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才色兼備のナナ姫は、恋の作法がわからない!  作者: 日々一陽
第12章 才色兼備のナナ姫は、恋の作法を気にしない!
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第12章 第4話

 人々の歓声に一ヶ月前の回想から今に戻る。

 飛び立った戦闘機は遙か右手の空から小さな光の点となって再び現れる。その光はどんどんと大きくなって、むっつの機体がハッキリと見えた。見事な三角形の編隊をなしてこっちへと迫ってくる。翼同士が触れんばかりに並んだ見事な隊形、思わず声が漏れる美しい曲技飛行。きちんと並んだままで僕らのすぐ頭上を通り過ぎた機体は前から一機ずつ急旋回すると、もの凄い加速で前方の青空へと逃げていく。


「素晴らしいですね」


 僕の言葉に隣から流暢りゅうちょうな日本語が返る。


「コレが精一杯なんデスヨ。サモスランカ国防軍第一航空隊はアレで全機ナンデス。モチロン我が国に第二、第三の航空隊はアリマセン。アレが航空部隊の全てデス」


 ここはサモスランカ国際空港。

 民間も軍も使用するというこの空港、目の前にはトランペットや太鼓を持った10人ほどの演奏隊が戦闘機の行った先を見上げている。


「演奏部隊もアレが全員です。本当にこれでセイイッパイ!」


 精一杯、か。

 一ヶ月前にも同じ事を言われた。

 丸田・ザ・ジャイアントが残した工場に現れた2台のパトカー。そして降りてきた警官とルーバック氏の前に歩み出たナナ。


「ナナねえっ!」


 月子も僕と同じことを考えたのか、ナナを守るように彼女の前で手を広げる。

 しかし、ナナは月子の肩をゆっくり抱き寄せるとルーバック氏を見る。


「ご案内、いただけるのですよね」

「イエス。さあ皆さん、こちらへ」


 ルーバック氏はナナ、月子、オリエ、そして僕を連れて駐車場へと歩き出す。そこに止まっているのは1台の黒い車。彼が後部ドアを開けると堂々乗り込んだナナとオリエ。一瞬不安げに僕を見た月子もナナに促されて乗り込んだ。


「アナタは助手席で許してクダサイ」


 ナナは泰然と乗り込んだけど、これからどうなるのか……

 ともあれ、みんな乗ってしまった。

 僕もゆっくり助手席に乗り込む。


 やがて、ルーバック氏が運転席に座ると車はゆっくり動き出す。

 いつの間にか青い警告灯を点灯させていたパトカーの一台が僕らの前に付いた。そうしてもう一台は僕らの後ろを付けて来た。


「お兄ちゃんこれからどうなるの? 警察に行くの?」


 身を乗り出す月子に答えたのはハンドルを握っているルーバック氏だった。


「大統領にお会いしていただきマスヨ。すぐ着きマスヨ」

「じゃあ、あのパトカーは?」

「あれは先導車よ、月子ちゃん」

「ソウデス。このクルマが安全に着くように前と後ろにパトロールカーを呼んだデス。このクルマは皇女サマが乗ってマスカラネ」


 先導車…… そうだったんだ。


  警察 → 違反摘発 → タイホっ!


 って発想しか浮かばない自分が情けない。


「ゴメンナサイ。大統領の運転手は今日オヤスミでワタシが運転シマス。デモ安心してクダサイ、安全運転デスカラ。パトロールカーも付けてセイイッパイの歓迎デスカラ」


 ほんの10分足らずでレンガ作りの建物に着く。3階建ての風格溢れる大きなお屋敷の前には広いロータリー。車の横にはスーツ姿の人達が並んで出迎えてくれた。


「デハご案内シマス」


 前に立ち歩き始めるルーバック氏をナナが呼び止める。


「わたしも謁見えっけんの準備をしとうございます。着替えのお部屋はありませんか」


 案内された控え室から現れたのはブロンドの髪に黄金のティアラを冠した堂々たる皇女ナナだった。凛と美しいその姿こそまさしく王家の証し。


「あ…… な、ナナ。あのさ、どこにティアラとか黄色のドレスとか持ってたんだ?」


 思わず声がうわずる。


「ポケットですよ。空間圧縮して持ってきたのです」

「私もよ」


 何故かオリエもシルバーの豪華なドレスに着替えている。


「どうしてオリエまで着替えるんだ?」

「あら、このままバーナードの経済復興を指をちゅぱちゅぱ咥えて見ているつもりはないわ。ベガも便乗させて貰います」

「スゴイデス…………」


 そんなふたりを口を半開きにして見ていたルーバック氏。暫し固まっていたが、はたと気が付き小さく咳払いひとつ、僕らを大統領が待つ貴賓室へと案内してくれた……


「いよいよデスネ。ここまで大変デシタネ」


 ルーバック氏の声に我に返る。


「全てルーバックさんのお陰ですよ。ところでひとつ聞いてもいいですか?」

「ハイ、なんでもドウゾ、どんなことデスカ」

「ルーバックさんはナナのこと、バーナード星の話、最初から信じてくれたんですか?」

「なあんだ、そう言うことデスカ」


 彼は前を向いたまま暫く間を置いて。


「信じていた、と言えばウソデス。星の皇女さまとか6光年先の星とか、ワタシの常識では理解不可能デシタし、有り得ないと思いマシタ」

「じゃあ、どうして」

「マズハ信じようと思いマシタ。信じてみようと思いマシタ。だって、ホントだったらスゴイことデス、もしウソでも、たいした損害はアリマセン。ナナ皇女のスガタとバナナの味は信じるに十分デシタし」


 遙か彼方の青空を見上げたままでルーバック氏は感慨深げ。

 1ヶ月という短期間での交渉決着、だがそれは決して平坦な道のりではなかった。

 僕らの話に賛同してくれた大統領とルーバック産業大臣は何度も何度もシリウスにある宇宙貿易連合本部へその体を運んでくれたのだ。勿論宇宙船の運転手はナナだ。


 遙か前方の青空にきらり光る塊がだんだん大きくなってきた。やがてそれが綺麗な三角形を構成するむっつの機体になったかと思った瞬間、機影が大きく二手に分かれた。真っ白なスモークが吐き出されると見る見る大きな大きな白いハートマークが青空に浮かび上がった。


「これがワタシタチの最高の大歓迎デス」


 おおおおお~っ!


 大きなどよめきは僕の背後から、空港に詰めかけた見渡す限りのサモスランカの群衆から巻き起こった。ハートマークの向こうに点滅する黄色いランプが見えたかと思うとそれは一瞬で大きく迫り、その立派な丸い姿をハートの真ん中に静止させた。


「大っきいね。皇室専用宇宙船は5人乗りだなんて、ナナねえ嘘ついたな」

「嘘じゃないわよ。あれはバーナードの政府専用宇宙船。皇室の宇宙船じゃないもの」

「そうなんだ……」


 オリエの説明に月子はあっさり納得する。

 って、ホントに皇室専用船は5人乗りなのか?


 うおおおおおおおおおお~っ!!


 考えている間に一瞬で眼前に迫ったその偉容。

 丸いドームを思わせる巨大で黄色い円盤が誘導路のど真ん中に着陸し、こちらに向いた一部が大きく開いた。


 輝く丸い光の中から現れたのは白い正装の皇帝陛下と、彼に寄り添う黄色いドレスの王妃さま。その左右にロイ王子とサキ皇女、そしてナナが僕らに手を振り地上へと歩を進める。すごいオーラだ。後光が差すとはこのことだ。でも考えてみたらバーナード皇室って5人家族なんだよな。皇室宇宙船が5人乗りって、ギリじゃん…… などとどーでもいいことを考えている間にも白い髭の皇帝陛下は地上で待つサモスランカ大統領に歩み寄り固い握手を交わした。


 パパパパッパパ~~ッ!!


 待ってましたとばかりに演奏隊がファンファーレを歌い上げる。

 瞬間、僕らの上空に巨大なスクリーンが現れ、ふたりをドアップで映し出した。


 わあああ~~!!


 驚きの声が響くのも無理はない。地球にこんな技術はないのだから。


「お兄ちゃん、いよいよだねっ。なんかドキドキするね!」

「待ちに待った調印式デス。これで国交が樹立デス!」


 ナナの願いは叶った。


「ナナねえってやっぱり超綺麗だよね。それにとっても嬉しそう」

「……だね」

「もう、お兄ちゃん真っ赤だよ。わかりやすいよっ!」


 何千人ものサモスランカ国民が見守る中、星と国の正式な国交が、樹立した。






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