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聖印×妖の共闘戦記―妖王乃書―  作者: 愛崎 四葉
第八章 明枇の刀と八雲の刀
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第百三十話 牡丹の正体

「ば、馬鹿な……」


 真谷は、討伐された妖達を見て唖然としている。

 妖を召喚し時点で、自分達が勝ったと確信を持っていたのであろう。

 今は、絶望感に襲われているようだ。

 それは、真谷だけではなかった。


「あ、妖が……」


「うそでしょ……」


 自分達を守るために、真谷の悪事に加担した巧與と逢琵も愕然としている。

 もはや、彼らに打つ手はなかった。

 完全に追い詰められた様子であろう。

 呆然と立ち尽くしている。

 柚月達は、真谷達を取り囲むように宝刀や宝器を向けていた。


「もう、逃げ場はない。あきらめろ」


「く……」


 真谷は、柚月達をにらみつける。

 自分が敗北したなどと認めたくないのだろう。

 まだ、打開策を切り開こうとしているのかもしれない。

 だが、悪事もばらされ、召喚した妖達も討伐されてしまった以上、勝ち目はない。

 柚月達は、真谷達をとらえようとしていた。

 だが、その時であった。

 九十九が、何かに気付いたのは。


「誰か来るぞ!」


 九十九は、足音を聞きとったようだ。

 それも、一人だけではない、何人もの足音が響き渡る。

 周囲を見回すと、なんと、すでに、隊士達が柚月達を取り囲むように現れた。

 まるで、柚月達を捕らえるかのようだ。


「密偵隊と陰陽隊!?」


 その隊士達は、密偵隊と陰陽隊のようだ。

 巧與と逢琵が、密かに呼び寄せていたのであろうか。

 いや、そんな余裕はないはずだ。

 もし、呼び寄せていたのであれば、妖を召喚しなくてもよかったはず。

 ならば、なぜ、彼らはここへ駆け付けたのであろうか。

 それは、真谷達でさえも、不明のようだ。

 隊士達は、真谷の元へと駆け寄った。


「真谷様、ご無事ですか!?」


「お、おう。お前達、なぜ……」


「妖がこの街に出たと聞いたからです!お怪我はありませんか?」


「あ、ああ。なんとかな……」


 隊士達は、華押街に妖が出たと報告を受け、ここに来たようだ。

 討伐隊ではなく、密偵隊と陰陽隊が駆け付けた理由は、九十九がいる可能性があると予想したからであろう。

 だが、彼らは、真谷が妖を召喚しているとは気付いていないようだ。

 そのことを知った真谷は、下を向き不敵な笑みを浮かべる。

 今度こそ、勝利を手に入れたと確信したのであろう。

 すぐさま、顔を上げ、柚月達をにらみつけた。


「よく聞け!あの妖が現れたのは、あの妖狐のせいだ!ただちに捕らえろ!」


「っ!」


 なんと、真谷は、妖を召喚したのは九十九だとうそを吐いた。

 それを聞いた隊士達は、宝刀や宝器を向けて柚月達に迫ってくる。

 今、自分達が事実を言ったところで、彼らは信じないだろう。

 自分達は、反逆者扱いなのだから。

 柚月達は、抵抗もできず、歯噛みする。

 形勢逆転だ。

 今度こそ、柚月達を殺すことができる。

 真谷は、そう信じて疑わなかった。

 しかし、一人の少年が、現状を覆すことになるとは気付いていなかった。


「お兄ちゃんは、悪くないもん!」


 少年の叫び声がする。

 その少年とは先ほど、九十九が命がけで守った人物だ。

 少年は、九十九は、悪くないと必死に訴えた。

 これには、さすがの真谷達や隊士達も驚いた様子だ。


「あの妖のお兄ちゃんは、僕を助けてくれた!妖を倒してくれたんだよ!」


「そうだ!それに、あの男が妖を召喚したんだぞ!」


「私達もあの男のせいで殺されかけたのよ!」


 街の人々が次々と叫び始める。

 当然だ。

 真谷は、自分を守るために、街の人々でさえも、殺そうとしていたのだから。

 隊士達は、何が起こっているのか理解に苦しんでいるであろう。

 どちらを信じていいのか迷っているようだ。


「な、何をでたらめな事を!お前達、私よりもこんな奴らを信じるというわけではあるまいな!」


 真谷は必死で自分は無実だと訴える。

 だが、「こんな奴ら」とののしられ、耐えがたいと感じた人物が、前に出た。


「こんな奴らとは、聞き捨てならへんなぁ」


 その人物とは牡丹だ。

 身分の低い輩と思われたのが、よほど気に入らなかったのであろう。

 牡丹は、隊士達の目の前に立ち、自分の首を指で指した。


「この傷、見てみ?あの男につけられたんやで」


 牡丹は、さらなる事実を隊士達につきつける。

 凛が手当てしてくれたおかげで血は止まっているものの、巻かれた包帯は痛々しく見える。

 隊士達は周囲を見回すと人々はうなずいている。

 どうやら、牡丹や街の人々が言っていることは本当のようだ。

 隊士達は、疑いの眼差しで真谷達を見ていた。

 視線を向けられた真谷達は、血相を変え、訴え始めた。


「ち、違う!私は何も!」


「でたらめ言うたらあきまへん!」


 牡丹は、ぴしゃりと真谷の言葉を遮る。

 自分の主張を止められてしまった真谷は怒りを覚え、牡丹をにらみつけ、指を指した。


「お、おのれ……一般人の分際で!」


 往生際の悪い真谷は、さらに牡丹をののしり始める。

 聖印一族である自分が一般人である牡丹に、ここまで追い詰められたことが、腹立たしく、屈辱であったのだろう。

 だが、「一般人」とののしられた牡丹は、ぴくりと眉を動かし、真谷をにらみつけた。


「そうか。じゃあ、これを見たらまだ、そんなこと言えると思うとるんか?」


「何?」


 牡丹が意味深な発言をした途端、真谷も眉を動かす。

 牡丹は、懐からすっとある物を見せた。

 それは、短刀だ。

 だが、単なる短刀ではなさそうだ。

 短刀の柄の部分にある印が彫られてあった。

 その印を見た途端、人々は驚愕し、ざわつき始めた。


「そ、それは……」


「その家紋は、神薙(かんなぎ)家の……!」


「ということは……帝の一族なのか!?」


 その印とは、牡丹と撫子の家紋。

 その家紋を持つ者は、神薙家しかおらず、そして、神薙家は、西の都を収めている帝の一族だ。

 その一族は、聖印一族が誕生するまで、和ノ国を統一していた。

 それゆえに、権力は大将よりも大きく、軍師に匹敵するほどである。

 なぜなら、優秀な人材を聖印京に送り込んでいるからだ。

 そのおかげで、聖印寮の隊士の人数は増加している。

 帝の一族の協力がなければ、今の聖印京はないと言っても過言ではないだろう。

 牡丹は、その帝の一族と言うのだ。

 驚かないほうが不思議であった。

 この事は、勝吏でさえも、知らない。

 いや、誰も知るはずがないのだ。

 牡丹は、今まで、身分を隠して、この華押街で過ごしてきたのだから。


「ぼ、牡丹さんが、帝の一族!?」


「ということは、姉上も」


「椿も?」


 牡丹が帝の一族であるということは、当然、娘の椿も帝の一族ということになる。

 柚月と朧はそのことに気付いた。

 だが、この事を知らない九十九は、違和感を覚えたようだ。

 柚月に尋ねようとしたのだが、牡丹は、改めて自身の正体を告げた。


「そうや、あての本名は、神薙牡丹(かんなぎぼたん)。帝の妹や」


 牡丹は、本名を明かした。

 その瞬間、真谷が崩れ落ちるように尻餅をつく。

 巧與と逢琵は、真谷を支えるようにしゃがみ込んだ。

 今の現状を受け入れたくないのであろう。

 なぜなら、先ほどまで真谷は、牡丹を人質に取り、一般人だとののしっていたのだから。

 知らなかったと言えど、とんでもないことをしたと真谷はようやく気付き、顔が見る見るうちに青ざめていった。


「そ、そんな……まさか……」


「嘘やあらへんで。これが、何よりの証拠やろ?」


 牡丹は、短刀を改めて真谷に見せる。

 真谷の目にあの家紋が映り込む。

 目をそらしたいが、そらすことさえもできない。

 あの家紋が入った短刀を持つ者は神薙家である証。

 真谷は、牡丹が帝の一族であることを否定したかったが、否定さえもできない状態だ。

 牡丹は、短刀を懐にしまい、隊士達に真谷の悪事をばらし始めた。


「その男は、妖を召喚して、あてらを殺そうとしたんや。あ、あとあの二人もな。あてが証人や」


「し、失礼いたしました!」


 真谷が牡丹に無礼を働いたと知り、隊士達は慌てて頭を下げる。

 牡丹は、真谷達に向けて指を指した。


「そいつらを捕らえて!」


「はっ!」


 隊士達は、真谷、巧與、逢琵を強引に立たせ、捕らえる。

 真谷達は、抵抗することなく、力が抜けたようにうなだれている。

 絶望しているのであろう。

 あれほどまでに、嘘をつき続け、悪事を働いたというのに、全てが水の泡だ。

 これで、本当に、一族の頂点に立つという野望はついえた。

 真谷達は、引きずられるように、強引に隊士達に連れていかれた。


「軍師に告げてや。全部、あてが話すって」


「かしこまりました!」


 牡丹に、そう告げられた隊士は慌てて、華押街を去った。

 軍師に報告するのだろう。

 真谷達の悪事と牡丹の事を。

 隊士達は次々と街を去っていく。

 もう、柚月達をとらえようとする者はいない。

 九十九でさえもだ。

 牡丹の気転により、柚月達は助かった。

 自分達の為に、隠してきた素性を明かしてくれたのだ。

 感謝してもしきれない。

 申し訳ないとも思っていた。

 だが、牡丹はスッキリした表情を浮かべている。

 今まで隠してきた素性を明かせたからかもしれない。

 と言っても、勝吏や月読は未だ信じられないようだ。

 まさか、牡丹が、帝の一族だと思いもよらなかったであろう。

 勝吏は、恐る恐る牡丹に尋ねた。


「ぼ、牡丹、本当に……」


「そのことについては、後でゆっくり話しまひょ。なぁ、月読」


「……そう、だな」


 月読は、気まずそうに答える。

 牡丹と再会を果たしたのは、椿を自分の娘として迎えると言って、牡丹から奪った時以来だ。

 どう、接していいのわからないのであろう。

 そんな月読を見ていた牡丹は、勝ち誇ったような表情を見せたていた。


「凛、後は、頼んだで」


「は、はい」


「牡丹さん、ありがとうございました!」


「ええよ」


 柚月は頭を下げて、お礼を言う。

 牡丹は、微笑んでいた。

 柚月達を救えた事を喜んでいるのだろう。

 柚月達も安堵していた。

 だが、そんな時だ。

 朧が、苦悶の表情を浮かべていたのは。


「くっ!」


 朧は、うめき声をあげ、前のめりになって倒れ込もうとしていた。

 だが、そのことに柚月達が気付いた。

 

「朧!」


 九十九が、朧を支えた。

 朧は、弱弱しい呼吸を繰り返していた。


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