 自分の命を犠牲にしてでも、守りたいものがあった。


「すまない……。ありがとう……」


「おうよ」


 九十九に助けられた柚月は、九十九に謝罪し、お礼を言う。

 九十九は、にっと笑って、うなずいた。


「ほら、これ、使えよ」


 九十九は、懐から月読から渡された回復術が込められた石を取り出し、柚月の傷を癒した。


「ありがとう。そういうお前も使ったほうがいいぞ」


 柚月も、同様に懐から石を取り出し、九十九の傷を癒す。

 彼らは、決して自分の為に使用したことは一度もない。

 必ず、お互いの傷を癒していったのだ。

 自分の事よりも、相手を助けたいという一心で。


「ありがとな。……行こうぜ」


「ああ」


 柚月と九十九は、歩き始め、洞窟の中へと入っていった。

 洞窟の中は、意外にも静かだ。 

 あの黒い妖達は、どこにもいない。

 だが、油断はできない。

 いつ、妖達が、襲ってくるかは、予測不能だからだ。

 ついに、彼らは奥へとたどり着く。

 そこにいたのは、風塵と雷塵であった。


「あの大群を倒すとは、見事だな」


「敵ながら、あっぱれだね」


「てめぇらは……」


 二人は、彼らの姿を見て、気付いた。

 目の前にいるのは、白い髪の青年と黒い髪の青年。

 二人は、妖と言うよりも人間のように見える。 

 彼らの姿は、まさしく、勝吏から聞かされていた話と一致したのであった。


「風塵と雷塵……か?」


「その通りだ」


「待ってたよ。お二人さん」


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