第34話 ミロネス塩湖
「おっ、ようやく見えてきたな」
今回はだいぶ遠くに来たものだ。どうしても国をまたいだことと目的地が少し辺境にあることもあって、移動手段が馬車しかなかった。その苦労に見合うだけの景色が見られればいいのだがな。
ミロネスの街を出てから一日歩き続け野営をして、翌日の昼頃にようやく目的地が見えてきた。
そしてその手前には街ほどの大きな壁ではないが、木の柵でできた検問のような場所がある。今回の場所は観光としても訪れることはできるが、しっかりとこの検問のチェックを受けなければならない。問題なく通れればいいのだけれどな。
「身分証を見せてもらおう」
「はい、こちらになります」
チェックをしている人に商業ギルドカードを見せる。商業ギルドや冒険者ギルドなどのギルドは国同士で連携しており、基本的にはほとんどの国で使用することができる。
一応カトレアからもらっている書状も使えることには使えるが、国が違うので確認に時間がかかったり、そこまで効力がないかもしれないので、できれば使いたくないところだ。
「ふむ、確認はできたが、商売で来たというわけではないのだな」
「ええ、観光目的で来ました。ここから持ち出したりしなければ入っても問題ないと聞いたのですが?」
「確かにそうだが、他国から商売以外でここまで来るやつは珍しくてな。うむ、問題はなさそうだな。ただし、ここからの持ち出しは禁止されているから、帰りも必ずここを通ってチェックを受けるように。身分証は確認したし、ここを通らずに立ち去れば捕まることもあるから気を付けるように」
「はい、わかりました」
俺の商業ギルドカードの情報を書き込み紙に書き込んだあと、カードが返却された。今回はちゃんとこの検問を出てから瞬間転移スキルを使わないといけない。
お尋ね者になるのは勘弁である。
「……やっぱりここを通るのは大きな商店が多いな」
チェックを受けて、そのまま目的である道の先へと進んでいく。途中すれ違った人もいたのだが、どの人も荷馬車に乗っている商人で、後ろにはある物が積まれていた。
ミロネスの街からここに来るまでも同じような荷馬車に何度もすれ違ってきたんだよな。
「おお~こいつはすごい!」
目的地へ到着すると、目の前には果てしなく広がる純白の結晶が陽の光を浴びてキラキラと輝き、まるで雪原のような幻想的な景色を作り出している。
地平線まで続く白いキャンバスは雲一つない青空と対比し、息をのむほど鮮烈なコントラストを描いていた。
「これがミロネス塩湖か。とんでもなく幻想的な光景だな」
塩湖――それは塩分濃度が通常よりも遥かに高い湖のことである。主に地殻変動などで大量の海水が陸地に取り残されてできる湖だが、この地方のように雨が少なく乾燥した地域であれば、その湖の水分が少しずつ蒸発して、だんだんと海水よりも濃い塩水になっていく。
そして塩湖の蒸発や濃縮が進むと塩が結晶化し始め、水分が全くなくなって、ここのように一面に真っ白な塩の結晶が残るわけだ。このミロネス塩湖はかなり大きな塩湖ということもあり、地平線の向こうまで真っ白になっている。
元の世界ではウユニ塩湖がとても有名な観光地となっていたが、あそこもこんな感じだったのかもしれない。
「あっちの方では塩の採掘を行っているみたいだな。邪魔をしないようにこっちの人がいない方へ行くか」
ミロネス塩湖の一番手前の場所には多くの商人や馬車、そして作業員と思われる人が大勢いた。そう、ここは巨大な塩の採掘場となっており、ここで精製された塩は商人たちの手によって、この国どころか他の国までをも渡っていく。
もちろんここにある塩を勝手に採掘して持ち出し、そのまま国の許可を得ずに販売するのは犯罪になるぞ。そういうこともあって、あれだけ厳重なチェックをしているわけだ。
「……なるほど、砂の上を歩いているような感覚になる。ただ、砂よりも少し大きな結晶になっているみたいだな」
多くの人が塩の採掘をしている場所から少し離れた場所へ移動してきた。向こうは仕事でやっているわけだから、仕事中はあまり邪魔をしないようにしなければならない。
そして真っ白な塩湖へ一歩足を踏み入れると、塩の表面がザリッと音を立て、かすかな塩の香りが鼻をくすぐった。広大な白い塩の大地が果てしなく広がり、塩の結晶が幾何学的な模様を描き、太陽光が反射して眩しいほどに輝く一方で、遠くの地平線は揺らめき幻想的な雰囲気を醸し出している。
こちら側には誰も来ていないから、このすばらしい景色を一人で堪能することができた。




