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[3]僵屍

「これは酷いな。荷馬車もバラバラで荷物も打ち捨てられている。驢馬は首の骨を一撃でへし折られて打ち捨てられた後に、熊か山犬にでも臓物を喰われてそのままか……」


 翌朝、残りの干し飯をあるだけ水で戻して炊き上げ、近くで見つけた山芋を摺って作ったトロロをかけて朝食とした私たち。

 私と時雨は一杯で十分でしたけれど、例によって武流は健啖振りを発揮してお代わりを所望し、あるだけご飯を食べようとしたところで時雨の拳骨が落ち、残ったご飯を塩むすびにして(これは私がお願いしてやりました)昼食用に携えて、一夜明かしたキャンプ地……というのが正解なのかどうか不明ですが、その場を後にしたのでした。


 私は他に着るものもなかったので、一晩干していただけのみすぼらしく水気のある頭陀袋に着替えて、川の水で顔と髪を洗って軽く手櫛で整えただけで支度を終えた私は、借りていた陣羽織を畳んで時雨に返して、丁重にお礼をします。

 それと夜のうちに時雨が気を利かせて木の蔓で編んでくれた草鞋(わらじ)を履いて、てきぱきと後始末を整え、荷物を持ったふたりに何も持たずについて歩きだしました。

 

 前世の常識では、「何か荷物をお持ちしましょうか?」と気を利かせる場面ですが、身元も不明な怪しい小娘に大事な荷物を預けるほど、この世界の人間はお人好しではありません。

 第一、旅慣れたふたりに比べて、村から出たこともない私では、平地ならともかく、山歩きとなれば足手まといもいいところでしょうから、無言でついていくので精一杯でした。


 そうして半日ほどかけて、私の乗っていた(運ばれていた)馬車が〈鬼怪(もののけ)〉に襲われた現場へと到着したのでした。


 これは時雨の提案で、まずは私の処遇を決める前に、私たちが〈鬼怪(もののけ)〉に襲撃された峠を確認して、可能であれば〈鬼怪〉を退治しておきたい……との希望に沿っての行動です。

 もっとも、さすがに一晩経過したいま頃まで同じところに〈鬼怪〉がいるとも思えないので、今回は被害の状況や〈鬼怪〉の種類や頭数などを把握することにある、とも付け加えられましたが。


 そう話す時雨と武流のふたりに共通していたのは、〈鬼怪〉に対する熱の入れよう……というか、尋常ではない入れ込み方で、そこには単なる正義感や義務以上の執念すら感じられました。

 怪訝に思う私の心中を察したのか、或いは慣れない草鞋に苦心惨憺して歩く私の気を紛らわせるためか、そうした背景を時雨は簡単に話してくれました。


 何でも〈武士(さむらい)〉にとっては〈鬼怪〉の掃討は最重要課題であり、最低でも現地を調査して近隣の町の警備責任者に話を通し、必要であれば山狩りも辞さない――またそれを命じるだけの特権もあるのだとか。


「二百五十年前の《大侵攻》によって、この世界とは異なる世界から〈鬼怪〉が現れ、それによって私たち〈武士〉の故国である秋津大島(あきつおおしま)は滅んだからね。散り散りに落ち延びた武士(われら)は、父祖の遺風に沿って精進を重ね、怨敵である〈鬼怪〉をこの世界から一掃するために、不惜身命(ふしゃくしんみょう)の心でこれに立ち向かうことを真諦(しんたい)としているのだよ」


〈鬼怪〉と〈武士〉に関する時雨の説明を聞きながら、私たちは獣道を通ってほどなく街道へと出ると、そのまま川沿いに沿って走る道なりに歩き、途中でお昼を摂った頃に昨日私が馬車に積まれて通った枝道へと歩みを進めます。


「目的はわかりましたけれど、他国で実践するのは大変ではありませんか? その……失礼ながら身分の保証などはあるのでしょうか?」


 そこそこの荷物を背負っているというのに余裕の健脚ぶりを発揮するふたりに、ようやくの思いでついて歩きながら、私はそんな疑問を口に出していました。

 聞く限り〈武士〉というのは亡国の難民の末裔であり、立場的には平民以下の不法滞在者という位置づけのように感じられてのことです。


「あるぞっ。聞いて驚け、俺たち〈武士〉はどこの国に行っても貴族卿(ロード)扱いだぜ!」

「……本当ですか?」

「なんで時雨に確認するんだよ!? 俺のいうことを信用してないのか!」


 途端に双眸を輝かせて自慢たらたらで嘯く武流の言葉が信用できず、思わず反射的に時雨に確認を取ってしまいました。

 当人は不満なようですが、正直なところ昨日からの武流の言動から推測するに全然信用できません。〈武士〉などと嘯いていても、実態は村のガキ大将と言動が五十歩百歩です。武士は食わねど高楊枝――どころか、本能のままにお代わりを繰り返すのはまだしも、本人は気付かれていないと思っているようですが、昨晩は隣り合って寝入ったところ、時雨が周囲の見回りに出たところで、こっそりと起き上がって私が眠っているか確認をして、寝具代わりに纏っていた時雨の外套の隙間から手を差し込んできて、裸で寝ていた私の胸や下腹部に触った前科があるのですから尚更です。

 幸いすぐに時雨が戻ってきたので中断しましたし、仮にも命の恩人でもあるので我慢をしましたが、私の中での武流の株は急下降したのは言うまでもありません。


「嘘ではないが丸っきりの真実ではないな」

 案の定、そう苦笑して本当のところを教えてくれる時雨。

「《大侵攻》を経てさらに大陸のあちこちに〈鬼怪〉が現れるようになり、さらには〈鬼怪〉どもの巣穴である《地下異邦(アルザル)》の発見。これらにより危機感を覚えた諸国と、それらが奉じる諸神が一致して批准した『大同盟憲章』によって、〈武士〉は〈鬼怪〉が絡んだ事例に対してはあらゆる制約なしの自由行動が赦される……となっている。まあ、実質的には自由契約の衛士扱いってところだね」


 なるほどそういう立場なのかと感心することしきりの時雨の説明でした。


 そうこうしているうちに、分かれ道から三時間ほどで問題の場所へと到着した私たちの目の前に広がっていたのは、〈鬼怪〉によって引き起こされた凄惨な現場の光景でした。

 私を捨てた後、程なくあの虎のような〈鬼怪〉に追いつかれたのでしょう。粗末な馬車は玩具の張り子のようにひしゃげて潰れ、積載されていた荷物はバラバラになって隘路(あいろ)一杯に転がっています。

 こちらも原形を止めているのは稀で、僅かに蕎麦の袋が幾つかと商品である日用品の類いが入った箱が、傾斜の途中の潅木に引っかかっているのが確認されただけで、残りは拾っても使い物にはならないでしょう。


 そして峠の先に何やら黒く蠢くものが山となっているのが目に入ったところで、

「……水恋、君は見ないほうがいい」

 いつになく厳しい表情になって太刀に手をやった時雨が私の視界を塞ぐように前に立ちました。

 その動きに触発されて、その黒い塊り――何十羽というカラスが一斉に羽ばたいて、その下に転がっていた人間であったモノの残骸が、一瞬だけですが私の双眸に焼きつきました。


「老若男女関係なしに《魂魄刻(カルマ)》の宿る心臓を抉られて放置か。むごい真似をする……」

 痛みを押さえた声を搾り出す時雨。


「どうするんだ時雨? 《魂魄刻(カルマ)》が抜けた死体を放置しておいたら、今夜中にも〈魑魅(すだま)〉が死体に入り込んで〈僵屍(きょうし)〉になるんじゃねえの?」

「そうだな。できればきちんと弔ってやりたいが止むを得ん。まとめてこの場で荼毘に伏すしかあるまい」

「んじゃ、俺は壊れた馬車の残骸とかを集めて薪の準備をするよ」

「いや、その前に使えるものは回収しておこう。荷物の中に水恋が使えるようなもの……特に着るものがあれば着替えさせたいのでね」

「ああそうか。了解っ」


 なんだかんだ言っても慣れているのでしょう。凄惨な現場を前にしても即座に気持ちを切り替えて、テキパキと自分のすべきことを行って、なおかつ衝撃を受けているであろう子供(わたし)を気遣うふたり。

 そんな彼らの思い遣りに感謝しながらも、私自身はこの情景を前にしてもさほど動揺を覚えない自分に逆に茫然としていました。


 仮にも数日間は同じ馬車に乗り合わせて同じ釜の飯を食べた仲間だというのに、まったくといっていいほど慟哭も哀悼も湧かないのです。それどころか早晩、商品として《魂魄刻(カルマ)》を抜かれる運命にあった彼らが、その元凶とまでは言わないものの直接的な加害者である商人を道連れにして、この地獄のような世界の(くびき)から逃れられたことに、どこかホッとしているのを感じていました。


 ちょっとした運命のすれ違いで、この煉獄たる世界に取り残された私と、死を以て地上から解放された彼ら。《長命種(メトセラ)》として何百年とここにいなければならない私と彼ら。果たしてどちらが幸せだったのでしょうか?


 そんな益体もない思いを馳せながら、私は谷に落ちそうになっていた衣装箱をふたりがかりで引き上げている時雨と武流を横目に、なんとなくかつて人であった残骸へと再度視線を巡らせました。

 ふと気になったのは、私をイの一番に突き飛ばしたあの赤毛の女の子が果たしてどのような顔で最期を迎えたのか。あの時と同じ笑い顔だったのか、それとも絶望に塗り潰されていたのか……そこに答えがあるような気がしたのですが、死体の山の下になっているのか、残念ながらここからでは特徴的な赤毛を見つけることはできませんでした。


 もしかすると、彼女はまだ生きているかも……。


 万に一つもない可能性だとは思いますけれど、なんとなく私はそんな予感を覚え、とりあえず道に転がっている燃えそうなものを拾うために、周囲を警戒しながら一歩足を踏み出しました。


* * * * *


 辛うじて残っていた衣装の中から、生成りのワンピースを見つけてそれに着替える私。

 もともと大人用なので丈が長くて(くるぶし)まで隠れるほどスカートは長く、袖は捲くらないと腕が出ないので、そこは適当な布切れで縛って、あちこちをリボンのように結べば、シンプルなワンピースにワンポイント入った形になり、それなりに見られる姿になりました。

 できれば下着も欲しかったところですが、この世界では女性(ましてや子供)の下が無防備なのは、わりとデフォルトなので、そこは諦めてノーパンで過ごすしかありません。


 あとついでに麻布製のサンダルがあったので履き替えました。

 時雨が作ってくれた草鞋は、申し訳ないけれど今まで着ていた頭陀袋と一緒に廃棄することにして、燃やす廃材と一纏めにしておきます。

 ちなみにこの世界の農民は基本的に裸足かせいぜい草鞋履きがいいところなのですが、私は村で特別扱いされていたので布や木靴を履くことが赦されていた手前、実を言えば草鞋はかなり足に負担がかかって、大小の豆ができていたので正直助かりました。


「やあ、やはり別嬪さんだね。うんうん可愛らしいよ。どこぞのお姫様が市井(しせい)に混じって暮らしている……と言われても納得できるよ。まさしく(ひな)にも稀な美しさだねえ」


 着替えを終えた私を手放しで褒めてくれる時雨。

 お世辞とはわかっていても面映いものだ。


「ひ、ヒナ? 雛のうちから可愛いって意味か?」

 それに比べて武流ときたら……。


「ご存知ありませんか? (ひな)というのは田舎という意味で、『田舎者のわりに美人ですね』と褒めているわけですね」

「それ褒め言葉か? 俺は水恋は都でも滅多に見ないくらい、凄え可愛いと思うけどなー」

「……それはどうも。まあ、あくまで慣用句ですし、子供の容姿などすぐ変わるものですからあまり意味はありませんが」


 裏表のない武流の手放しの賞賛にとりあえずお礼を言っておきますが、ぶっちゃけこの世界では容姿のよさはさほど重要視されていないのが現状です。


 いや、当然同一レベルでは容姿によって価値が変わりますが、それよりも何よりも《魂魄刻(カルマ)》が重要視されるのが圧倒的であり、例えば容姿端麗でも《魂魄刻(カルマ)》が四十年ほどしかない美人薄命の女性よりも、目方が200kgを越えるトドか蝦蟇蛙のような醜女(しこめ)でも、《魂魄刻(カルマ)》が百二十歳とかのほうが遥かに価値のある存在と誉めそやされるわけです。


 そういったわけで私は故郷の村にいるときも容姿を褒められるより先に《長命種(メトセラ)》であることを羨望されたので、容姿が整っている……と言われても、それがどうしたという程度の感慨しか湧きません。


「それはともかく、死者を供養するにしても一度近隣の村か町へ行って人手を借りないときついだろうね。この数だから二~三日は付っきりで火の番をする必要があるだろうし」


 陰鬱な表情で(むしろ)を敷いて被せた死体の山を見据える時雨の言葉で、そういえばと私は村での火葬のしかたを思い出しました。


 かつての前世の記憶にある火葬場ではせいぜい二時間もあれば人一人が灰になるお手軽さでしたが、この世界では専用の火葬場や窯などあるわけもなく、火葬にする場合には遺体を河原へ持っていって、大量の薪を積み上げてキャンプファイアーのように燃やすのが普通です。

 野外で人一人を燃やすとなると、それはもう大量の木材と時間が必要になります。

 

 確か私の両親の時には、およそ丸一日かけて村人総がかりでの作業になったはず。

 ここのある遺体は商人である成人男性一名と、その他子供数人なのでやはりそのくらいは時間と場所と山積みの薪が必要になるのは想像に難くありません。


 とはいえ安易に土葬にするわけにもいかないのが、この世界の厄介なところです。

 特にこういった山中には迷える魂や魑魅魍魎の類いがウヨウヨいるので、そういった実体のない存在が《魂魄刻(カルマ)》の抜けた肉体に憑依した場合、確実に動く亡者である〈僵屍(きょうし)〉となる……と、村の古老や神殿の助祭様からも耳が痛くなるほど聞かされた話でした。


 もしも〈僵屍(きょうし)〉が生まれたらどうなるか。

 彼・彼女らは〈鬼怪〉同様に、生きた人間の《魂魄刻(カルマ)》に群がる習性があるので、ある意味〈鬼怪〉よりも厄介な存在になる可能性がある。

 墓から這い出してきて人を襲う化け物。それが人外に変わったといっても、肉親の姿をした存在を前にして躊躇いを覚えるのは、人間として当然だろう。そんなわけでこの世界では基本的に死んだ人間は火葬にするか、原型を止めないほどグチャグチャにするかが普通であった。


「それと逃げた〈鬼怪〉の追跡と報告もしなきゃならないし、水恋の処遇の問題もあるしね」


 そう軽く付け加えられた時雨の一言に、ちくりと胸が痛くなった。

 時雨にしてみれば所詮は私は成り行きで拾った子供。足手まといなのは明白です。さっさと手放したほうがいいのは妥当な判断だろう。だけど、私にはもう帰る場所も行くべき道も見えない……。


「なんでー? いいじゃねえか。このままレンも仲間に加えようぜ!」

 そんな私の心を代弁したかのように武流があっけらかんと提案してくれた。


「そういうわけにはいかないさ。水恋はまだ幼いんだし、僕たちの仲間になるってことは〈武士〉になるってことなんだ。軽はずみに決められることじゃないだろう?」

「えー? そんなことないだろう。レンだってどうせ行くところなんてないだろう? だったら俺たちと行こうぜ!」


 無邪気な武流の誘いの言葉と、大人として懸念を示す時雨。

 感情的には武流の誘いにいますぐに飛びつきたいと思う反面、私の冷静な理性が、時雨の負担と迷惑を考えてそれを押し止めるのでした。


「私は……」

 これ以上ご迷惑をおかけするわけにはいきませんから、どうか心配しないでください。

 前世日本人としての良識が、そう物分りの良い言葉を選びかけた――その時、遺体に被せてあった筵がわずかに動いた。

「――え?」

 虚を突かれた私の表情の変化と視線の先を振り返って一瞥した瞬間、時雨が腰に差していた太刀を一気に引き抜いた。

 途端、目にも鮮やかな真紅の刀身をもった三尺ほどもある流麗な刃があらわになる。


「武流、距離を置け! 水恋を護れっ!」


 ぴしりと鞭で叩かれるような切迫した時雨の叫びに呼応するかのように、筵をかなぐり捨てて死体であったはずの商人や子供たちが、通常の関節や筋肉の可動域を無視した動きで、次々とその場に起き上がるのだった。

 生き返ったあけではない。いずれも肌の色は土色で目は濁り視線は定まらずに呻き声ひとつ上げない……いや、それどころか見る間にその口元が腐って顎が地面へと腐汁と体液を滴らせながら落ちていった。


『死者は人間の食べ物を食べられないから顎がない』


 村の長老が話していた〈僵屍〉に関する口伝の一節が脳裏に甦る。


「〈僵屍〉っ!? こんな真昼間から動き出すのか!」

 唖然としながらもそこは男の子。刀を抜いて私を背中に庇う姿勢でじりじりと距離を置こうとする武流だけれど、なぜか〈僵屍〉は時雨や武流には目もくれず、ぞろぞろと連れ立って私の方へと迫ってくるのだった。


「なんだなんだ、こつらレンばっかり狙いやがって。よっぽど女に飢えてるのか?」


 軽口を叩きながらも青眼に構えた刀をいつでも振り回す姿勢を向ける武流だけれど、さすがに今回ばかりは強がりなのは傍から見ていても明らかだった。

 当然、〈僵屍〉たちは無言のままじりじりと距離を詰めてきて、やにわ小柄な……確か私の次の村で買われた九歳ほどの男の子が、飛蝗(バッタ)のように跳び上がって、一気に四間(約七メートル)ほどもある距離をゼロにした。


「でやああああああっ!!」


 裂帛の気合とともにそこへ割って入った時雨の真紅の太刀が一閃したかと思うと、少年の体は空中で首・胸・胴・腰に四分割される。

 素人の私の眼には一閃にしか見えなかったけえど、どうやら一息で三連撃を加えていたようだ。

 地面に落ちた少年の〈僵屍〉はさすがにそれ以上は身動きができないようで、最初からそうであったかのように無残な死体としてその場に転がるだけである。


「うおおお、格好いいな~っ。あれが時雨と《霊刀・紅杜鵑(コウトケン)》の力だ!」

「コウトケン?」

「知らないのか?」

 先ほどのお返しとばかり知ったかぶりをする武流。

「『紅杜鵑』ってのは『赤い躑躅(つつじ)』って意味だってさ。でもって『杜鵑(とけん)』ってのはホーホケキョと鳴く不如帰(ホトトギス)のこと。なんでも、ツツジが赤くなるのはホトトギスの吐く血で染められるから……て伝説があるんでそれに倣って、一度抜けば血を見ずにはいられない刀って意味で『紅杜鵑』って銘が付けられたんだってさ」


 それって霊刀というよりも妖刀の類いじゃないかな、と思いながら私は武流に重ねて問いかけました。


「刀身が赤いのは何かの塗料を塗っているの?」

違う(ちがー)よ。本当にものを知らないんだな、レンは。あれはもとの地金から赤いの。何しろ緋緋色金(ヒヒイロカネ)で出来ているからな!」


 得意満面で我が事のように自慢する武流のチープな自尊心は適当に聞き流しながら、いまさらのように出てきた『緋緋色金(ヒヒイロカネ)』という、聞き覚えのあるファンタジー要素に思わず知らず嘆息する私。

 それはともかく仲間意識など皆無な〈僵屍〉たちは、立ち塞がる時雨を無視して、やはりというべきか私にばかり殺到してきます。


「つーか、なんだってこいつらレンにばっかり向かってくるんだ?」

「連中は本能的に《魂魄刻(カルマ)》の高いものに群がる習性がある。もしかして水恋は《魂魄刻(カルマ)》の値が高いのかい?」


 前面に群がる〈僵屍〉たちから視線を放さず、そう背中越しに尋ねてきた時雨に、いまさら隠しておく事でもないので、私は正直に答えた。

「ええ、私は《魂魄刻(カルマ)》の値が九百歳の《長命種(メトセラ)》です」

「きゃ――うえ~、すげえっ!」

 素直に感心する武流と、「――っ」背中越しでも意表を突かれて動揺する時雨。


「……そうか。もっと先に気付くべきだったな。人間離れした長寿に加えて、生まれながらの気品と美貌。水恋、君は《長命種(メトセラ)》や《半魅靈(エルフ)》と呼ばれる半精霊だったんだね。だったら納得だ」


 なんと、『緋緋色金(ヒヒイロカネ)』で盛り上がったのも束の間。田舎では単なる突然変異だとしか思われなかった私自身が、どうやら世間的にはファンタジー世界では御馴染みの『エルフ』と呼ばれる存在だったようです。

 別に耳は尖ってないのですが、そこらへんは創作と現実との乖離というものでしょう。

2019/5/23 修正しました。

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