第25話 晩ご飯
「今日の晩ご飯はパッタイと生春巻きだ。どちらも俺の故郷の料理だよ」
今日は俺の世界のタイとベトナム料理を参考にして作ってみた。日本ではないが、元の世界の料理である。
パッタイとはタイ料理の定番である米粉を使った焼きそばだ。この世界にも米は存在するのだが、そのほとんどが日本人の慣れ親しんでいるジャポニカ米ではなく、細長いインディカ米となる。
インディカ米はチャーハンやピラフ、パエリアや炊き込みご飯などといった米自体に味を付ける料理にはそこそこ合うのだが、甘みが少ないので、普通に炊いて食べると俺のような日本人としては少し物足りない。
しかし、米粉にして麺や生春巻きの皮として使えばこちらの米でも十分だ。米粉とはその名の通り米を小麦粉のように挽いた粉だな。米粉を使った麺だと小麦粉を使った麺よりもモチモチするのが特徴となる。
「ふむ、いろんな具材が入っているのだな」
「野菜の他にはあの海で獲れたエビや貝もたくさん入っているよ」
シヴィさんも一緒の食卓へついている。
せっかくなので事前に購入しておいたあの海で獲れた海産物を使ってみた。大きなエビはアークシュリンプで、この黒色のはエミール貝だ。
作り方は普通の焼きそばとほとんど同じで、先に食材を炒めたあとぬるま湯で戻した米粉を使った麺を加えて炒め、最後に砕いたナッツを振りかけてライムのような酸味のある果実を絞った。
「こちらの麺は普通の麺よりも弾力があって初めて食べる味です! それにこちらのシャキッとした野菜とエビや貝の味がまろやかな甘くて酸っぱい不思議なソースと一緒に絡んでとってもおいしいですね!」
「確かにこれはあとを引く不思議な味ですね。ひと口ごとにいろんな味がしてもうひと口と食べたくなります」
元々のパッタイの味付けはナンプラーという魚醤の一種、タマリンドと呼ばれる甘酸っぱいマメ科の果実がベースとなっているが、どちらも似たような味のするこちらの世界の材料を使ってみた。
モチモチした麺の食感とシャキッとした野菜の歯ごたえ、プリプリのエビや味の深い貝と甘酸っぱいソースにナッツの香ばしさと酸味のある果汁が加わって、そのすべてが一体となり、とてもあとを引く味となっている。
日本人にとってはあまり馴染みのない味だが、俺は結構好きなのである。
「こっちの料理は中の色が透けて美しいな」
「生春巻きは米粉を使った皮でいろんな食材を包む料理だよ。中身とソースは2種類あるから、好きな方を食べてみてくれ」
生春巻きはベトナム料理で、米粉を使ったライスペーパーで野菜や茹でた肉とエビなんかを包み、ソースを付けて食べる料理だ。
ぬるま湯で戻した皮は半透明となり、中の色鮮やかな野菜やエビなどの色合いがとても綺麗である。普段俺が作ったり女神と一緒に食べる料理は食材を焼いたり煮込んだりするシンプルな料理が多いが、この依頼は相手が全員女性ということもあって、色合いなどもちゃんと意識しているぞ。
王城で出しても問題なさそうな料理だし、こちらも対価をもらっている以上、そういった配慮は大事にしないとな。
「綺麗なだけじゃなくてとってもおいしいです! こちらも弾力のある皮にシャキシャキした野菜とお肉やエビの食感が素晴らしいですね!」
「こちらの香草の香りはとてもいいですね。それにこのタレも良い味です」
本場のベトナムではパクチーやミントなど香りが強めな香草を使っているが、今回は初めてなので香りが少なめの物を使ってみた。タイやベトナムの料理にはだいたいパクチーが入っているが、あの香りが駄目な人は本当に駄目らしいからな。
ソースは少し辛いチリソースと先ほどのパッタイの時に使った甘酸っぱいソースを用意した。どちらも生春巻きととてもよく合う。
「もちろん中身を好みの食材に替えてもおいしいんだ。この麺や皮は王都の店でも売っていたから、ぜひ作ってみてくれ。タレの方はレシピに書いてあるので、試してみるといい」
「……そこまでご配慮いただけるとは感謝いたします」
「……本当に料理人の方があっているのではないか?」
こちらもそのあたりは考えてちゃんと王城で作れる料理を選んでいる。それを含めての高額な依頼料だ。
そしてシヴィさんはそう言うが、俺は元の世界の料理を知っているだけで、きっと王城にいる料理人の方が俺よりもうまい料理を作ってくれるだろう。食材も高級な物を使えるわけだしな。
いつか王城の料理人が作ってくれた料理を俺も食べてみたいものである。




