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1.土を食べようとする人魚

 ああ、もちろん。

 これはあの魔女の仕業さ。

 俺はもともと美しい鱗を持つ人魚だった。人を喰うことで有名な桜が、年中咲き乱れている山奥の湖で、仲間たちと暮らしていた。それはそれは高貴なところだった。

 カエルの姿に変えられた今の俺がおいそれと近づけるような場所じゃない。

 まして、お前のような小さくみすぼらしいシジミチョウなど、百回生まれ変わったところで行けやしないさ。


 なぜ俺がカエルにされたのかって?

 そんなの決まっている。俺の美しさに嫉妬したのさ。知っているだろう? 魔女は意地が悪く嫉妬深い。

 ふらりと花見に来た魔女が、同じく花見をしていた俺を見つけて、勝手に嫉妬していきなり呪いをかけてきたんだ。


 え? 俺以外の人魚はどうしたかって?

 呪いをかけられた俺を見て、みーんな慌てて逃げ出しちまったよ。

 

 ……ああ、動かんでおくれ。今の俺は食い意地汚い醜いカエルなんだ。

 お前のことを助けた形になったが、全くそんな気はなかった。単純にお前を狙っていたカマキリが動いたせいで、反射的に舌が伸び、ぱくりとしちまっただけなんだよ。お前が動けば、俺はお前のことだってぱくりとしちまう。

 俺に食われたくなければ動かないことだ。


 まったく、なんたってカエルになんか。俺は食事なんてしたくなかったのに。

 見ろ、すっかりブクブクに太ったこの醜い姿を。

 かつての俺は本当に美しかった。でも、そんな俺よりもずっとずっと、あの人喰い桜の方が美しく気高かった。

 知っているか? あの桜はみな、人喰いと呼ばれてはいるものの、直接人を喰っているわけではないんだ。桜は人間を捕まえはするが、その養分を土に吸わせ、肥えた土を摂取して咲き誇る。


 なぜ知っているかって?

 そりゃ、直接問うたからさ。

 どうしたらあなたたちのようになれますかってね。

 人喰い桜は俺に懇切丁寧に教えてくれた。魚や虫、動物や植物を口にすることがいかに醜く不潔なことかを。土から生命を維持する桜がどれほどに高貴で清く尊いものかを。


 だから俺は、桜と同じようになるために土を食べることにしたんだ。

 最初は全然ダメだった。少量を口に入れ飲み込もうとするのに、どうしても吐き出してしまう。そんな様子を見た仲間には散々馬鹿にされたし、桜からも嘲笑されてしまったが、これは俺のやり方が悪かったせいだ。なにせ桜には口が無い。根っことやらで土から養分を得ていると言う。

 俺は日がな一日土に触れるようにした。腹は膨れぬが、根っことやらが無い俺が桜のようになるには、たぶんこれしかないのだから。仕方がない。俺の美しかった鱗はみすぼらしく荒れ、やせ衰えたが、仕方がない。背に腹は代えられない。


 あと少し、もう少しだったのに。

 なのに、あの魔女ときたら……。


 それで、なんだったか。

 魔女に会いたい?

 なるほど、俺も魔女には文句の一つも言ってやらなければ気が済まぬ。

 よし、ならばいっしょに魔女のところへ行くとしよう。

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