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才色兼備のナナ姫は、恋の作法がわからない!  作者: 日々一陽
第6章 ナナ、スーパーへ行く
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第6章 第3話

 男は帽子を取りながらナナに目をやる。

 見事に後退した寂しい頭髪が顕わになる。


「どうしてナナを狙うんだ!」

「いえね、これも仕事で。俺の名はデューク南郷なんごう。帝国コンツェルン暗殺事業部きっての凄腕ドライバーさ!」

「ドライバーって、運転手か?」

「そうだ。社長お付きの凄腕専属ドライバーだ。だが今は違う。今、俺は暗殺者スナイパー。この仕事を成功させればボーナスをはずんで貰えるんだぜ!」

「なあ、運転手が暗殺稼業に手を出すって無理があるんじゃないか?」


 図星だったらしい。

 目の前のハゲ、じゃなかったデューク南郷は拳を握りしめる。


「わかってる、そうかも知れないさ! だけど男にはやらなきゃいけない時があるんだ! なあ少年よ、俺、何歳に見える?」

「45歳?」

「だよなあ~っ! そう見えるよなあ~っ! だけど実は28歳なんだ」


「「「ええ~っ!」」」


 声を揃える女性陣にデューク南郷は自嘲気味に。


「ナナ姫は知ってるだろう? うちの会社には育毛事業部があること。実は俺、お前の暗殺に成功した暁にはエグゼクティブ専用の最上級育毛コースを特別に受けさせて貰う約束なんだ」

「何もそこまで……」


 と、僕の言葉を彼は強く遮って。


「お前みたいに毛フサなヤツにはわからねえんだ! 先月、大好きだった秘書課のレモンちゃんにハゲは嫌いだってハッキリ言われたこの俺の切ない気持ち…… ぐっ、男はさ、見た目じゃないんだよな。見た目じゃないんだ。だけどそれが現実さ。幸せの神は前髪しかつかまないんだ。だから俺は毛フサになって彼女を見返してやろうと……」


 ちょっと同情する僕。


「まあ、色々あるんだろうけど…… だからって人を殺していいのか?」

「うるさいうるさいうるさいっ!」

「それに、イグール王子はナナを諦めるって言ってるんだぞ。お前のボスは知らないのか?」

「知ってるさ。だけどダーク社長は疑い深いお人でね、まだ命令は撤回されていない。さあて、お遊びはここまでだ。ナナ姫に恨みはないが死んで貰おう。地球のスーパーマーケットで買い物カートに挟まれるという不幸な事故の所為でな。そうすれば誰も怪しまない」


 アホか、こいつ。

 そんな事故で死ぬわけねえだろ!


 しかし。


 いつの間にかナナの周りを20人ほどのカートを持った男たちが取り囲んでいた。

 そうしてゆっくりその包囲網を狭めていく。

 僕は月子に小さな声で。


「やるぞ月子」

「うん」


 こいつら、どんな目に遭わせてやろうか……


「なあデューク、ナナが恐ろしく怪力なことを知っているか?」

「ああ勿論だ。しかも彼女は宇宙オリンピックの体操競技にも出場した超一流のアスリート、一歩間違えばこっちがやられる。だけどその時はこのレーザー銃で彼女の足の動きを止めてから……」

「バカだなお前。ナナの動きはそんなレーザー銃なんかよりよっぽど速いぞ。お前らみんな一瞬でナナに服を脱がされ、お腹に「へのへのもへじ」を描かれて地球人の前で恥をさらすことになるぞ」

「何をバカなことを。いかにナナ姫といえどそんなこと出来るわけないだろ」


 ナナも「何言ってるの?」と言う視線を僕に向けてくる。

 僕はその視線に笑顔を返して。


「降参するんなら今の内だぞ」

「うるさいうるさいうるさいっ! おいみんな、やっちまえっ!」


「「「「「了解ラジャー!」」」」」


 ガラガラガラガラ

 ガラガラガラガラ

 ガラガラガラガラ

 ガラガラガラガラ


 先陣の男たちが四方からカートを激走させナナを狙う。その後ろ、飛び退いた彼女の着地を狙うように第2陣、第3陣のカート部隊が控える。


「ナナっ!」


 僕が彼女の方に駆け出すと、けたたましいカートの音が止まった。

 デューク南郷もカートを押す男たちも、ナナもオリエも、みんな全てが静止した。



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