第10話 宴会
村長さんの家に案内された。
家の中に入れてもらうと、一気に温かくなったので、羽織っていた上着を一枚脱ぐ。
「あんれまあ、前に来た旅人さんでねか?」
「お久しぶりです、エルドさん。以前お邪魔させてもらったガクトです」
もじゃもじゃの真っ白な髭を生やした村長のエルドさんは俺のことを覚えてくれていたみたいだ。前回来たのは何ヶ月も前だというのにちょっと嬉しい。
前に村ぐるみで襲われそうになったナエル村のことはあったが、ここには一度訪れているので安心してお邪魔することができた。
「こったら辺鄙で何もない場所までもっかい来るなんて奇特な男やね」
「以前にうかがった『果てのない夜』をどうしても見たくてもう一度お邪魔させてもらいました。本当にこの時間でもまだ暗いんですね」
この地域では極夜のことをそう呼ぶらしい。
「ほんに変わっておるのう。暗くてなんも良いことなんてありゃせんよ」
「見たことがないものを自分の目で見てみたい性格なんですよ。それに例のものは絶対に見たいと思っていましたからね」
「あれならいつも明け方には見えるでよ」
「本当ですか、それは楽しみだなあ~! 今日は一晩泊まらせていただいて、明日教えてもらった丘の上まで登ってみようかと思います」
「おう、そりゃええな。村に客人用の家さ余っとるで、そこさ泊まるとええ」
「ありがとうございます! あっ、こちらはお土産のお酒と干し肉に干し魚です。ぜひ皆さんで召し上がってください」
「おおっ、こりゃありがたいのう!」
バックパックから用意してきたお土産を取り出す。
以前この村を訪れた時にお酒を特に喜んでいたからな。他の地域よりも寒いこの地域ではエールなんかが作られないらしいから、普通の酒でも珍しいのだろう。この辺りの村はお金よりも物々交換が主流だから、こういった物の方が嬉しいはずだ。
その場所によって喜ばれるものを持っていくのも旅人スキルのひとつだ。
「かあああ! こいつはうめえ!」
「おう、いつもの酒もいいけんども、こっちのさっぱりとした酒もええもんだ!」
「気に入っていただけたようで何よりです」
村長さんの家で宴会が始まった。地方の村だと客人自体が珍しく、こうして歓迎の宴が開かれることも多い。特に酒をお土産に持っていけば、ほぼ確実に宴となる。
この地方は寒くて外に集まるのは難しいから、いくつかの家に分かれて飲み食いするらしい。お酒は結構持ってきたから、それぞれの家にわけて飲んでいる。
村長にいるのは俺と同年代くらいの男性ばかりでみんなエールをがぶがぶと飲んでいた。そんなによく飲めるなと思うが、それには理由があったりする。
「いやあ~相変わらずこのルナベリルという酒は酒精がとんでもなく強いですね。喉が焼け付くようです」
「生半可な酒じゃ凍っちまうからな。それにこんくらいの酒でねえと身体が温まんねえでよ」
そう、この地域では寒い時には氷点下まで気温が下がる。アルコール度数が低い酒だと凍ってしまうこともあるので、酒精の強い蒸留酒が好まれるのだそうだ。
蒸留酒とは酒を加熱して蒸気にし、その蒸気を冷やして液体に戻すことで作る酒である。普通のお酒よりも酒精が強くなるのだが、この世界でも蒸留の技術はあるみたいだな。
寒冷地では発酵がゆっくり進むため長期熟成しやすく、アルコール度数が上がる。そしてアルコールは血流を促進して一時的に体温を上げる効果があり、凍らないという理由で寒い地域ではこういったお酒が好まれるのは異世界でも変わらないようだ。
元の世界でも同じ理由でロシアのウォッカやポーランドのスピリタスなどのお酒が有名だな。スピリタスなんて普通の酒が数回のところを数十回繰り返し蒸留するからアルコール度数がなんと96パーセントもある……。
俺も一度だけ飲んだことはあるが、喉が焼け付くように痛かった。あれは酒といっていいのか分からない代物だ。ジュースなどで割れば普通にうまいぞ。
「ガクトさんもいい飲みっぷりだで!」
「おうよ。客人でこれだけ飲めるもんも珍しいべ!」
「お酒は強い方なんですよ。それに酒精が強いだけじゃなくてちゃんとおいしいですからね」
元から酒には強い方だったし、超健康スキルのおかげで必要以上に酔っぱらうこともないのは助かる。
それにウォッカほどアルコール度数が高いというわけではないので、普通に飲むことができる。さすがに元の世界ほど蒸留技術は進んでいないそうだ。
ちなみにこのルナベリルというお酒は酒精の高いお酒を好むドワーフにとても喜ばれるので、お土産に購入していくとしよう。
「はあ~この煮込み料理は身体が温まりますね。それにこっちの料理はチーズがたっぷりと掛かっていて最高ですよ!」
煮込み料理はトマトのような酸味のある野菜がベースとなってたっぷりの肉と野菜が入っており、少し辛味のある香辛料も加えられているため、寒さで震えていた身体の芯から温まる。じっくりと煮込まれているので、肉も野菜もホロリと口の中で溶けていくようだ。
こっちのグラタンのような料理には魔物の乳を使ったホワイトソースが使われており、マカロニのように筒状ではないが小麦粉を使ってモチモチした食感の食材や野菜にたっぷりの焼かれたチーズが掛けられている。
どちらの料理も身体がとても温まって本当においしいし、お酒ともよく合う。俺がお土産に持ってきた干し肉や干し魚なども今日中に食べ尽くされてしまいそうだ。
「いやあ~そったらこと言ってくれる客人さいねえから嬉しいだ!」
「今日は朝まで飲むべ! ガクトさんの旅の話を聞かしてくんろ!」
「ええ、もちろんですよ」
一人で旅をするのも楽しいものだが、こうやってみんなで騒いで飲むのも楽しいものである。




