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聖印×妖の共闘戦記―妖王乃書―  作者: 愛崎 四葉
第九章 赤い月の襲撃
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第百三十三話 戻ってきた日常と変わってしまった事

 柚月達が聖印京に戻ってきてから、一週間後。

 彼らは、いつも通りの生活を送っている。

 混乱もあってか、未だ任務を言い渡されていないが、今は、こうして、九十九達と共に、穏やかな日々を過ごせる事は、大事な事のように思える。

 もちろん、妖の討伐は続いているため、柚月達は、早く任務に復帰したいところなのだが、まだ、出動命令は出ていない。

 柚月達は、いつものように朝食をとっていた。

 もちろん、皆で。 


「うまいなぁ!ここの料理は!」


「本当にね~。こうして、ここでみんなで食事をとれるってのはいいことだよね」


 景時も透馬も、再びみんなで食事を楽しめることを喜んでいるようだ。

 もしかしたら、聖印寮に追われた時は、もうこんな日々は戻ってこないかもしれない。

 誰もが、そうあきらめ、覚悟していたのだから、当然であろう。


「はい、牡丹様に感謝しないといけませんね」


「そうね。また、皆で、ご挨拶に行きましょう」


「そうだな。保稀様にもお会いしたいし」


 最近、牡丹からよく手紙が届く。

 凛や保稀との暮らしを満喫しているようだ。

 手紙を読むたびに、柚月達は、幸せそうだと感じている。

 椿と牡丹の関係を知った九十九は、特にそう感じているようだ。

 また、彼女達の元へ行ける日が来ることを願っていた。


「ところで、朧、調子はどうだ?」


「うん。大丈夫だよ。兄さん達のおかげでね。本当にありがとう」


 朧は、満面な笑みを見せる。

 彼の笑顔を見るたびに、柚月は、心が癒された。

 今まで以上にうれしく思っている。

 なぜなら、朧の呪いは完全に消え去ったからだ。

 目覚めた後、朧の体調は一気に回復していった。

 今では、すっかり屋敷内を走れるくらいまで回復している。

 あれほど、寝込んでいたのがうそのようだ。

 もしかしたら、柚月達と同じように隊士になれるかもしれない。

 もちろん、朧には、穏やかな日々を送ってほしいと思うのだが、共に戦う日が来たら、どんなに心強いことだろうと思う。

 矛盾しているとわかっていても、柚月はそんな日が来るのを願っていた。


「けど、まさか、俺の分まで作ってもらえるとはな」


 九十九は、美味しそうに豪快に食べる。

 本当に、人間のようだ。

 と言っても、半分人間なのだが。

 あの裁判の後、勝吏が九十九の分も作ってもらうように女房に頼んでいたようだ。

 おそらく、女房はしぶしぶ作っているのだろう。

 だが、九十九は、そんなことを気にせず、食べている。

 もし、彼女達が九十九の姿を見たら、考えを改め直すかもしれない。


「九十九、美味しそうに食べるね」


「ま、ここの料理はうめぇからな」


 九十九も満面の笑みを見せる。

 本当に、嬉しそうだ。

 柚月は、心の底から、うれしく思っていた。



 食事をすませ、膳を運んだ柚月達は、お茶を飲みながら、庭を眺めていた。


「でも、また、皆で暮らせてよかったわね」


「そうですね。本当によかったです」


「一時は、どうなるかと思ったもんね~」


 思い返せば、本当に大変だった。

 九十九と朧の処刑が決まり、聖印寮に追われ、朧の呪いが侵攻していると知らされ、九十九は姿を消してしまったのだから。

 しかし、牡丹や勝吏達の協力もあって、こうして、皆と共に一つ屋根の下で過ごすことができるようになった。

 だからこそ、柚月達は、平穏な日々を過ごせた事を感謝しているのだろう。

 当たり前の日常はいつ奪われるかわからない。

 柚月達は、その事を身をもって経験したのだから。


「これも、柚月が頑張ってくれたおかげだよな」


「うん、あの時の兄さん、かっこよかったよ」


「そ、そうか?」


「うん!」


 朧は、再び満面の笑みを浮かべる。

 本当に、柚月に感謝しているようだ。

 もちろん、今まで妖と戦いを繰り広げてきた柚月が、朧にはかっこよく見えていた。

 朧にとって柚月は、憧れの存在だ。

 それは、今も変わらない。

 だが、華押街で戦った時の柚月は、今まで一番かっこよく見えた。

 自分や九十九の為に、戦う柚月の姿は、たくましく頼りがいがあったのだろう。


「何と言うか……あの時は、ただ必死で、二人を何とかして助けたいって思ったからな。朧は、大事な弟だし。九十九は……大事な……仲間だしな。それに、お前となら、手ごわい相手が来たとしても、勝てる気がするんだ。まぁ、よく、わからないけどな」


 柚月は、照れながらも、話す。

 再び、九十九と共に戦える日が来たと思うとうれしかったのだ。

 だが、そのことを素直に言いだせない。

 だから、照れてしまったのだろう。


「というわけだ。九十九、これからもよろしく……」


 九十九を見ながら話し始めた柚月。

 だが、肝心の九十九は、なんと狐の姿になってぐーっすりと寝ていた。

 それも、朧の膝の上で。

 先ほどまで、妖狐の姿で話していたというのに、肝心な時に、九十九は、眠りこけてしまったのだ。

 朧達は、気付いていたのだが、いつ、柚月に言おうかと迷っていたら、先に柚月が気付いてしまった。

 話を聞かず、寝ている九十九を見た柚月は頭に血が上った。

 九十九を鷲掴みにして、そのまま、庭へと出ていく。

 そして、池の前に立った瞬間、思いっきり九十九を池に投げ飛ばした。

 ばしゃんと勢いよく水が飛び散り、九十九は池に沈められた。


「がぼっ!げぼっ!ごほっ!」


 池の中に入ったからなのか、九十九が目を覚まし、溺れ出す。

 だが、柚月は、九十九を助けようとせず、にらんでいる。

 柚月の顔は、鬼そのものであった。

 彼の様子を見た綾姫達は、「あーあ、やっぱり、子供だった」と柚月の事を成長したと思ったことを、後悔していた。

 九十九は、どうにかこうにか、妖狐に戻り、ぜぇぜぇと息を繰り返して、柚月をにらんでいた。


「な、何すんだ、てめぇ!殺す気か!」


「知るか。寝てるやつが悪い。死ね」


「おいおい、なんで、怒ってんだよ!」


「お前が寝てたからだ!ていうか、なんで、狐に化けてるんだ!お前はもうその必要はないだろ!」


「いいだろ!こっちの方が、楽なんだよ!」


「楽するな!」


 柚月と九十九の言い合い、いや、喧嘩が始まる。

 だが、これもいつもの事だ。

 いつも通りの日常だ。

 朧を除いて誰もがそう思っていた。


「えっと……二人って仲がいいんですよね?」


「うん、もちろんだよ。見守ってあげようね。朧君」


「ま、あれは、いつものやり取りと思えばいいんだって」


「う、うん……」


 せっかく、二人が仲良くなったというのに、これでいいのかと思ってしまう朧。

 正直、見守るというのは、難しそうだなのだが。

 景時と透馬は、見守っていたのだが、いつまでも、いつまでも、言い争いをやめないため、とうとう、綾姫がしびれを切らして、立ち上がった。


「もう、柚月、九十九、早く戻りなさいよ」


「そうですよ。あまり、おふざけはよくありません」


「「ふざけてない!」」


 夏乃に指摘され、声をそろえる柚月と九十九。

 これには、朧達も驚きだ。

 声をそろえた事は一度もない。

 一応、二人の仲は良好のようだ。

 と、思うことにした朧達なのであった。


「綺麗にそろったわね」


「そうですね。本当、仲がいいんですね」


 あきれつつもほほえましく柚月と九十九を見守っている朧達。

 柚月と九十九も、ぷっと吹き出し、笑い始めた。

 自分達の状況がおかしく思えたのだろう。

 笑いを止めたくても止められない。

 そんな時だった。


「何してるんだ?お前達」


「ん?」


 男の声が聞こえる。

 誰かが入ってきたようだ。

 柚月達の言い争いが白熱したため、朧達も気付かなかったようだ。

 当然、当事者の二人も気付いていなかった。

 振り返ると譲鴛が、嫌悪感を露わにした表情で柚月達を見ていた。

 九十九の事を仲間だと認めていない彼は、九十九と楽しそうに笑っている柚月達を見て、怒りを覚えたのだろう。

 彼の様子に気付いた柚月達も表情を変えていく。

 罰が悪そうに。


「譲鴛……どうしたんだ?」


「……柚月、軍師様が、お呼びだ」


「軍師様が?」


「そうだ」



 軍師に呼ばれたと聞かされた柚月は、譲鴛と共に、離れを出て、本堂へと入っていく。

 その間、二人は会話一つしていない。

 二人が会ったのは、あの裁判以来だ。

 気まずい状況の中、柚月は、譲鴛に声をかけた。


「譲鴛……」


「あの妖狐と仲がいいんだな」


「そ、そうかもしれないな……」


「否定しないか……。お前、変わったな」


「……」


「俺は、お前のようにはなれないし、なるつもりもない」


「譲鴛……」


「ついたぞ」


「あ、ああ……。ありが……」


 軍師の部屋にたどり着いた柚月は、お礼を言おうとするが、譲鴛は方向を変え、去っていく。

 この時、柚月は悟っていた。

 あんなに、仲がよかった譲鴛とは、元のように戻ることは許されない。

 当然なのであろう。

 部下を失い、それでも、柚月は妖狐である九十九と共に過ごしている。

 それも、九十九の事を受け入れているのだ。

 理解しがたい状況なのであろう。

 また、離れから本堂へ向かっている間の事を柚月は、思い出した。

 人々は柚月を冷ややかな目で見ている。

 陰口をたたく者もいたように見えた。

 九十九を受け入れられるものはそういない。

 仲間として、迎え入れたのも納得がいかないのであろう。

 だからこそ、柚月達の事を信じられないと言わんばかりの表情で見ていたのだ。


――まぁ、日常は元に戻ったが、変わった事もあるな。仕方がないんだろうな。


 柚月は、思わず、ため息をついてしまう。

 今の状況も仕方がないとはいえ、九十九の事を悪く思われていると思うと悲しくなったのだ。

 いつか、理解してくれる日が来るといいと柚月は願った。


「失礼します」


 柚月は、部屋の中へと入っていく。

 すると、軍師・静居は、御簾で姿を隠しておらず、堂々と柚月を待っていた。

 これには、柚月も驚いた様子だ。

 だが、静居は、冷酷な表情で柚月を見ていた。

 月読以上に冷酷に見える。

 柚月は、息を飲んだ。


「来たか、座れ」


「はい。失礼します」


 命じられた柚月は着席する。

 緊迫した状況だ。

 どのような話があるのだろうと不安に駆られた。

 静居は、静かに語り始めた。


「柚月、お前に命ずる。九十九の九尾の炎を使って、妖を討伐しろ」


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