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ハズレ奇術師の英雄譚  作者: 雨宮和希
第二章 呪われし運命に救いの手を
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第13話 「酒豪」

「ははははは!! そうかそうか! ほれほれ、酒でも飲めぃ!」

「未成年にさらっと酒を勧める大人ってどうかと思うんだ俺」

「何を言う! こんな世界まで来て、いまさら法律もクソもあるまい!」


 そう言って、豪快に酒を樽ごと抱え込むのは、ハゲにサングラスにアロハシャツに短パンの大男。

 ライン王国に光臨せし勇者。

 士道はそれを若干引き気味な表情で眺めていた。

 

「いやぁ、いくらなんでもこれが勇者名乗るのはどうかと思う」

「……すみません。こんなのが勇者で」

「いや、別にアンタが謝る必要はないんだけどさ」

「誰がこんなのだ。暴言も一度は許してやろう。だが次はないぞアルドック?」

「何で私だけ!?」


 アルドックと呼ばれたのは勇者のお目付け役だという騎士の青年だ。

 実に苦労人っぽい顔をしている。


 士道達はリザードマンを片付けた後、そのまま迷宮を出て酒場に連れこまれていた。

 樽ごと酒を飲む勇者のせいで、士道達は非常に目立っている。

 迷宮に潜っていたとき、勇者のパーティには何人か騎士がいたのだが、彼らは勇者の世話をアルドックに任せてそそくさと宿に戻ってしまった。

 理知的なアルドックが彼らを「この人でなし!」と罵倒していたあたり、勇者の世話がどれほどの重労働なのか分かるだろう。

 アルドックは顔を歪めて、


「私だって最初は百年来に光臨した伝説の勇者様の傍にいられると純粋に喜んでいたんですよ……!」

「ああ、うん。それで出てきたのがコイツか。ドンマイとしか言いようがない。というか何だよ、勇者のこの服? 格好だけでももうちょい威厳ある感じにできなかったのか」

「どんなに高い鎧や魔導服を持ってきても、勇者様はその服しか着ないんですよ……!」

「ワシはファッションというモンを重視しとるからな!」

「いい大人がアロハシャツと短パン着てファッションとかのたまうってどうなの?」

「え? これが向こうの世界での普通だと勇者様に説明されたんですが……」

「いやいやないから。これが普通とか言われると普通の概念から定義しなければならなくなる」

「やっぱりですか。……話を聞く限り勇者様の同郷ですよね? どうやってこっちの世界に?」 

「うん? だからワシらは天使に呼び出されたと言ったろう」

「普通の人間からすると、天使が姿を見せたことが既に信じられませんよ」

「いや、俺たちから見ても信じられないんだけどね」

「?」

「ワシは信じたぞ。勇者だしな」

「アンタ向こうでどうやって生きてきたんだよ」


 士道は呆れるが、サングラスをキラリと光らせる勇者は大した反応を示さずに酒を飲み続ける。

 もう夜だから意味はないだろうが、外すつもりはないらしい。

 「酒樽もういっちょよろしく!」の声も忘れなかった。

 騎士の青年が半分涙目で財布の中を覗いている。

 この世界の花型職業だというのに、妙に世知辛い現実を見てしまった。

 泣けてくる。


「勇者様! せっかく迷宮で稼いだお金が切れますので少しは自重してください!」

「うん? 金が消えたらまた稼げばよかろう。ワシを誰だと思っている?」


 ドヤ顔の勇者を生暖かい目で眺めるのは、アルドックと周囲で酒を飲んでいる冒険者達。

 

「……もう駄目だろうコイツ。誰か代わりに勇者やってやれよ」

「うん? そういえばまだワシの方は名乗っていなかったな、シドーよ」

「噂だけでも名前ぐらい知ってるぞ」

榊原(さかきばら)(じん)だ。この世界を救うためにやってきた」

「お、おう。頑張ってくれ」

「何を驚いている? 嘘に決まってるだろう! はっはっは!」

「……いや嘘じゃ駄目なんですけどね」


 騎士の青年はこめかみに手を当てて嘆息する。「胃痛が……」と呟いているあたり、これから先が非常に心配だった。


「別に救っても構わんがな。まずは酒だ、酒。向こうには『酒ががなくては戦はできぬ』って格言があるんだ。なあシドー?」

「ないぞ」

「ないのか?」

「は、はぁ。今となってはもうその酒代を稼ぐために迷宮で戦ってるわけなんですが」

「本末転倒だな」

「別に構わんだろう。どのみちレベルの向上は必要不可欠だからな。……あ、酒樽もういっちょ!」

「何杯目だよ? いや何樽目だよ?」

「酒は数えるものじゃあないんだ。まだ飲み始めたばかりのシドーには分かるまい」

「……できれば一生分かりたくないわけだが」

「私もです。いやシドーさん、貴方がいなければ、向こうの世界にはあんなのしかいないとかいう勇者様の妄言を信じるところでした……!」

「あんなのって言ったな! アルドック貴様! 自分とこの勇者をあんなのと言い放ちやがったな!。お仕置きをくれてやる!」


 迅は手をワシャワシャさせながら立ち上がると、見当違いの方向に向けて駆けていく。

 酔っているからか足取りはフラ付いている上、アルドックと呼んだ騎士の青年を探しているらしい。

 周囲でのんびり酒を酌み交わしていた冒険者達は慌てて逃げていく。


「ハゲが来るぞ、逃げろ!」

「どこだーアルドック! って今、ハゲって言ったの誰だ!? なぶり殺しにしてやる!」

「……なあ、アイツはいったい何で向こう行ったんだ?」

「酒のせいで方向感覚が曖昧なのと、あの黒い眼鏡のせいで私達が見えてませんね。ここの酒場、薄暗いですし」

「いやサングラス取れよ」





 






「……で、何だって?」

「この都市にある魔法塾の場所だよ。知ってるんだろ?」

「うん? シドーは魔法を習いたいわけか? そういう天職か」

「……まあ、似たようなもんだな」

「うーむ、アレは少々複雑な位置にあるからな……よし、地図を書いてやろう」

「へえ書けるのか?」

「何を言う。アルドックなら書けるに決まっているだろう」

「やっぱり私なんですかそうですよね」

「コイツは騎士だが、戦い以外のことなら高レベルで全てをこなせる」

「それ褒めてないですよ勇者様」

「……」

「可哀想な物を見る目はやめてくれません!?」

  

 などと言っている間に、地図は完成したようだった。


「この短時間で、このクオリティか」 

「だろう? コイツ無駄な才能だけは本当にあるよな」

「ああ、間違いない。断言しよう、これは無駄だ」

「アンタたち本当は私を貶したいだけなんでしょ!? そうなんでしょ!?」

「ワシ……もう眠い」


 酒の飲み過ぎで顔を赤くしていた迅は、唐突に地面にぶっ倒れた。

 士道は心配しかけたが、がーがーとしたいびきを聴いて呆れ返る。

 振り向いてアルドックに爽やかな笑みを浮かべると、


「地図サンキューなアルドック。じゃ、俺はこれで」

「え? ああ、はい」


 そそくさと酒場の外に出ると、「……え? この人、私が宿まで運ぶの?」という声が聴こえた。

 強く生きろ。 


 士道が周囲を見回すと、とうに夜も深まっていた。

 魔法塾に伺うのは明日にして、今日のところは宿を取ることにしよう。

 そう思い、街中に歩みを進めた。

 時間短縮のために近道をしようと人気のない裏路地に入る。

 直後。


「……誰だ?」


 振り向く。

 漆黒の魔導服をたなびかせ、夜闇に向けて詰問する。

 間違いない。確実に魔法を駆使して誰かが隠れている。

 『精霊王の加護』により魔力感知に長けた士道をそう簡単に(あざむ)けはしない。


「……」


 その魔力の気配は、質問に答えることはなかった。

 


 ただ、士道に向けて恐ろしい速度で肉薄してくる。


 洗練された魔力は、実力者であることを物語っていた。

 

「コイツ、街中で……!?」


 直後。

 士道の理解を越えた現象が炸裂した。








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