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聖印×妖の共闘戦記―妖王乃書―  作者: 愛崎 四葉
第八章 明枇の刀と八雲の刀
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第百二十三話 呪いをかけたのは

 朧は、夏乃の聖印能力で自分の過去を見ていた。


「……まさか、あの人が朧君を」


 真実を見た朧達は衝撃をつきつけられているようだ。

 動揺を隠せず、言葉を失ってしまっている。

 誰も何も言わず、沈黙が続いていた。

 だが、突然の事だった。

 無言で綾姫が立ち上がったのだ。

 綾姫の行動に驚いた朧達は、一斉に綾姫を見上げた。


「綾姫様!?」


「どうしたんだい?」


「……聖印京に乗り込むわ」


「ええ!?」


 綾姫は、いきなり聖印京に乗り込むと言いだした。

 これには、朧達も驚きだ。

 綾姫の表情は、怒りを露わにしている。

 冷静ではなさそうだ。


「お、お待ちください、綾姫様!もし、聖印京に乗り込んだら、綾姫様のお命が!?」


「あの人は、まだ、自分が朧君の呪いをかけた犯人だと気付かれていないって思っているはずよ。この好機を逃すわけにはいかないわ」


 呪いをかけたものは、自分が犯人であることを隠し通しているのだろう。

 こうして、朧達が気付いていることも気付いていないはず。

 綾姫は、そのことに気付かれる前に、そして、追手がここへ来る前に、証拠を手に入れ、その者が犯人であることを一族に暴露するつもりだった。

 それもまた、二人を救う一手となると綾姫は考えていたのであった。

 夏乃が綾姫の身を案じても綾姫は行くつもりだ。なんとしてでも。


「待ってください!綾姫様!僕の為に危険な事をなさらないでください!」


「そうだよ、綾姫君。ここは、柚月君達を待つべきだよ」


「でも……」


 朧や景時は、綾姫をなだめるように諭す。

 今、綾姫が乗りこんでは、危険な目に合うことは目に見えている。

 ここは、柚月達の帰りを待つのが得策であろう。

 互いの情報を共有した上で次なる行動に移すべきだと、考えていた。

 綾姫も、わかっている。

 だが、みすみす見過ごすわけにはいかない。

 朧のためにも、犯人を逃したくはなかった。

 だが、その時であった。

 牡丹と共に店の入り口を見張っていた凛が部屋に戻ってきたのは。


「あ、あの……」


「凛さん?どうしたんですか?」


「実は……」


 凛は、ためらいながらも、今の状況を朧達に説明する。

 話を聞いた朧達は、驚愕していたのであった。



 綾姫が凛と共に店の外に出た。

 店の外には、牡丹が立っていた。


「すんまへんなぁ。来てもらって」


「いえ……」


 綾姫は、牡丹の前に出る。

 牡丹の前には、ある人物達がいたからだ。

 その人物達とは、なんと鳳城虎徹と鳳城保稀であった。

 しかも、彼らは、なぜか布を顔が見えないようにかぶっている。

 まるで、誰にも気付かれないようにここまで来たかのようだ。


「なぜ、あなた方がここに?虎徹様、保稀様」


「そりゃあ、わかるさ。矢代はよくここを訪れてたって言ってたからな。まぁ、それを知っているのは、ごく一部の者。真谷でさえ知らない。だから、柚月達は、ここにいると考えてたんだよ」


 虎徹は、綾姫の質問に答える。

 それも、いつものように陽気でだ。

 柚月達が虎徹と相対した時とは、違う様子だ。

 全くの別人のようにも見える。

 彼の様子を見た綾姫はあることを察したようだ。


「……私達をとらえに来た。わけではなさそうですね」


「わかるみたいだな。さすがお姫さんだ」


 綾姫は、虎徹と保稀が来た理由は、自分達をとらえるためではないと察した。

 そして、その理由も綾姫は淡々と語り始めた。


「その布をかぶっているということは、誰にも気付かれたくなかったのでしょう?私達をとらえるなら、堂々と乗り込んでくるはずですから。それに、保稀様もお連れになるということは何か話があるのですね」


「察しがいいね。お前さんは」


 もし、虎徹達が柚月達をとらえに来たというのであれば、布をかぶってここまで来るはずがない。

 堂々と乗り込めばいいのだから。

 しかも、部下ではなく、妹の穂希を連れてきている。

 ということは、捕らえに来たのではなく、何か話があってここに来たのだろうと綾姫は予想していたのだ。

 その予想はどうやら当たっているようだ。

 綾姫の問いに虎徹は堂々とうなずいた。


「俺達が話したいのは、朧の呪いについてだ」


「呪い、ですか?」


「ああ……誰が呪いをかけたのか、分かったからな」


「え?」


 綾姫は驚愕し、目を見開く。

 まさか、虎徹達も、犯人が誰なのかわかったなど思いもよらなかったのであろう。

 綾姫は、詳しい話を聞くために二人を部屋へ案内した。

 牡丹と凛には見張りを続けてもらうことを依頼して。

 そして、虎徹が朧に呪いをかけた人物が誰なのかわかった事を朧達に話した。

 それを聞いていた朧達は、驚愕し、目を見開いていた。


「……虎徹様、どうやって見つけ出したのですか?」


「こいつが、見つけたんだ。証拠をな」


「ええ。朧に呪いをかけたのは、鳳城真谷よ」


 保稀は、自分の夫が犯人だと朧達に告げる。

 犯人の名を聞いた朧達であったが、驚いた様子は見せない。

 彼らは朧の過去を見たからだ。朧が生まれた日、朧に呪いをかけたのは、真谷であった。

 どうやってかは、わからないが、真谷の手から妖気があふれ、その妖気が朧の体に入り込んだ。

 それを見て、彼らは真谷が犯人だと確信したのであった。

 彼らの様子をうかがっていた虎徹は、朧達も同じ答えにたどり着いたことを察していた。


「あまり、驚かないってことは、やっぱり、気付いてたか。大方、夏乃の聖印能力で見たんだろうな」


「……」


「そう、警戒しなさんな。お前さん方を追い詰めようってことはしないさ」


 虎徹は、朧達がどうやって犯人を見つけ出したのか気付いた。

 だが、夏乃は、答えられなかった。

 なぜなら、肯定してしまえば、掟を破った事を証明してしまうからだ。

 警戒した夏乃に対して、虎徹は、警戒を解くように語りかける。

 なぜなら、虎徹は、朧達をとらえようとも、追い詰めようともしていないからだ。

 虎徹の様子を見ていた朧達は、自分達をとらえようとしていないことに気付き、ようやく、安堵した。


「そう、ですか……。ですが、どうやって、証拠をつかんだのですか?」


「呪いをかけるのを見たわけではないわ。私は鳳城真谷が妖を操っていた場面を見ただけだけど」


「妖を操っていた?それは、どういう意味なのでしょうか?」


 景時は、保稀に尋ねる。

 妖を操れるのは、蓮城家のみ、真谷は、鳳城家のものであり、純潔人だ。

 妖はそう簡単に操れるものではない。

 蓮城家でさえも、意識を封じ込めなければ、操れないのだから。


「真谷はね、黒い石を使って、妖を操っていたのよ。あなた達や勝吏様と月読を陥れるために」


 保稀は、何度も見てきた。

 真谷が、柚月達を陥れるために、黒い石を使って妖を操っていた事を。

 始めてみた時は、衝撃を受け、動揺していたが、だんだんと怒りが込み上げてきた。

 自分の欲望の為に、罪もない人達を巻き添えにして、命を奪ったのだから。

 これは、聖印一族としては、重罪であり、許せることではなかった。


「けれど、それだけに使ったわけじゃあなかったんだ。朧、お前さん、呪いをかけられたのは、いつかわかるか?」


「はい。生まれた時にと」


「やっぱりな」


「何か、分かったのですか?」


 朧が呪いをかけられたのが、生まれた時だとわかると虎徹は納得したような表情を見せる。

 朧はそれが、不思議でならなかった。

 なぜ、納得ができたのであろうと。

 その疑問に虎徹は、答え始めた。


「ああ。真谷がなんで、そんなもんを持ってたのかって考えたんだ。んで、お前さんが呪いにかけられたって勝吏が言ってたのを思いだした。その呪いは、朧の体内に妖の卵を産み付けられたって言ってたな」


「はい」


 保稀から全て聞かされた後、虎徹は、冷静さを取り戻し、真谷がなぜ、黒い石を持っていたのかを考えていたのであった。

 確かに、柚月達を陥れるために手に入れた可能性もあるが、そうではないと考えたのは、穂希があることを語ったからだ。

 それは、真谷が大事そうに持っていた箱の事だ。

 その箱には決して触れるなと忠告されていたことがある。

 忠告されたのは、朧が生まれた年の事。呪いがかけられた年にだ。

 なぜ、なのかは当時、保稀はわからなかったが、最近になって、真谷は、その箱から黒い石を取り出したのを目撃したのだ。

 それを聞いた虎徹は、あることを思いだした。

 それは、勝吏が九十九と手を組んだ理由だ。

 九十九と手を組んだ理由は、朧の呪いを解くため。それも、朧の呪いは、体内に妖の卵を産み付けられたものである。

 虎徹は、その呪いについての詳細を知っていたのであった。


「産み付けられてから卵が孵化したのは、七年ほどかかるって言われてる。そんで、お前さんが病気で倒れたのも、七歳の頃だ。となれば、生まれた時に呪いをかけられたとしか思えん」


「だから、真谷様が、その黒い石を使って呪いをかけたと?」


「推測でしかないがな」


 今までの話は、すべて推測だが、真谷が黒い石を使って妖を操っていたことは事実。

 彼らはこの事を見過ごすわけにはいかなかった。


「そこでだ。俺と保稀は、真谷の屋敷に侵入する。黒い石を手に入れるためにな」


「それをなぜ、私達に話すのですか?」


 真谷の野望を食い止めるためには、黒い石を手に入れるしかない。

 証拠をつかめば、真谷を追い込むことができる。

 だが、綾姫は、疑問に思っていたことがある。

 なぜ、自分達に話したのかだ。

 もし、乗り込むというのであれば、自分達だけでも行けるはずだ。

 だが、そうせず、あえて自分達に話したのには、訳があるのであろう。

 だから、綾姫は尋ねたのであった。


「それはな、綾姫。お前さんの力を貸してほしいからだ」


「私の?」


「ああ。お前さんの聖印能力を応用した姿を消す結界術でな」


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