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聖印×妖の共闘戦記―妖王乃書―  作者: 愛崎 四葉
第八章 明枇の刀と八雲の刀
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第百二十九話 二つの刃が切り裂く時

 牡丹を人質に取られてしまった柚月達。

 真谷は、冷静さを失っているようだ。

 柚月達は、うかつに近づくことができなかった。


「ま、待て、真谷……」


「近づくな!」


 牡丹を助けるため、刺激しないように勝吏が真谷を制止させようとするが、真谷は、刃を牡丹につきつける。

 今にも刃が、牡丹の首に当たりそうだ。

 真谷は、悟っているのだろう。

 もう、後戻りはできない。

 こうすることでしか、打開策が切り開けないのだと。

 九十九が現れた事により、逃げ惑っていた人々であったが、牡丹が人質に取られ、おびえるように真谷を見ていた。

 妖狐である九十九よりも、真谷の方がよほど恐ろしく見えるのだろう。

 周囲の視線が、真谷をより、刺激させてしまった。


「早く、よこせと言っているだろう!」


「あ、あきまへん。こない最低な男に渡したら……」


「黙れ!」


 牡丹が、従わせないように告げるが、真谷は、牡丹を黙らせるために、さらに、刃を首に近づける。

 刃がついに、首に当たり、首から血が流れた。

 次、真谷を刺激したら、真谷は本当に牡丹の首を切り裂いてしまうかもしれない。

 緊迫した状況下で真谷は、苛立ったように叫び始めた。


「巧與!逢琵!」


「は、はい!」


 真谷に、命じられた巧與と逢琵は、綾姫に近づく。

 彼らも、真谷の行動は、間違っていることに気付いている。

 だが、従うしかないのだ。

 従わなければ、自分達の身も危うい。

 他に逃れる方法など見つかっていない。

 牡丹の命を危険にさらしてでも、黒い石を奪うしかなかった。


「わ、渡しなさいよ!」


「……」


 逢琵は、おびえながらも綾姫に黒い石を渡すよう命令する。

 綾姫は、何も言えず、ためらっていた。

 自分がどうするべきなのかを。

 その行動が余計に二人を焦らせることとなってしまった。


「早く!そいつを渡せ!」


「……綾姫、ここは、いう事を聞くしかない」


「……はい」


 虎徹は、綾姫に渡すよう指示する。

 黒い石を渡したくはなかったが、牡丹の命を最優先にさせたい。

 綾姫も同様であり、悔しさをにじませながら、黒い石が入った箱を巧與と逢琵に渡す。

 巧與は、綾姫から奪い取るように箱を手に入れ、逢琵と共に逃げるように真谷の元へ駆け寄った。


「父さん!」


「よくやった!」


 巧與から箱を手渡された真谷は、牡丹を突き飛ばし、二つの黒い石を取り出した。

 真谷は、不敵な笑みを浮かべる。

 その表情は、まるで勝ち誇っているようだ。

 形勢逆転だと思っているのだろう。


「こうなったら、皆殺しだ。全員、死ね!」


「真谷!」


 柚月達は、真谷を止めようと、地面をけり、向かっていくが、二つの黒い石を同時に使い始める。

 一つ目の石からは牛鬼が、二つ目の石からは卵が現れ、その卵から、無数の鬼火が、出現した。

 真谷が、妖を召喚したことにより、街は大混乱となった。

 人々は、悲鳴を上げながら四方八方へ逃げ惑うが、真谷はさらに、多くの妖達を召喚し、妖達は、人々の前に立ちはだかった。


「こいつ……」


「本当に、俺達を殺すつもりなんだな。しかも、この街の人も……」


 柚月達は、悟っていた。

 皆殺しと言うのは、柚月達だけではない。

 街の人々も含まれているようだ。

 真谷の悪事は、この街の人々にまで知れ渡ってしまっている。

 自分が助かるには、無関係である人間たちでさえも殺さなければならないと血迷ってしまったのであろう。

 この男は、成徳よりも狡猾で、傲慢のようだ。

 柚月達は、真谷に対して、怒りを覚え、体を震わせた。


「さあ、こいつらを殺せ!」


 たとえ、自分が狡猾で傲慢だと思われていても、真谷は、妖達に命じる。

 ここにいる全ての人間を殺すようにと。

 牛鬼や鬼火は、柚月達に向かって、一斉に攻撃を仕掛ける。

 柚月達は、跳躍してよけ、後退し、刀を構えた。


「俺は、あの卵を破壊する!そっちを頼んだぞ!」


「おうよ!」


 柚月達のやるべきことはただ一つ。

 妖達を討伐し、この街を救うことだ。

 柚月は、次々と現れる鬼火を討伐するために、卵を破壊することを決意し、牛鬼の討伐を九十九に託した。

 九十九も承諾し、牛鬼に立ち向かっていく。

 お互いを信頼しているからこそ、できることだ。

 綾姫達は、街の人々を守るために、妖達の討伐を開始した。


「勝吏!俺達は、みんなを避難させるぞ!」


「分かった!」


 勝吏達は、人々を避難させるために、行動に出た。

 だが、保稀だけは、呆然と立ち尽くしている。

 あれほどまでに、変わり果ててしまった真谷に衝撃を受けているようだ。

 自分の野望のためなら、人々の命でさえも奪い取っていく真谷を見て、保稀は、愕然としていた。

 そんな保稀の様子に気付いた虎徹は、強引に保稀の腕をつかんだ。


「保稀、お前さんも来い!」


 虎徹は、保稀の腕をぐいっと引っ張る。

 保稀は、虎徹に連安全な場所へとれていかれた。

 遠ざかっていく真谷達を見ながら……。


「真谷……様……」



 九十九は、牛鬼と戦いを繰り広げている。

 明枇で牛鬼を切り裂こうとするが、牛鬼の皮膚は予想以上に固く、はじかれてしまう。

 吹き飛ばされそうになる九十九であったが、なんとか踏ん張り、体制を整えた。

 苦戦を強いられているようだ。


「ちっ!」


 九十九は、明枇を構える。

 だが、すぐには斬りかかろうとせず、様子をうかがっている。

 牛鬼の弱点を探っているようだ。

 むやみに斬りかかっても、先ほどのようにはじかれ、吹き飛ばされてしまうと考えたからであろう。

 牛鬼を討伐するには、弱点を突くしかない。

 それも、九尾の炎を使わずにだ。

 九十九は、牛鬼の弱点を見極めようとしていた。

 だが、その時だ。


「わっ!」


 子供の叫び声が聞こえる。

 振り返ると、子供が転んでしまっていた。

 逃げる途中だったのだろう。

 起き上がろうとするが、牛鬼は獲物を見つけたかのごとく、子供の元へ迫っていった。

 子供は、恐怖で起き上がれず、身が硬直してしまってた。


「させるかよ!」


 九十九は、牛鬼の行動に気付き、牛鬼よりも子供の元へと駆け寄った。


「がっ!」


「!」


 牛鬼が鋭利な足で、九十九の背中を切り裂く。

 血が飛び散り、九十九が苦悶の表情を浮かべた。

 九十九は、反撃するかのように、明枇を振るい、牛鬼の足を斬り落とした。

 牛鬼は、絶叫を上げ、うずくまる。

 どうやら、足が、弱点のようだ。

 だが、九十九は、激痛で顔をゆがませ、膝をついた。

 九十九に守られた子供は、恐怖におびえ、涙を浮かべている。

 九十九は、激痛に耐え、子供が怯えないように笑みを浮かべた。


「だ、大丈夫か?」


「う、うん……」


 九十九に尋ねられた子供はうなずく。

 最初は、九十九を警戒していたが、牛鬼から守ってくれた九十九を信用したため、警戒を解いたのだろう。

 怪我がないことを知った九十九は、安堵していた。


「ほら、逃げろって」


「うん!」


 子供はうなずき、走り始める。

 九十九は、肩で息をしながらも、立ち上がった。

 妖を討伐した景時と透馬が、九十九の元へ駆け寄った。


「九十九、大丈夫か?」


「お、おうよ」


 九十九達は、振り返り、牛鬼の様子をうかがう。

 足を斬り落とされ、うずくまっていた牛鬼であったが、怒りを露わにし、九十九達をにらみつけていた。


「にしても、手ごわいな、こいつ」


「本当にね」


 弱点がわかったと言えど、あの牛鬼を相手にするのは至難の業のようだ。

 それでも、九十九達は、構え、牛鬼に立ち向かっていた。



 柚月は、無数の鬼火を相手に果敢に立ち向かっていく。

 自身の聖印能力・異能・光刀を発動し、光の刃を身にまとった状態で、鬼火達を切り裂いた。

 異能・光刀は、聖刀・八雲と相性がいいようだ。

 鬼火が一斉に柚月に襲い掛かっても、柚月は、鬼火達を光刀ではじき、いとも簡単に切り裂いていく。

 だが、卵から次々と鬼火達が現れ、柚月の行く手を遮ってしまう。

 柚月は、卵を破壊することができなかった。

 そんな柚月の様子を巧與と逢琵が、見ていた。


「な、何か、やばいよね?」


「あのままだと、柚月が勝ってしまう……」


 卵の元へたどり着けないとはいえ、柚月は、苦戦している様子はない。

 追い詰められているのは、鬼火達のようにも見える。

 二人は、柚月が勝ってしまうと焦燥に駆られていた。


「こ、こうなったら、柚月を!」


「お、お兄様!?」


 とうとう、巧與が、冷静さを失い、短刀を抜いて、柚月の元へと向かっていく。

 柚月を殺すつもりだ。

 逢琵も慌てて、巧與を追う。

 最初は、驚愕していたが、彼女は次第に、考えを変えていく。

 柚月を殺さなければ、自分達の身が危ないと。

 逢琵もまた、冷静さを失ってしまったのだ。

 二人の刃が柚月の背中へと迫っていた。


「巧與!」


「お、おい!保稀!」


 そんな二人に気付いたのは、二人の母親である保稀だ。

 保稀は、危険を顧みず、二人の元へと駆けだす。

 虎徹は、止めようとするが、保稀は、虎徹から遠ざかっていった。


「うおおおおっ!」


 巧與が、雄たけびを上げながら、柚月を刺殺しようとする。

 鬼火と戦いを繰り広げている柚月は自信に危険が迫っていることに気付いていない。

 柚月の戦いを見ていた朧は、巧與が、柚月を暗殺していることに気付いた。


「死ね!」


「兄さん!」


 朧が、柚月を助ける為に、駆け寄っていく。

 だが、間に合わず、肉を刺したような音が響き渡った。

 その音に気付いた柚月は振り返る。

 刺されたのは、柚月ではなかった。

 なんと、保稀が、柚月をかばい、素手で短刀をつかんでいる。

 手からが血が流れた。


「か、母さん!?」


 母親に、阻止されてしまった巧與は、驚愕し、動揺する。

 保稀は、その隙をついて、術を発動した。

 その術は、結界となり、巧與と逢琵を覆い尽くす。

 しかも、その結界は内側から炎が燃え盛っている。

 近づくだけで、燃やされてしまいそうだ。

 そのため、二人は、うかつに動くことができなくなった。


「な、何だこれ!」


「ちょっと、何するのよ!」


「動かないで!」


 巧與と逢琵は、反論するが、保稀は結界を解くつもりはない。

 こんな母親を見たのは、初めてだ。

 まるで、別人のように見える。

 二人は、これ以上、反論することができなかった。


「動いたら、あなた達を攻撃するわ。この戦いが終わるまで、そこで待ってなさい!」


「保稀様……」


「……後をお願い」


「はい」


 保稀に託された柚月は、再び鬼火達を切り裂く。

 だが、切り裂いても切り裂いても、鬼火達は現れ、キリがなかった。

 やはり、卵を破壊するしか、勝ち目はなさそうだ。


――この妖、数が多いな。


「はい。ですが、必ず、倒します」


――勝算はあるのか?


「……あります。賭けですが」


――その賭け、乗ってやろう。


「ありがとうございます」


 八雲は柚月を信じ、柚月は八雲を信じ、刀を振るう。

 鬼火達は、一斉に柚月に襲い掛かり始めた。



 九十九は、景時と透馬と共に、牛鬼と戦いを繰り広げている。

 後ろ足を斬り落としても、牛鬼は平然と立っている。

 よほど、頑丈のようだ。


「かてぇ野郎だな。けど……負ける気がしねぇ」


 苦戦を強いられてきた九十九であったが、あきらめていない。

 必ず、守ると決意しているからだ。

 九十九は、妖気を放ち、明枇と同調し始めた。


 

 無数の鬼火が一斉に柚月に襲い掛かったが、柚月は一瞬にして、移動し、鬼火達を切り裂く。

 柚月は、あの謎の力を発動したのであった。


――この力は……。


 八雲は、気付いていた。

 柚月の謎の力が何なのかを。

 柚月は、次々と鬼火達を切り裂き、ついに、卵の元へと到達した。

 その瞬間、八雲の刃が光り始める。

 まるで、柚月と同調するかのように。

 

「おおおおおおっ!」


 柚月は、雄たけびを上げながら、卵を突き刺す。

 その瞬間、八雲が、刃から人の姿へと変わり、光を纏って一気に卵を貫いた。

 これこそが、聖刀・八雲の技・八雲聖浄・(やくもせいじょう)だ。

 八雲の陰陽術の力と聖印の力を併せ持ち、妖を浄化する。

 卵は、砕かれ、完全に消滅した。


「もらった!」


 明枇と同化した九十九は、跳躍して一気に、明枇を振り下ろす。

 真っ二つに切り裂かれた牛鬼は、一瞬にして消滅した。

 柚月と九十九が、同時に妖を倒した瞬間であった。


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