騒乱の足音 その1
怒涛の三日間が終わる。
クリアした班はイベントマップから戻れるが、そうでない者は懲役三日となった。
しかし強力な魔物達と、噂された街を見ようと動き回る者達は最後まで抵抗していた。
一部は何とか辿り着いたが、他は撃沈と相成った。
「景品ゴミ……」
クリア報酬は班全体に配布される。
ミナモが貰ったのはその世界で取れる希少な素材である。
特にミナモが活躍し、得られたのは綺麗で大きな金剛石であった。
「いる?」
「いえ、何か作ってみては?」
ハルシーは本音を言えば欲しい。触媒にもなり、相当な武器防具などが作れるだろう。
「他の方々は嬉しがっていましたが、殆どの活躍をされていないので、普通の鉱石などです。
ただしミナモさん視点の話です」
一般的なプレイヤーにしてみれば得られた物は一点品のレアモノである。
「……加工できればの話ですけどねぇ」
「まあ、他の世界の技術とか必要になるだろうしねぇ」
普通の溶鉱炉では精錬が出来ず加工も難しい。
いざ手を出せば誰もが困惑するものであった。
「おい、居るか?」
その時乱雑に扉を開ける人物がいた。
ハルシーは手を振り招き、その男性を呼ぶ。
「久しぶりじゃねぇか、転移魔法なんて使ってるのか?」
「ええ、セキリティ―上必要ですからね」
ミナモはそのプレイヤーネームを見るが、覚えはない。
実際は過去に出会っているのだが、既に記憶には一切無かった。
「それで何用ですか?」
「どうもこうも、この間のイベントで出てきたアイテムの加工に難航してんだ、頼りたくねぇが、……頼む」
頭を下げるその男性、二枚目な白髪の男性、名前をシルフレッドという。
「加工ですか。
貴方の武器は特殊ですからね」
「あの時は鞭として使っていたが、使い慣れた糸の方が良い」
戦いた方はグローブの先に付けた糸を操る特殊なスタイルだ。
その戦い方に拘っており、ミナモが見ても驚くスタイルだろう。
「丁度その話をしていたところです。
しかし物によっては加工できないでしょう」
「確実じゃないのか?」
「サンプルか見せて頂ければ」
渋々とアイテムを取り出して見せる。
ハルシーは繊維の様な動物の健を引っ張り確認していた。
「……あの方法ならば、とは言え」
ハルシーは首を振り、アイテムを返す。
「ないのか?」
「ありますが、その加工する道具が必要です」
「結局道具かよ」
「あの世界で石の一つでも持ち帰ってきて欲しかったですね」
「クソッ」
石もまた比べ物にならないほど高値で売買されている。
何せ硬度が違うのだ。
「ほむほむふりんふりんさん」
「うっす」
「偽名だろ…」
ミナモが変な名前に返答を返す。
偽名になっているのは情報屋の個人情報を明かさない為の条件でもある。
「貴方ならどうしますか?」
「基本的に石器時代に帰るっす、石から石斧を作って、木こり、そしてどんどん発展していくっす」
「…余裕なんて無かったからな」
「それでは第二の方法は?」
「その身を使っての加工」
「その身? ……俺?」
「肉体を強化して爪だろうが歯だろうが、利用できる部位を使う」
「マジかよ……」
「第三の方法」
「うっす。
今行ける中で一番硬度の高い素材を使うっす」
「それが無理だったんだが」
「さらに工夫して加工するっす」
お手上げだ。苛立ちながら乱雑に椅子に座る。これで晴れてお客様となった。
「……いくらだ?」
「どの情報でしょうか?」
「工夫して加工する方だ」
「そうですね、五十万セネルでお願いします」
「セネル? 何処のだ?」
「コム大陸にある」
「ああ、そこか。
チッ、面倒だなぁ」
渋々とお金を取りに戻って行き、戻てくるのに二時間ほどかかった。
「それで、どうするんだ?」
「ルーンを刻みましょうか」
「ルーン?」
「工具十円さん」
「おっす」
「さっきと全然違う名前……」
小声で突っ込むアルフレッドを無視し、ミナモの席に近くにあった戸棚から一枚の紙を取り出した。
それをハルシーの元まで持っていき手渡す。
他にも傍の所から一枚の短剣を取り出し、ハルシーは説明を始めた。
「なるほど、これを使って強度を確保するのか。
……待てよ? これ、加工する道具、に、全部か?」
「ええ、そうですけど」
気の遠くなる話にアルフレッドは項垂れた。
「流石にゲームにまで待てを強いられるとは思わなかった」
「頑張れ社会人、としか言えませんね」
「クッソぉ、誰か居ないもんか」
「異世界系の職人は高額ですし、そちらの資金を欲する事が多いのでお勧めはしませんよ」
「……異世界、かぁ」
アルフレッドは異世界に憧れがあった。
しかし飛び込めない理由もまた存在する。
「は~あ、PKクランだしさ、それに社会人で時間も無い。
飛び込むにはちーっとなぁ」
時間や環境のせいで飛び込むに飛び込めない。
「日帰りってのが出来ればいいんだがなぁ」
「日帰りですか。
確かにそう言うのが出来れば良いですけどね」
「転移魔法って言うので移動できるんだろ?」
「結構MPを消費しますし、慣れないと準備も大変です、人数が多いなら余計に」
「は~~、ま、どうせ入り口も知らんしな」
この場が異世界だという事を黙っており、アルフレッドはただただ項垂れていた。
「半日ツアーとかやってねぇか?」
「やってませんね。
ソロはお嫌いですか?」
「MMOなんだぞ、ソロで活動なんてやってられるか」
「ぐわぁぁぁ」
ミナモが叫び、ハルシーは目元を覆った。
「うっ、ハコベさんが…うぅ、死んでしまいました」
「脆すぎるだろ…。
ってか、それによ、PKできないじゃないか」
「それも問題ですね。
所謂異世界は過疎地、気軽に遊ぶというのは難易度が高い」
「NPCやれば?」
「…コイツ大丈夫か?」
ミナモの正気を疑われるが、ハルシーは答えず。
「何はともあれ、異世界へ楽に……ああ」
「ん? なんだ?」
「いえ、今は聖獣関連で色々盛り上がっています、そちらで遊んでみてはいかがですか?」
「そうすっかなぁ」
アルフレッドは重い腰を上げて去って行った。
気配が消えていくのを確認してから口を開く。
「ギルドの方々が異世界に誘導していた事、推測が一つできました」
「その心は?」
「次のステージへの移動でしょうか?
聖獣とホムンクルス、今の所戦争以外はこの二つのみ。
ただし難易度で言えばどちらもあの世界基準で言えば聊か難易度が跳ね上がります」
「ああ、なるほど。
根本的な問題は置いておくとして、プレイヤーの強化を図ろうという事か」
「その通りです。
根本を取り除けないというのが痛いですが」
「プレイヤー全体でなんかさせようていう事だろうし」
「そうなると忍者集団というのも行動原理が分からずじまいです」
「行動原理は分からないけど、さっきの人忍者集団と結構気が合いそうかもね」
「ああ、確かに、団体を求めて気軽にPKをする、異世界に気軽に移動というのは間違いなく理想の環境です」
そして二人は笑い合うのだが、次第にその笑みがどんどんと固くなっていった。
「……ひょっとしてなんだけど」
「はい…」
「あれってさ、完全に愉快犯なんじゃ…」
「さ、流石に変数でないとは、…思いますが」
行動原理が理解できない。
ギルドは明確に目標があるが、忍者集団はまた別な行動原理がある事は確かだ。
「転移装置関連を壊してるっていうのもまた別な組織とか、もしくは行く世界を縛ってるギルドとか」
ミナモを追った時転移装置を偶然破壊しただけ、その可能性も捨てきれない。
「ミナモさん」
「うす…」
「一体程聖獣を確保してくれないでしょうか」
「え、動くの? マジで?」
情報屋は静観が基本的な行動だ。
情報の為に動く事はあっても、その情報となる聖獣を捕獲する事は、狙う者に対する宣戦布告と同じである。
「手札を増やすのも一つでしょう」
「手札になれば良いけど」
「ひとまず聖獣の中で一番存在が不明瞭な一体、それを狙います」
聖獣は決まった場所に居るわけではない。
ある特定の地域に出没するが、ある聖獣は完全にコロコロと場所を変えている、大陸を移動し、時に海の上で見たという報告すらある。
「テイムせずの捕縛、そしてプレイヤーの一人に無理やりテイムさせます」
「わお…、凄い事考えるね」
「ふふ、ではこちらも準備致しますので、お願いしますね」
「う、うっす…」
ミナモが立ち上がると、カルフは何時もよりも近づき寄り添う。
透明化を徹底して使い、そのまま転移で向かう。
今回は物事の行方を見たいため、大人しく目を見開き件の聖獣を探す。
そしてプテラノドンの様な鳥形の聖獣を見つけた。
(毛の生えたプテラノドンに角が幾つかデコレーションされてる感じか。
う~ん、見た目は微妙)
一瞬で肉薄し、その手を掴み、強制的に異世界へと拉致した。
「な、なにごとだ!?」
ミナモは強い催眠の魔法で一瞬で意識を奪う。
そのまま別に世界へ飛び、魔法の痕跡を消しながらミナモ達の移動の痕跡をかく乱していき、最後に情報屋の所有する別な土地へ辿り着いた。
既にハルシーが準備を整えており、椅子に括りつけられる謎のプレイヤーがいた。
目隠し猿轡、ガチガチに拘束されている。
「来ましたね、爆発魔法さん」
偽名で呼ぶという事は、そのプレイヤーはカタギ、普通のプレイヤーであった。
声すらも変わっており、ミナモもそれに合わせて男の声を声帯から出した。
「やあ、マイスイートハニー、例の物を持ってきたぜ」
そして目の前に聖獣を寝転がせる。
こっそりとフレンドチャットで拘束されている彼の情報を尋ねた。
「その人何?」
「ゲーム始めたばかりで詐欺にあった人です。
結構な借金をしていたので、まあ、実験材料にしようとしましたが、…こちらの実験に付き合ってもらいます」
聖獣をテイムさせ、それを利用して誰かに襲わさせ算段の様だ。
ハルシーは彼の耳もとで囁く。
「目の前に居るモンスターをテイムしてもらいます。
…早くしろ!」
もごもごと悶える彼は急いでテイムを実行する。
しかし失敗し首を振る。
「続けろ、永久に成功するまで続けろ」
繰り返されるテイム。
ミナモも抵抗されて失敗していると判断し、意識がないまま聖獣を弱らせていく。
そして瀕死状態になるとテイムに成功し、即座に回復させた。
「ついでに聖玉も預けましょうか」
「…何処で手に入れたの?」
「掘り出し物ですよ。
聖玉とは思いもしませんでしたけど、対象の色は合っているでしょう」
持っている聖玉の色は琥珀であった。
ミナモは先の事を思い出し、実際眼で見て確認する。
(…お前の本名はなんだ? またふざけた名前か?)
一瞬だけちらりと見れば、プテラノドンの名前に再び思わず吹き出しそうになった。
(ギャンブラージョンってなんだよ!)
ある程度身構えていた為噴き出す事は無い。
名前だけをチラ見して閉じ、咳払いをして尋ねた。
「ハニーそれでコイツをどうするんだい?」
「元の場所に返そうと思います、手伝ってくださいますね、ダーリン」
「勿論さぁ」
淡々と演技し、片手に聖獣を持ち、転移陣を使い移動する。
折り畳み式の転移陣の為、移動後に回収していき、始まりの世界のとある森に一人と一匹を放り投げた。
「五秒後目隠しなどを取って良いですからね」
ハルシーと共に再び幾つか世界を渡ってから情報屋へと戻る。
そして一息つき、改めて尋ねた。
「マジであの子大丈夫なの?」
「勿論ですよ。
拉致されるなりなんなり、どうなっても私の懐は痛みませんから」
「うっす…」
ある程度ドライなハルシーだが、彼を見る目はさらに冷たくなっていた。
相当な事をしなければハルシーの反応にはならない。
同情の必要を感じないが、まず彼が待っているのは破滅である。
「ありがとうございました。
多分あれが一番プレイヤーにとって捕獲しにくいでしょうから、これで事が動くでしょう」
「動くかなぁ」
そんな心配をよそに、それから数時間で、劇的に環境が変わり始める事になる。
☆☆☆
シェーロは息も絶え絶えになりながら魔法を放つ。
その強張った顔には修羅が宿っている様であった。
降りかかる雷撃を防ぎ、駆け出して懐に潜り込み魔法を放つ。
しかし放った瞬間にシェーロが吹き飛び空を舞った。
「あぐっ」
叩きつけられたシェーロはふらふらとよろめき立ち上がる。
「そろそろご勘弁願いたいのだけれど」
シェーロと対峙するのは、始祖鳥の様な見た目を持つ聖獣であった。
「強く、ならないと、…助け、られない!」
「…私の同胞も連れ去られるほど強力な相手だ、私ですら例外ではない」
「だからこそ!」
連れ去られたサコンとトロロン太郎との連絡が付かない。
ログインしている事を知らせる名前が点滅しているのだが、会話ができない状況の様であった。
「何時までも後ろで隠れている自分ではいられないんです!」
その言葉がその聖獣には刺さった。
真っ直ぐなまなざしを向けられ、その聖獣が一息つく。
「聖玉を出しなさい」
「え? あ、はい…」
緑色の聖玉を取り出す、次の瞬間それがシェーロの中へと吸い込まれるように消えていく。
「な、ど、どういう事ですか!?」
「いいわ、貴方に託す」
そして近づき、シェーロを抱きしめる。
次の瞬間燃える様に緑色の炎が上がり、キラキラとした粒子に聖獣が消えていくと、炎と共にシェーロの中へと吸い込まれていった。
「うぐっ」
内部から膨れ上がるような感覚。
次の瞬間シェーロの肉体に変化が起きた。
始祖鳥の様な緑色の鳥の翼が生え、足が鳥の様な足へと変わる。
そして爪が伸び、耳が小さな翼に変化した。
髪の色も緑色へと変わり、完全にその姿が変貌する。
「こ、これは…」
力が出ず膝を突き、自分の中に起きた変化に驚愕する。
目の前にはいくつものスキルが習得した旨と、レベルがリセットされ、ステータスをそのままに初期状態へと戻っていた。
種族名も鳥人(始祖鳥)という名前へと変わっていた。
「私の全てを託すわ」
「聖獣様? え?」
「記憶も全て、だから、お願い。
……私はもう、休ませてもらうから」
自分の中に感じる聖獣の気配、それがキラキラと砂の様に消えていく。
「ま、待ってください! 私は、共に強く……」
しかし言葉を待たずに聖獣は完全に消えて行った。
夜の闘技場、コロッセオでは、それを見守っていた国王が頷き近づく。
「そなたが次代の見守り人だ」
「…え?」
シェーロは理解が追い付かず、ただただ困惑し続ける。
その光景を見るのは国王だけではない、彼女もまた。
「わ、わたくし、は、…何故、力を、求めてた、…のに、……あ、ああ」
ボロボロのメイアはただ膝を抱えて俯くだけであった。




