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聖印×妖の共闘戦記―妖王乃書―  作者: 愛崎 四葉
第八章 明枇の刀と八雲の刀
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第百十九話 見えてきた希望

 夏乃は、自分の聖印能力で朧の過去を見ると宣言する。

 だが、それに対して、柚月達は、驚愕と動揺の表情を浮かべていた。


「夏乃、本気か?」


「はい。本気です」


 柚月は、確認の為に、尋ねるが、夏乃は、うなずく。

 もはや、決意は固いようだ。

 それでも、柚月は恐れていたことがあった。


「だが、過去を見ることは、禁じられている。もし、知られたら……」


 柚月が恐れていたのは、掟の事だ。

 万城家の聖印能力は、時を操ることができる。時を止めることも、時を速めることもできる。そして、過去を見ることも。

 だが、個人の過去を見ることは掟により禁じられている。

 万城家は、過去に不正を働いたと疑いをかけられた者達の過去を見たことがあったのだが、全くの無実であり、実は、当主争いに利用されていた事が発覚した。

 それにより、一族同士の争いが起こってしまったのだ。

 そのため、過去を見ることは固く禁じられてきたのだが、夏乃は、それでも、朧の為に、過去を見ようと決意したのだ。

 しかし、もし、万が一、そのことが知られてしまったら、夏乃は、無事では済まない。

 柚月は、夏乃の身を案じていたのだ。


「構いません。過去を見れば、朧様の呪いを解く方法もわかるかもしれませんよ?」


「しかし……」


「いいじゃない!それがいいわ!」


「え?」


 柚月は、不安に駆られたが、突然、綾姫が夏乃の提案に賛同した。

 ふいをつかれたように、柚月達は、あっけにとられていた。

 だが、綾姫は、柚月達の様子に全く気付いていないようだ。


「夏乃は、優秀な聖印一族よ。誰がこんなことを仕掛けたのか、絶対見つけてくれるはずだわ!」


「ま、待て綾姫。それは、掟で……」


「掟が何だっていうの?私達は、もうすでに反逆者扱いなのよ?掟を一つや二つ破ったところで、同じよ」


 断然、乗り気である綾姫に対して、柚月は綾姫を落ち着かせるように、なだめるのだが、綾姫は、賛同するばかりだ。

 しかも、今は、柚月達は反逆者の身。ならば、掟を破ったところで、同じではないかと言ってのけたのだ。

 やはり、綾姫は大胆不敵。恐れを知らないお転婆なお姫様だ。

 彼女の様子を見た柚月はそれを思いだし、内心恐怖を感じていた。


「そういう問題か?」


「そういう問題よ」


 柚月は、冷静に尋ねるが、綾姫は堂々と答える。

 やはり、綾姫は、一番敵に回したくない人物だ。

 こんな状況でさえ、大胆なのだから。


「まぁ、ここは、任せたほうがいいかもね~」


「柚月、夏乃に任せようぜ」


「お前らなぁ……」


 景時も透馬も、ここぞとばかりに賛同している。

 正直、自分達の置かれてある状況を理解しているのかと聞きたいぐらいだ。

 この能天気な二人組が、賛同するというのは、まったくもって恐ろしいことなのだが、今回は、いい方向に向かっているのかもしれない。

 柚月も、そんな気がしてきた。


「柚月様、指示をお願いします」


「俺が?」


「ええ。あなたは、私達の隊長です。ですから、指示を」


 綾姫達は、一斉に柚月に視線を向ける。

 たとえ、追われた身であっても、自分達は特殊部隊の一員であり、柚月はその隊長なのだと自覚している。

 だからこそ、柚月にゆだねたのであろう。

 だが、朧は、不安に駆られたような表情だ。

 心配しているのであろう。

 自分のせいで、また柚月達を巻き込むのではないかと。

 だが、柚月はそうは思っていなかった。

 よくよく、考えれば、ここまで追い詰められたらやるしかない。

 手段は、残されていないのだから。


「……わかった。任せていいか?」


「承知いたしました」


「それで、いいな?朧」


「……うん、わかった」


 心配していた朧もうなずいた。

 決意を固めたようだ。


「夏乃様、お願いします」


「ええ、お任せください。朧様」


 朧は、夏乃に頭を下げる。

 自分の身を夏乃に託すかのように。

 これで、一歩、前に進めたわけだ。

 柚月達は、少しばかり安堵していた。


「さて、後は、九十九の行方だな。何か手掛かりがあればいいんだが……」


「妖刀・明枇に母親の魂が宿っているのなら、そこから探れたりしないでしょうか」


「だといいけどさ。今は、九十九も追われてる状態だしな。簡単に見つからないようにはしてるかもだぜ」


 妖刀・明枇の正体は、九十九の母親・明枇が刀に宿ったことで、誕生した刀だ。

 とすれば、明枇の妖気や魂を探ることで九十九の居場所を特定で斬るかもしれない。

 といっても、それは、簡単なことではない。

 明枇が妖気を放っているとは限らないからだ。九十九を守るために、力を封じている可能性だってある。


「そういや、その妖刀を作ったのが、九十九の父ちゃんなんだよな……。そこからも、手掛かりを見つけられたらな」


 そもそも、妖刀・明枇を作ったのは、九十九の父親だ。

 もし、その妖刀が特殊であるならそこから探ることは可能かもしれない。

 と言っても、予想のため、期待はできないのだが……。


「そうだな。……ん?待てよ」


 柚月は、何かに気がついたようで、考え込む。

 その様子を見ていた朧達は、柚月の様子をうかがっていた。


「どうしたの?柚月君」


「なぁ、景時。刀を作れる妖なんていると思うか?」


「……妖刀だったら作れるかもだけど。普通の刀だったら、無理な気がするなぁ。ってもしかして……」


 景時が説明した時、彼もまた何かに気付いたようだ。

 それが、何なのかを柚月は、答えた。


「ああ、九十九の父上は、人間かもしれない」


「え!?」


 朧達は、驚愕した。

 信じられないと言わんばかりの顔で。


「に、兄さん。それって、九十九が半妖ってこと?」


「ああ」


「言われてみれば、そうかもしれないわね。結界をすり抜けられたのは、完全な妖じゃないからだったのよ」


 聖印京に張られてある結界は強力だ。

 あの天鬼でさえも、赤い月の日でなければ、結界を破壊して、侵入することができないくらいだ。

 だが、九十九は、いとも簡単に聖印京へ侵入してきた。

 それも、結界を破壊するのではなく、すり抜けてだ。

 なぜ、このような事が九十九にできたのか、柚月達は不思議がっていたのだが、今思えば、半妖であるからこそなのかもしれない。


「それに、妖狐の一族は、集落で暮らしているはず。三人で山小屋で暮らしていたというのも、父親が人間で、母親が妖狐だったからと言う理由かもしれないね」


「詳しいんですね、先生」


「蓮城家は、妖を操る一族だからね。妖を熟知しているのは当然の事だよ」


 蓮城家の聖印は、妖を操る事。

 妖を操るためには、妖を知っていなければならない。

 そのため、蓮城家は、妖に関して詳しかったのだが、特に、景時は、妖の種類、弱点、習慣、生息地など、全て熟知していると言っても過言ではない。

 景時曰く、妖狐の一族は集落で暮らしているようだ。

 とすれば、九十九が、両親と三人で山小屋で暮らしていたというのは、本来なら違和感があるのだが、半妖であるなら納得がいく。

 彼らは、集落で暮らすことは不可能であったのだろう。


「けど、普通の刀が妖刀に変化できるってことは、相当の作り手だぜ。めったにいないだろうしな。もしかしたら、特別な術がかけられてるかもしれないな」


 透馬は、鍛冶職人見習いであるため、武器のことに関しては詳しい。

 特に刀に関しては、得意分野のようだ。

 透馬曰く、普通の刀が、妖刀に変化することは難しいことらしい。刀が妖気に耐えられず、折れてしまうからだ。

 そもそも、妖刀の作り手は、めったにいない。

 高度な陰陽術であっても、成功率は低いと言われている。

 かなりの陰陽術の使い手であることがうかがえるようだ。

 誰が、どんな術をかけて刀を作ったのかがわかれば、その陰陽術をたどって九十九の居場所を探れるかもしれない。


「矢代様ならわかると思うか?」


「多分な。そこから、明枇の居場所を探ることができるかもしれないぞ!」


 矢代は、歴代の鍛冶職人の名を覚えている。

 どんな人物で、どんな作り手だったのかを。

 矢代に尋ねれば、妖刀・明枇の作り手を知ることができ、どのような陰陽術を使ったかが、わかるかもしれない。

 九十九の事に関しても、解決策が見えてきそうだ。


「……よし、ならば、矢代様の元へ行こう。透馬、案内してくれるか?」


「おうよ!」


 柚月に頼まれ、透馬は、立ち上がる。

 正直、普段は、矢代の名を聞くだけで、怯える透馬なのだが、こう言う時は、怯えず、行く気満々だ。

 九十九と朧の為に、一肌脱ごうと張り切っているのであろう。

 実に頼もしい男だ。


「私は、夏乃と一緒に朧君の過去を見てみるわ」


「僕は、朧君の側にいるよ」


「頼んだぞ」


 綾姫と景時は、店にとどまって朧の過去を見ることを決意した。

 ゆっくり体を休められたせいか、朧の顔色は良好だ。

 だが、こうしている間にも呪いは、朧の体を蝕んでいるはずだ。

 油断はできない。そのため、景時は主治医として、朧の側にいる事を決めたようだ。

 これは、朧にとって心強いであろう。

 朧の表情は、希望に満ちているように思えた。


「兄さん、九十九の事、お願いね」


「ああ」


 朧に九十九の事を託された柚月は、うなずき、立ち上がった。


「行くぞ、透馬!」


 柚月と透馬は、店を出て矢代の元へと向かった。

 九十九と朧を救うために。


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