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聖印×妖の共闘戦記―妖王乃書―  作者: 愛崎 四葉
第八章 明枇の刀と八雲の刀
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第百二十一話 八雲が残したもの

「て、天城……八雲!?」


 九十九の父親が天城家の人間だと聞いた柚月達は、驚愕し、動揺していた。

 誰も予想していなかったからだ。まさか、九十九が自分達と関係があったなどとは。


「じゃあ、九十九は聖印一族ってことになるのか?」


「どうだろうね。あいつが、聖印を持っていたらだろうけど。体は、妖みたいなもんだろうし」


 九十九が聖印を持っているとはまずないと矢代は予想しているようだ。

 もし、聖印を持っているのであれば、九十九は自分の出生に気付いていたであろう。だが、気付いているそぶりはない。隠しているということでもなさそうだ。

 つまり、九十九は聖印の能力を持っていないと見て間違いないであろう。

 九十九は、どちらかと言うと妖に近い体質のようだ。


「……本当に、九十九の父親が天城家の人間だと言い切れるのか?」


「話からして、間違いないだろうね」


 月読は未だに信じられない様子であった。

 だが、矢代は確信しているようだ。

 これまでの話を聞いて、九十九の父親が、八雲以外に当てはまる人物がいないのであろう。


「だが、八雲は行方不明。その妖刀についてわかるものなのか?」


「知っているさ。あたしはね」


「なぜだ?」


 勝吏は、首を傾げる。

 失踪していたというのであれば、その後の行方を知っているとは思えないのであろう。

 妖刀の事さえも、わかるかどうか不明だ。

 だが、矢代は、八雲について詳細を説明し始めた。


「天城八雲は、二百年前に失踪。そののち、遺体となって発見されたんだ。首を何者かにはねられてね」


「……確か、九十九の父親も天鬼に首をはねられたんだったな」


 柚月は、思い出す。

 九十九が椿に父親の最後について語っていた事を。

 父親は、九十九と明枇を守るために、逃がすために、山小屋に残って天鬼と戦い、首をはねられた。

 矢代との話も一致している以上、やはり、九十九の父親は八雲のようだ。

 柚月も、確信を得たように思えてきた。

 そして、あることに気付き、矢代に尋ねた。


「ということは、その天城八雲様がどこにいたのかご存じなのですね」


「ああ、ここさ」


「ええ!?」


 矢代は、指を下に指して答える。

 柚月達は、驚愕していた。

 今、柚月達がいる別邸が、かつて、九十九達が暮らしていた山小屋があった場所だというのだ。


「ここが、その九十九達が、住んでいたのか?」


「そうだよ」


 勝吏の問いに、矢代は淡々と答える。

 本当に、ここで九十九達は暮らしていたそうだ。

 しかし、ここに矢代の別邸があるというのは、どういうことなのだろうか。

 柚月達には理解できない。


「なぜ、ここに別邸を?」


「ああ、あんたは、知らなかったね。この別邸の秘密をさ」


「別邸の秘密?」


 月読は問いかける。

 ここに、矢代の別邸がある理由と、この別邸の秘密は関係しているようだ。

 だが、月読は、何も知らされていない。

 別邸の秘密とは一体何なのだろうか。

 柚月達は、矢代の答えを待つ。

 矢代は、静かに語り始めた。


「ここは、元々あたしの別邸じゃなかったんだよ。天城家の当主がこの別邸を受け継いできたのさ。ある物を守るためにね」


「ある物……まさか、持ちだした宝刀ですか?」


「その通りさ」


 柚月の問いに、矢代は答える。

 なんと、八雲が持ちだした宝刀を守るために、この別邸は作られたようだ。

 そして、その事を知らされていたのは、天城家の当主のみ。

 それゆえに、月読、透馬でさえも知らされていなかったようだ。矢代の別邸にそのような秘密が隠されていたとは。


「八雲が編み出した術式の書物もあるよ」


 矢代は、そう言って、畳を外す。

 どうやら、隠し戸のようだ。その隠し戸を開け、手を突っ込む。

 何かをつかんだようで、取り上げると一つの書物が出てきた。

 その書物はぼろぼろの状態であり、今にも破けてしまいそうだ。

 遠い昔に記されたものと見て間違いないであろう。

 その書物を見た時、柚月達は、何の書物か察していた。


「その書物が、これさ」


 その書物こそが、八雲が残した書物のようだ。

 矢代は、手で誇りを払いのけ、柚月に手渡した。


「読んでみなよ。これを読めば、妖刀の事も、宝刀の事もわかるようになるよ」


 柚月は、矢代から渡された書物を読み始める。

 透馬、勝吏、月読も柚月の後ろから覗き込むように、読み始めた。

 その書物に記されていたのは、陰陽術の術式、刀の材料、その鍛冶の過程であった。

 詳しく、事細かに知るされている。まるで、後世に残すかのように。


「なるほど……」


 宝刀と妖刀の部分を読み終えた柚月はあることに気付いたようで納得した表情を矢代に見せていた。


「宝刀と妖刀は、対となっているようですね」


「宝刀を作った後に、妖刀を作ったみたいだね。おそらく、九十九の為に……」


 書物にはこう記されてあった。

 八雲が持ちだした宝刀と九十九が持っている妖刀・明枇は、対となっている。

 妖刀は、その刀に、妖の魂が入ることで妖刀へと変化するように術式が込められていたようだ。

 だからこそ、明枇は、自分を貫かせることで妖刀・明枇へと変化したのであろう。

 だが、その宝刀がどのようなものなのかは明確にされていない。

 いや、正確には、文字がかすんで、もうすでに読めない状態であった。

 だが、対になっている事だけは確かだ。


「宝刀を手にすれば、妖刀・明枇の居場所が自ずとわかる。けど、問題があってね」


「問題?どんな問題なのだ?」


 宝刀が、あれば、妖刀・明枇の居場所を特定できると柚月達は、確信していた。

 つまり、九十九がどこにいるのかわかると。

 だが、宝刀を手に入れるには問題があるようだ。

 勝吏がそのことについて尋ねると、矢代は静かに答えた。


「その宝刀は、相手を選ぶのさ」


「妖刀・明枇のように、魂が宿っているということでしょうか?」


「だろうね」


 矢代の答えを聞いた柚月は、予想した。

 宝刀もまた、妖刀・明枇と同じように、誰かの魂が宿った事で宝刀へと変化したのだろうと。

 それゆえに、宝刀は、使い手を選ぶようだ。妖刀・明枇のように。

 だとしたら、宝刀に認められなければ、扱うことすら不可能だ。

 解決策が、出たように思えたが、振出しに戻ったように感じた柚月達であった。


「これじゃあ、行き詰まりってことかよ……」


「そうでもないだろ」


「え?なんで?」


 あきらめていた透馬であったが、矢代は、そうは思っていないらしい。

 宝刀は、ここにいる人間を選ぶというのであろうか。

 そうは、思っていない透馬は、首を傾げ、訊ねた。


「使いこなせる人間がいるじゃないか。ここに」


 矢代は、ある人物に視線を向ける。

 その人物は、他でもない柚月であった。

 透馬達も、はっと気づいたように、柚月に視線を向けていた。


「まさか……俺が?」


 柚月は、驚愕している。

 自分が、その宝刀に選ばれるとは思っていないようだ。

 だが、矢代は、確信している。

 透馬達もだ。

 その理由を矢代は、語り始めた。


「そうさ。あんたは、銀月、天月、真月を使いこなした。宝刀は、あんたを選ぶかもしれない」


 柚月は、これまで、矢代の最高傑作と言われてきた銀月を見事に扱い、その後、最新作である天月、そして、銀月と天月を掛け合わせた宝刀・真月までも、扱うことに成功している。

 そして、柚月は、最強の聖印能力をその身に宿している。

 それだけの実力がある柚月ならば、宝刀は、柚月を主として認め、選ぶかもしれない。

 いや、柚月以外の誰かが使えるとは思えない。

 それほどまでに、矢代は、確信していたのであった。


「ですが……」


「ためらってる暇はないんじゃないのかい?」


「……」


 柚月は、ためらってしまう。

 自分が、その宝刀に選ばれるほどの実力者ではないと思っているからだ。

 だが、矢代は叱咤するように問う。

 朧の呪いは今も朧の体を蝕み、九十九の命も残り僅かの状態かもしれない。一刻の猶予もないのだ。


「あんたしかいないんだよ。九十九と朧を救えるのは」


「……わかりました」


 ここは、柚月にかけるしかない。柚月に託すしかないのだ。

 二人を救えるのは、柚月しかいない。

 矢代に背中を押された柚月は、ついに決意する。

 二人を救うために、その宝刀を手に入れることを。

 たとえ、拒まれたとしても。

 覚悟を決めた柚月は立ち上がった。


「案内してもらえますか?」


「そういうと思ったよ」


 矢代も立ち上がり、透馬達も続けて立ち上がった。


「ついて来な」



 矢代は、柚月達を宝刀が眠っている地下へと案内した。


「ここだよ。例の宝刀が眠ってる場所は」


 柚月達は、奥へと進む。

 その場所に、宝刀は保管されていた。それも、結界を張って。


「あれが、宝刀?」


 宝刀を見た柚月達は、目を見開く。

 その宝刀は、刃が、透き通ったように見えていた。

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