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おっさんバックパッカーは異世界へ行っても自由気ままに旅をする。  作者: タジリユウ@6作品書籍化


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第36話 塩の湖

「当然ここにも生物はいないみたいだな」


 塩湖の中にある美しい湖、その湖面は深い底が見えるくらい美しく透き通っている。そして湖の中には生物どころか何も生えていない。


 もしかしたら小さな生物はいるのかもしれないが、塩の大地と同様に塩の湖では何も育たないのだろう。


「さて、ここに来たらやることはひとつだな」


 当然ながらこのすばらしい景色を目の前にしてやらなければならないことがある。この地域ではまだ少し肌寒いが、これくらいの気温なら大丈夫だろう。




「ぷはあ~気持ちいいな!」


 雲ひとつない青空の下、真っ白な塩の大地にポツンとたたずむ湖。そんな湖の中に真っ裸のおっさんがひとり。そう、誰でもない俺である。周囲には誰もいないので、いい歳をしたおっさんが裸で湖の中を泳いでいる。


「本当に自然と身体が湖面に浮くんだな。うわっ、しょっぺえ!」


 湖に入ると、まずその浮力が驚くほど強く感じられた。身体が水面に押し上げられ、まるで空気マットの上に寝そべっているかのように自然と浮いてしまう。


 周囲が塩であるためこの水は通常の水とは異なり、限界まで塩が溶け込んだ塩分濃度が極めて高い塩水だ。だいぶ昔に小学校で習ったが、確かこれを飽和食塩水とでも言うんだっけか。食塩ではないから飽和溶液になるんだっけ? まあ、どっちでもいいか。


 普通の海水の塩分は5パーセントほどだが、限界まで塩を溶かしたこの湖の塩分の割合は少なくとも30パーセントを超えているはずだ。そうなると、泳がなくとも人の身体は自然と浮いてしまう。


 前世にもイスラエルとヨルダンの国境付近に位置する塩湖である死海でもこれと同じ現象が体験することができる。死海もこの小さな湖と同じで塩分濃度が非常に高いため、死海という名前が意味するようにほとんどの生物が生きていくことができない。


 というか、肌に触れるとわずかにピリッとした刺激がある。表面は滑らかだが指先でこすると塩の結晶がざらつく感触が伝わってくるし、口元にほんの少しだけ水滴が入っただけでものすごく塩辛い。超健康スキルがあるとはいえ、これはあまり長く入っていない方がいいだろう。


「はあ~こうやってプカプカと浮いているだけでも気持ちがいいものだな」


 あまり長居できないことは分かっているが、こうやってのんびりと浮いているのは非常に気持ちがいい。前世のプールとかでも大きな浮き輪の上に座りながら浮いているのが好きだったものだ。


 ……素っ裸なのも若干違和感はあるが、この解放感は他では味わえないだろう。もちろん変な性癖に目覚めたわけではないが。


 なにごともいろいろと経験してみるものだな。


「ふう~さっぱりした。さて、先を進むとしよう」


 小さな湖から上がり、バックパックの中に入れておいた水で身体を洗い流してタオルで身体を拭く。


 何度か身体をしっかりと洗ったのだが、まだベタついた感覚がする。これはしばらくしないと取れないだろう。


 これでこのミロネス塩湖に来た目的のひとつは達したわけだが、実はもう一か所見たい場所がある。ニッグからもらった情報を見た時はそんなものが本当にあるのかと驚いたものだ。


 こちらの方は遠くに見えるあの大きな山の麓あたりにあるから道に迷う可能性はなさそうである。ただ、かなり遠そうだから、今日中に到着するのは難しいかもしれない。まあ、気長に向かうとしよう。




「今日はこんなところにしておくか」


 だいぶ走ってきたのだが、今日は目的地に到着することができなかった。


 本当に目印や比較になる物が何もないから、遠近感がうまく働かず、あとどれくらいかわからなくなってくる。そしてとてもすばらしい景色なのだが、あまりにも同じ景色過ぎて飽きてしまった。


 馬車での移動中の景色も飽きてしまうのだが、ここはそれ以上である。


「こんな広大な場所で野営をする経験もあまりないだろう」


 真っ白な塩の大地のど真ん中にテントを張る経験なんてまあないはずだ。本当に周りすべてのものがちっぽけに見えるから不思議である。


 もちろんこんな美しい場所にはゴミひとつ残さないように心掛けなければな。旅人も来た時よりも美しくして帰るのがマナーである。


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