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才色兼備のナナ姫は、恋の作法がわからない!  作者: 日々一陽
第12章 才色兼備のナナ姫は、恋の作法を気にしない!
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第12章 最終話

「短いようで、長かったのかなあ」

「そうですね。あの、陽太さん……」


 微かに波の音を感じるホテルのテラス。

 遙かな海は真っ暗で船の灯りは見えないけど、空には日本の100万倍の星たちが煌めいている。


「離れ離れ、ですね」

「ああ、明日からは別々の学校だな。ナナはバーナーナの、僕は変わらず桐星高校で……」


 長い一日が終わった。

 今日、バーナーナとサモスランカは星交、と言うか、国交を樹立した。

 夜の晩餐会まで分刻みで行事が目白押しだった。

 そして、明日になればバーナーナの皇室ご一行さまはナナも一緒に星に帰る。


 今後サモスランカは中継・加工基地になる。農作物とその加工技術を輸入し地球の各地へ再輸出を行う一方、地球のマンガやアニメをバーナーナへ輸出するのだ。

 当初、サモスランカという国限定とは言え紛争を抱える地球との国交に難色を示す宇宙貿易連合に、工業製品は貿易から除外すると言う条件をナナが提案し、話を一気に決めた。


「だって、バーナーナは工業製品なんてほとんど作ってませんし」


 丸田・ザ・ジャイアントが残した食品加工工場はバーナーナとサモスランカの人達が一緒に働く工場になった。バーナーナの人が公式にサモスランカで働く、この事はサモスランカの自衛力を絶対にした。何故なら、サモスランカに攻撃を仕掛けると言うことは、バーナーナを敵に回すと言うことだからだ。地球が束になっても敵いっこない。この状況を背景に貿易の公平を図るためサモスランカは永世中立を宣言する予定だ。


 そして。

 デザートパーラー・ケンタウルスの全18店舗は、フルーツパーラー・シャングリラと店名を変えて、天野店長がグループ支配人となり辣腕(らつわん)を振るう。


 全てうまく行った。

 バーナーナの求人倍率は一気に改善したらしい。

 宇宙有数の人口を誇る地球との通商目当てに多くの企業がバーバーナへ押しかけてきたのだ。


「ところで、イグール王子はもう言い寄ってこないのか?」

「はい、さすがに諦めたようですね。経済力を背景にバーナーナの皇女は自分の要求を最後には断れない、と踏んでいたみたいですけど、そのアテが外れたわけですから。あっ、でも、彼は今カエラさんに熱烈アブアタック中らしいですよっ!」

「カエラさんって、ダーク社長の娘の」

「はい。ご存じの通り粉飾疑惑の大騒動があって帝国コンツェルンは大揺れに揺れてるわけですが、その心労からかカエラさん激ヤセしたんですよ」

「まさか、そうしたら美人になった、とか?」

「はい、ご明察ですっ。カエラさんって元々お母さん似で美人でしたから。風の噂ではこのままゴールインだろうって」


 なんと安直な。


「じゃあオリエのお姉さん達はダメだったんだ」

「あはっ、そうですね!」


 僕の右腕には優しいナナの感触。

 緩やかな風がほんのり甘いナナの香りを運んで、僕は不意にドキリとする。


「わたしね、もっと陽太さんと同じ学校に通いたかったです」


 彼女は明日からバーナーナの学校へ戻る。

 元々彼女の転校はバナナの売り込みのためと称して期間限定で親を説得してのこと、らしい。

 ナナがバーナーナの学校に戻ると知ると、何故かオリエも同じ学校へ行くと言い出した。


「ちょっと会えないだけ、だよな」

「そりゃあそうですけど…… 陽太さん……」


 月明かりではナナの表情も分からない。

 だけど僕を見上げる彼女に、魂を残らず吸い寄せられる。


 そうだ、言わなくちゃ。

 僕の気持ちを伝える地球の方法、日本の作法……


 この1ヶ月、色んな方法を考えた。

 お揃いの指輪を贈る、とか。

 真っ赤な薔薇の花束をプレゼントする、とか。

 シャンパングラス片手にちょっとキザに「俺と結婚しよう」とか、星降る公園でさりげなく「一生一緒だよ」とか。


 でも、どれも違う。

 僕は……


「あっ!」


 ナナの肩に手を回すと、彼女は小さく驚いた。

 そして、僕を見上げたその瞳には月の光が輝いて。


「ナナさん…… 好きです。僕はナナさんが大好きです」

「はいっ! 私も陽太さんが大好きですっ!」

「……」

「あの……」

「ん?」


 金色の髪が海の方へと軽くなびく。


「これが地球のプロポーズ、なんですね」

「ははは。そのつもり、なんだ。平凡すぎてごめん」

「いいえ。プロポーズに優れたも平凡もありません」

「そう、かな」

「そうです、そうに決まってます。だってわたしは今、こんなにも幸せなんですからっ!」


 そんなナナはいじらしく、とめどない気持ちが溢れ出す。

 思わず彼女の細い腕をぐいと胸に引き寄せ。

 華奢な彼女は今にも折れそうで、あの圧倒的な強さが嘘のよう。


「ナナ……」

「陽太さん……」


 そうして。

 くちびるを重ねた瞬間、僕の、そして彼女の内なる気持ちが解き放たれた。


          ◆ ◆ ◆


 飛行機というものに初めて乗った。

 宇宙船に比べ何と不自由な乗り物だろう。

 空港からも電車を乗り継ぎ、重い荷物を月子とふたりで引っ張ってマンションに辿り着いたのは夜も10時を回っていた。


「ただいま~」

「お帰りっ、陽太ちゃん、月子ちゃん、お土産はっ?」


 パジャマのままでパタパタ出て来た母さんは、いつもの調子でハイテンション。


「はいこれ、サモスランカまんじゅう」

「わあっ、ありがとう陽太ちゅん! そうそう、お風呂湧いてるわよ」

「じゃあ、月子から入れよ」

「ありがと、お兄ちゃん」

「あれっ、ナナさんは? やっぱり本当に帰っちゃったの?」

「あ、うん」

「だけどまた会えるんでしょ?」

「あ、うん」

「お茶入れるから、おまんじゅういただきましょ」

「風呂の後でね……」


 僕は荷物を手に自分の部屋の扉を閉める。

 そうしてベッドに体を預けると殺風景な壁を見た。

 ついこの間まで隣の部屋へのドアがあったその壁は今、まっさらになっている。

 明日からは別々の学校へ行くからとナナが元に戻したのだ。


「はあ~っ!」


 息つく暇もないほど賑やかで、常識なんか通じない日々も、今となっては懐かしい。


「ナナも頑張りますから、陽太さんもお勉強頑張ってくださいね」


 優しい深紅の瞳が眼前に浮かぶ。

 学校を卒業したらまた会える。

 一緒になろうと誓い合った。

 それでも、何だろう、この気持ち。

 部屋の穴はなくなったけど、心の穴は張り裂けそうだ。


「はあ~っ!!」


 何回溜息をついただろう。

 僕はベッドから降りると、その何もない壁へと歩み寄る。

 何もない真っ白な壁。

 昔はキースヘリングのアートポスターを貼っていたっけ。

 また会えると分かっていても想い浮かぶのはあの笑顔ばかり。


 コンコンコン


「って、誰もいないのに、なにやってんだか……」


 意味もなく壁を叩いて独りごち、僕はスーツケースに手を伸ばす。


「そっか。僕、寂しいんだ……」


 と!



 バリバリバリバリ……



「ん?」


 音の方を見る。


「ん、ん、んなあ~っ!」


 意味不明の声が漏れた。

 そこには真っ白い壁を突き破るしなやかで細い手が。

 その手はあっと言う間に壁に巨大な穴を作り……


「じゃ~んっ! お待たせしました。あなたのナナですっ!」

「って、どうしてお前がここにいるっ!」

「だって、バーナーナの学校なんて(もじもじ)ここから通っても5分で着きますし」

「だからって、どうしてまた壁突き破るんだ!」

「だって(もじもじ)……」


 絹のような黄色いドレスに黄金のティアラ、バーナーナ皇室の正装に身をくるみ、何やらモジモジしながらも壁の穴をさりげなく拡張していくナナ。


「陽太さんからプロポーズしてもらったって言って、今度は正式なプロポーズだって言って、また両親を説き伏せてきました。父も陽太さんを大変気に入ってくれて、後はお前の好きにしろ、このバカ娘! だって!」

「だったらいちいち壁を補修してマンション出なくても良かったな」

「そうですね。でもお陰でオリエはここを出て行きましたよ」


 ぺろり小さく舌を出したナナは、しかしすぐに改まり冠を取って頭を垂れる。僕は穴の前に立ち、彼女と一緒に壁を壊した。


 べきっ! ばきっ!

 ばりばりばりっ!


「やってみると、意外と楽しいんだな」

「陽太さん上手ですねっ!」


 ばりばりべりっ!

 ぼきっぼきっ!


「これがふたりの初めての共同作業、ってやつですねっ!」

「ケーキ入刀みたいに言うなよ」


 そうして。

 ふたりで大きな大きな大きな穴をこじ開けると、彼女の細い手を取った。


「部屋、汚いけど。さあどうぞ、お姫さま」

「はい、陽太さんっ!」


 華やかなドレスのまま床に正座をしたナナは、僕の目をじっと見つめると、やおら三つ指を突いて頭を下げた。


「ふつつか者ですが末永く愛してください、陽太さん」




 才色兼備のナナ姫は、恋の作法がわからない!  完




【あとがき】


 あなたのナナですっ!

 皆さん、永らくのご愛読ありがとうございましたっ!

 最後までお付き合いいただいた皆さまに、わたしから心ばかりの投げキッスをお贈りしますねっ!


 ん~ちぱっ!


 バナナの売り込みに地球を訪れたところから始まったこの物語。

 地球の人は真面目で働き者で、でもだからこそきっと、誰もわたしのことを信じてくれなくて。

 そんな、わたしの前に現れた陽太さん。わたしを颯爽と助けてくれて、そしてさりげなく去っていこうとした陽太さん。わたしがバーナーナから来たことをすぐに信じてくれた陽太さん。彼と一緒の毎日はとても新鮮で楽しかった。


 でも、わたしはバーナーナの皇女、自分ひとりが幸せになるなんて出来ませんよね!

 そのために陽太さんも、そして月子ちゃんまで変な抗争に巻き込んでしまって……

 本当はお母さまに怒られちゃいました。

 ナナはいつも無鉄砲だって。

 でも、そこがナナのいいところでもあるって。


 これからわたし、陽太さんと一緒にシリウス王立大学を目指します。

 そうして、宇宙貿易連合でバーナーナと地球の関係を見守っていきます。

 それまで式はお預けですけど、心もマンションの部屋もいつも陽太さんと一緒なので寂しくなんかありません。


 さあ、マンション住まいの皆さん!

 寂しくなったら部屋の壁をぶち抜いてみて下さい。

 新しい出会いがあるかも知れませんよ。

 ……一切責任は取りませんけど。


 さて、いつもならここらで次回予告に行くところですが、もう次回はありません。

 以下は作者さんのコメントです。



 ども、日々一陽です。

 実はこの物語、最初の予定では、バーナードと国交を結ぶのは日本だったんですけど、成り行きで「サモスランカ」と言う架空の国がその役を果たしました。

 読んでいただいたらお分かりの通り、このお話には至るところに人類への皮肉が散りばめられています。その関係上、日本はバーナードと国交を結ぶのに相応しくない、って思えてきて。


 と言うわけで、まいどお馴染み取って付けたような話になってゴメンナサイ。

 って、あっ、見捨てないでっ! 次からはちゃんとしますからあ~! お願い、僕を捨てないで~っ!



 さて、この後には短編小説一編と、連載一本を用意しています。

 連載の舞台は近未来の人口減少が進んだ日本。少子化対策のため「歪んだ恋愛」は禁止される。その生け贄となった男と女が復讐を誓い合い、手を取り合ってイチャラブしちゃうラブコメディ…… の予定です。是非そちらもお楽しみに。



 はいっ、作者さん、どうもありがとうございました。

 名残惜しいですが、ナナからも本当に最後のご挨拶です。


 安くて美味しくて栄養豊富なバナナ。

 黄色いバナナを食べるとき、少しでもちょっとでもバナナの皮を剥く間だけでも、わたしたちのことを想い出してくれたら、ナナはとっても幸せですっ!

 ではみなさん。いつかまたお会いしましょうねっ!

 お元気でっ!



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