第22話 昼食
「ガクト様がこの依頼を受けてくださって、いろんな場所に連れ回してくれるようになってから姫様はとても明るくなりました。ガクト様にはとても感謝しております」
「……それはなによりだ」
カトレアがイスに座って俺が書いた記事を呼んでいる場所から少し離れて、テーブルの上で料理をしている。そして俺の隣にはメイド服姿のミレディさんがいる。
料理も事前に作って時間の停止するバックパックに入れておくのもありだが、今回は時間もあることだし、このすばらしい絶景を見ながら青空の下で料理をするのも楽しいものだからな。
「ガクト様がこの国に仕えて姫様の護衛に加わっていただければ姫様もとても喜んでくれるのでしょうね」
「その話は前にも断ったはずだ。悪いが俺はひとつの国に所属する気はないからな」
国に仕えることになれば、一生金に困ることはないだろうが、その分面倒ごとが付きまとい、敵対国から俺が狙われる可能性はだいぶ上がる。少なくとも今のところはどこかの国に所属する気はない。
この依頼もカトレアは純粋に楽しんでいるかもしれないが、もしかすると国側から俺との接点を作りたくて許されている可能性もある。まあ、俺の能力を考えるとある意味では当然か。
「それは残念です。もしもガクト様のような御方が国に協力してくれれば、どんな望みも思うがままだと思うのですが……」
そう言いながら自分の大きな胸を俺の左腕に押し付けてくるミレディさん。
これはそういう意味だろう。
「……今はいろんな場所を旅したいと思う気持ちの方が強いからな。それと女性を使ってあんまり強引に迫ってくるようだったら、この依頼自体も止めてこの国にはもう近付かないつもりだ。もしミレディさんに指示した人がいるのなら、そう伝えておいてくれ」
「大変失礼しました。残念ながら私程度の魅力ではガクト様の心を動かすことはできませんでしたね」
「………………」
ミレディさんが俺の腕から離れると、その柔らかな感触も消えていく。
逆である。この年頃の未婚のおっさんなんて、ちょっと巨乳の女性に迫られたらイチコロだ……。しかも異世界仕様のメイドさんとかツボをわかっていやがる。前にお金や身分などで国に仕えないか聞かれて断ったから、今度はそういった手段で来たのだろう。
さすがに色仕掛けは俺に効くので、今後のためにもやめてもらおう。俺にも性欲がないわけじゃないが、今はまだ見ぬ場所旅して初めての食材を食べる楽しみの方が優先される。
……少しだけ残念だと思う気持ちがあるのはおっさんなら仕方のないことなのである。
「お待たせ」
「姫様、お待たせしました」
「うわあ~とってもいい香りです!」
ミレディさんと一緒に料理をテーブルへ運ぶ。
カトレアも俺のおすすめレビューを読むのを止めて席へ着いた。
「まずはサラダからだ。ラズカシュ草、クラウドレタス、フェルナトマなどの様々な野菜を使ってみた」
「色とりどりでとっても綺麗ですね!」
紫、緑、赤色の色鮮やかな野菜の数々。単なるサラダだが、王都でもあまり見かけない様々な野菜を使用しているので、カトレアも楽しめるはずだ。
これらの料理は大皿で作って取り分けたため、すでにミレディさんが毒見もしてくれている。この世界には魔法があり、解毒魔法もあるのだが、それでも念のためだろう。カトレアはいつも申し訳なさそうにしているが、王族ということもあるから俺は特に気にしていない。
「っ!? シャキシャキしていて、とてもみずみずしくて本当においしいです! それにこの上にかかっているソースがサラダ全体の味を引き上げています」
「どの野菜も収穫したばかりの物をもらっているからな。種類にもよるが、野菜ってのは基本的に収穫すると一気に鮮度が落ちていくんだ」
これらの野菜は俺が村まで行ってその日に収穫したものを時間の停止するバックパックにいれておいたものだ。
前世でも普段俺たちの食卓に並ぶ野菜は収穫してからだいぶ時間が経ったものとなる。収穫したばかりの野菜は鮮度がまるで違うのだ。ゴボウやニンジンなどの根菜なども周りの土ごと保存しておいた方がよくもつ。
切った野菜にドレッシングをかけただけだが、鮮度のよい野菜を使用すれば立派なご馳走になるのである。文字通り俺があちこち走り回って用意した食材を使ったご馳走だな。
「……むっ、これはいけるな」
「ええ、収穫したばかりの野菜とは贅沢な味ですね。農家と直接契約をするのもよいかもしれません」
シヴィさんとミレディさんもカトレアの隣で一緒に食事をとっている。最初は王族であるカトレアと一緒に食事するのは控えていたがカトレアがこの依頼の場では一緒に食事をすることにしたのだ。
女騎士のみんなも隣のテーブルで一緒に食べている。本当はカトレアの分だけでも良いのだが、せっかくなのでみんなの分も作るようにした。やはりおいしいものはみんなで一緒に食べた方がよりうまいのである。




