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ハズレ奇術師の英雄譚  作者: 雨宮和希
第六章 そして破滅は道を開く

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第11話 「新魔王ルシア・デビルジーク」

 ――『魔王』となるのは、簡単なことではなかった。

 相応の『試練』を突破する必要があり、『魔界』において行われるそれは、並の悪魔にとっては死地に向かうことと等しかった。腕に自信のある上位悪魔でも、最初の試練を突破できるか否か、そういうレベル。ゆえに、魔王となる者は――最初からけた違いの実力を持っているのが普通なようだった。すなわち魔神ゲルマに見初められた者たちだ。

 ルシアが十五歳となり、大人の資格を得た頃、魔大陸は荒れていた。『人間連合』との戦争に敗北し、統治する『三大魔王』がすべて姿を消したのだから当然であった。

 不死魔王リーファと龍魔王ウォルフは封印され、霊魔王マルフィスは討伐された。魔神ゲルマに選ばれた者たちは、あまりにも隔絶した実力を持っていたはずの三人は、人族の怪物の手によって敗北したのだ。

 そのせいで悪魔帝国は崩壊し、悪魔族は人族に虐げられた。リーダーがいない以上、悪魔族はそれぞれ党首を据えて分かたれ、当然、人族に反抗するために各地で反乱がおき、そのたびに悪魔族は鎮圧され、何もしていない悪魔族もその余波を受けた。

 そんなのはもう、うんざりだった。

 苦しそうな仲間や家族を見るのは、もう嫌だった。


 ――だから『魔王』の座に挑戦したのだ。


 落ちこぼれとすら呼ばれた下位悪魔。『再生』以外に何の取り柄もなく、酔った人族のサンドバックにされていたような少年――ルシア・デビルジークは、こんな現状を変えるために覚悟を決めたのだ。死の物狂いで努力し、血の滲むような鍛錬を繰り返し、何度も何度も皆に馬鹿にされそのすべてを無視し、それでも魔王になるのだと、悪魔族を統一するリーダーが必要なのだと。ただでさえ人族に敗北した現状で、さらに悪魔同士でいがみ合っていたら、まともに刃向かえるわけがない。実際に人族に刃向かうかどうかはともかく、刃向かえる力があると示し、虐げられる種の現状を変えたかった。ただそれだけだった。


「……おおおおっ!!」


 血みどろの状態で立ち上がる勇者に、ルシアは目を見開く。

 あの傷で立てるわけがないと思った。何せ、腹をかっさばいたのだ。立てるわけがない。

 何より、あの少年には意思の炎がない。

 守るべきものもない男が、あれだけの傷で立ち上がる理由は――


「――約束、したんだ」


 少年は言う。透徹とした、氷のようだった瞳に、煮え滾らんばかりの炎を宿しながら。


「――アイリスと。約束したんだ……!!」


 美しい顔を険しく歪めて、約束を果たすのだと少年は叫ぶ。

 たとえ愛する者を失ったとしても、彼女の想いまで失わせるわけにはいかないのだと、その意志を以て示すように。


「だから、ぼくはこんなところで死ぬわけにはいかない」


 勇者が踏み込んでくる。それは、これまでのように流麗な体重移動から、効率を極めたかのように美しい動きではなかった。がむしゃらに、剣を振り回すかのような、めちゃくちゃな動き。当然だ。立ち上がったからと言って、脚や腹の傷が消えたわけではない。

 むしろ、溢れ出す血は確実に大和の命を削っている。痛いのだろう。苦しいのだろう。少年は耐えるようなうめき声を漏らしながら、それでも決して止まることはない。

 ルシアが優勢だった。時折、大和の攻撃は確かにルシアを穿つが、そのたびに『再生』が傷をいやしていく。そしてそれ以上に、ルシアの攻撃が大和に届いていた。これまでのような華麗な回避は見る影もない。だが――肉を切らせて骨を断つとでも言うように、大和は一切止まらなかった。光を纏う『聖剣』を、ただ意志のままに振り回す。


(俺様は……俺は……っ!!)


 ――イレギュラーといわれるのも当然だろう。明らかに、新魔王ルシアは魔神ゲルマが想定していた人材ではなかった。なぜなら本来、『試練』を突破できるような実力はなかったのだから。たまたま、ルシアが持っていた固有スキル『再生』と『試練』の内容がかみ合い、精神力だけで強引に突破することができた。が、あの場所は地獄という他なかった。それでも耐え抜いたからこそ、ルシアは魔王の座を手にし、強大になった力とともに悪魔帝国に帰還した。統治するに値する悪魔になろうと思った。

 態度から変えた。一人称を『俺様』に変え、自らを奮い立たせた。背筋を伸ばし、人と目を合わせるようになった。自分は偉い。ゆえに堂々としていなければならないのだと、自分を納得させた。そうして、己の理想を説き、着々と部下を集め、魔王軍新魔王派を組織した。不死魔王の復活により、ルシアの理想を受け入れなかった者は彼女のもとへと逃げ出した。とはいえ、悪魔帝国の統一という当初の目的は果たした。これだけの力をまとめられれば、いくら人族の『四強』とはいえこちらをなめてかかることはできない。

 ――悪魔族という種が虐げらずに済む、平和な未来は目前にまで迫っていた。


 五人の勇者の降臨さえ、なければ。


「――貴様を倒し、俺様は悪魔の未来を創り出す……! そう決めた……!」


 仲間がいた。同じ志を背負った、数々の同志がいた。

 ドムやブレッドのように、こんなルシアに限りない忠誠を尽くし、やがて意志を託して死んでいった部下たちがいた。

 悲しかった。悔しかった。こんな世界の理不尽さに唾を吐き捨てた。

 それでも。

 諦めるわけにはいかないから。仲間の死を、彼らの意志をすべて背負うと覚悟したのだから。

 だから。

 数々の屍を踏み越え、自分に協力してくれた者すべての意志を背負って、ルシア・デビルジークは今ここに立っている。

 ゆえにこそ、新魔王ルシアは倒れない。


「――お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 ただ鍛え抜いた剣撃と、魔王としての膂力を以て、大和へと襲い掛かる。

 二人の視線がぶつかる。

 烈火の如き眼光が火花を散らした。

 そこから先の数分は、数時間にも感じられるかのような攻防の連続だった。

 お互いに、究極の一瞬を繰り返した。研ぎ澄まされた集中力が、常に相手の予想の一歩上をいった。信念と、信念のぶつかり合い。咆哮が炸裂する。

 すべては、お互いが守るべきもののために。

 ――果たして。


「……ぼくの、勝ちだ」


 最後に立っていたのは、白崎大和だった。ルシアは、とうに魔力が尽き、『再生』を起動することができなくなっていた。血みどろの状態となり、倒れ伏すルシアに、しかし首の横に剣を突き刺していた大和は、その剣を引き抜く。


「――ぼくには、あなたを殺す理由はなくなった。その前に、不死魔王を倒す」

「は……俺様を見逃すと、面倒だぞ?」

「分かってるよ。でも、魔神に復活されるほうが、はるかに未知数だ」


 荒く息を吐いていた大和は息を落ち着けると、淡々とした口調でルシアにそう告げた。

 そのまま背を向け、血染めの魔導服をたなびかせ、その場を歩き去っていく。

 その直前。


 風切り音が聞こえた。


「――!?」


 大和は咄嗟に反応した。

 なぜなら、それはアイリスを殺した攻撃とまったく同じものだったから。

 魔力の矢が、驚愕の声を放つルシアの心臓を直撃する。

 もはや新魔王を名乗るその男に、対抗する手段は一切なかった。


「――済まない」


 最期の言葉を聞いたのは、大和だけだった。

 突き刺さった矢は大量の血飛沫を舞わせ、まるで噴水のように紅の地獄を形作った。

 その光景を見た大和は、矢を打ち放った方向へと目を向ける。

 はるか遠方。

 帝都ヴァラキアの方角。

 王都フローゼのときとまったく同じ、超遠距離狙撃。


「まだ……生きていたのか。『異界同盟』は、全員潰したつもりだったけど」


 かつては『異界同盟』に操られ、今は魔王軍に復帰している『千里眼』と『射撃補正』の固有スキルを持つ転移者――蒼井舞花。

 それが生きていることを確認した大和は、氷のような冷徹さを取り戻す。

 新魔王が殺されたことにより、魔王のバランスは元に戻った。これにより、魔神復活のリスクがさらに高まってくる。だが大和の中の優先順位には、それよりも高いものがあった。


「……仇討ちなんてものに意味があるかは知らないけど、でも――けじめはつける」


 

 ◇



 そのとき。

 はるか地底で蠢く何かが――小さく、嗤った。


 


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