そういう世界なんだ
後日、門番さんから乃子さんあてにSNSでメッセージが届いた。内容は『棟葉弥生』について。
彼女の家は、というか家系はとても厳しい家庭だったらしい。話によると棟葉家は地方で権威を振るう豪家。そんな家系に生まれた棟葉弥生も例外なく厳しい教育を受けたのだ。そして成績優秀、品行方正となった彼女は全国でも屈指の進学校へと進学した。
自分の夢もなければ、目標もない。ただ成功されたレールの上を歩き続けるだけだった生き方になんの疑問も感じずにいたという。
だが、そんな彼女の人生が変わる出来事があった。
棟葉弥生は恋をしたのだ。
相手は近くのコンビニでアルバイトをしていた大学生。出会いはたまたま立ち寄っていたコンビニで彼を見た彼女の一目惚れ。恋に落ちるのは早かった。
彼の将来の夢は小さなお店を開くこと。そのために今勉強中なのだという。気さくで周りに縛られない彼の姿は、今まで彼女が見てきた家に拘る周りの人たちとはあまりにも違いすぎた。やがてそんな彼と一緒に店を経営したい。そんな思いが彼女の中で芽生える。彼と二人で生きれればどれだけ幸せなのだろうか。想像を膨らました彼女は生まれて初めて夢ができたのだった。
しかしそんな彼女の前には大きな壁があった。棟葉家という家柄だ。
どこからか彼と交際しているという情報が伝わった家族からの猛反対を受けたのだ。理由は棟葉家からの家を汚すなという重圧と、決められた許嫁と結婚しろ。という決まりがあったから。それに反発した彼女は、彼と生きようと家出を試みたものの失敗。それから彼女は家族から虐げられるようになり、家から出ることさえ許されなくなった。
そんなことから精神的に不安定になった彼女はやがて、部屋で一人自傷行為を繰り返すようなった。何をするわけでもなく自分を傷つけ続ける日々。
そして……そんな日が続いたある日、
家族を殺害した。
リビングで家族三人がくつろいでいたところをナイフで刺し殺す。目的なんてない。ただただ家族が憎かったのだ。出来るだけ無残になるようにやった。何分も何十分も刺し続けたという。そしてあとは……自分を殺すだけ。もうどうにでもなれ。そう思った彼女は自殺を図ろうとする……ところが。
神のイタズラか。大学生の彼がたまたまその現場にいあわせてしまったのだ。彼女と連絡がずっとつかないことを不審に思った彼が、住所を調べ訪れてきたのだった。そして鍵が開きっぱなしであることを不審に思った彼は部屋に上がり……自殺を図ろうとしている彼女を見つけた。彼は彼女を止めようと彼女の元へと駆け寄り……それを薙ぎ払った彼女は錯乱状態のまま彼を刺し殺してしまった。そのショックで正気を取り戻した彼女は彼へと駆け寄り……そこで彼から「君と駆け落ちをしようと思ったんだ」という遺言を聞き、泣き崩れた。そして再度錯乱状態へとになってしまった彼女は……倉庫へとフラフラと歩き自殺を図る……ということが事件の概要。警察はそんな家族のことなど知るわけもなく彼を犯人と断定し事件は解決となった。
荷物なんかが部屋になかったのは。家族から捨てられていたから。おかしな本棚は精神的に不安定になったいたころにやったもの。
何故、棟葉弥生はあれだけ生き返られることを恨んでいたか……。というと、何故彼が生き返られなかったのに、貴方達は生き返られるのか? ということからだと門番さんは推測している。
そして最後に、なぜ墓石が家の敷地内にあったかというと、外面を重んじる棟葉家がせめてもの情けとしてあそこにおいたらしい。事件のことが公にならなかったのも、棟葉家から警察に対する圧力があったからということだ。実際は被害者家族の立場を重んじて……ということにしたらしいが。
「これが金髪痴女から来た全文やね」
「その金髪痴女っていうの止めません?」
「じゃあ門番さん(笑)」
「やっぱりそこは笑うんですね……」
私と乃子さんは最初に出会った……というか乃子さんから襲われた場所を放課後に二人歩いていた。乃子さんが飴を頬張ったまま腕を頭の後ろに組んで歩き、その横を私が歩いてついていく。
あの出来事から二週間がたった今。この光景はだいぶ決まった形へとなっていた。
そんな中、乃子さんから連絡が届いたのが、今日の昼休み。『弥生ちゃんのこと、わかったお』その一文を見た私は、いつもより早く学校を飛び出し、すっかり集合場所となった坂の上の公園へと急いだ。
そして既に噴水の前に座り、誰も食べないパンの耳を撒いていた乃子さんから言われたことが、「あの出来事からおよそ二週間で、ようやく事件の概要がまとまったった」とのことだった。そして私の家の方向へと歩きながら事件の概要の説明を受けた。
表沙汰になっていないこともあり中々時間がかかってしまったが、門番さんの血が滲むような努力でなんとかわかったらしい。
乃子さんは「あいつ多分何にもしてねぇー」とは言っていたが。
「けど……なんだか悲しいですよね」
「まぁ……そうだねぇ。原因が原因だっただけに……報われないよなぁ」
彼女の人生はあまりにも出来すぎて辛いものだったと思う。当事者ではない私達には彼女の本当に気持ちなんてわからないのだろうが、果たして愛しあった彼を殺してしまった時彼女はどんな思いだったのか。そして私達が来るまでの五年間、あそこで何を思い続けていたのか……想像すらできない。
「けど……あれですよね。それだけのことがあったのに周りの人たちは何も思わなかったんですかね」
「と、いうと?」
「だってほら……あの子何日も見てないとか。棟葉さんに限らずあそこの家族の人みないね……とか。そうじゃなくても墓石があることとか。疑問に思うことだらけど思うんですけど」
「ま、そうだよねぇ……」
乃子さんは背伸びをしながら天を仰いだ。
「君はそう思うかもしれないけど世界はちょっとだけ違うかもしれないじゃん」
乃子さんは歩きながら、さっきのパンの耳を出来るだけ遠く後ろの方へと投げる。
「隣人の顔すら知らない。人のことなんて関係ない。人の家に興味はない。そもそも他人になんて一ミリの興味もない……そういう人がたくさんいるんだよ世の中には」
遠くに投げたパンの耳へと鳩が群がり、空へと掻っ攫って行く。「お、食べられた。ラッキーっ」と嬉しそうに乃子さんは笑っている。
「けど……そんな……世の中なんですかね」
「ああ……そうさ」
空に群がる鳩の群れの上を、一本の飛行機雲が横切って行く。
「……ここはそういう世界なんだ」
乃子さんがちらっとスマホの画面へと目を落とす。
「それじゃあ……そろそろ現場に向かおうか」
乃子さんがカバンの中から手帳を取り出した。
「今日は……どんな内容でしたっけ?」
「今日は難しいぞぉ? ……美味しいハンバーグを作って欲しい! ……勿論練習してきたよね?」
「あったりまえです」
私は指に巻いた絆創膏を乃子さんへと見せつけた。
「ふぅーっ……さっすが。まぁ私も負けてないけどね」
そう言って「ジャジャーン!」と威張る乃子さんは左手に痛々しいほどの包帯をグルグルと巻いていた。
「多分それ……負けてると思います色々と」
「言うなっ! 自分が料理苦手なことは自覚してるっての!」
ぷんっと乃子さんが頬を膨らます。
「すみませんホント」
私と乃子さんは目を合わせあい、一瞬の間を置いて笑いあった。
「はははははっ……はぁーあ……んじゃ、よし決めた! 家まで走って遅れたほうが責任を持ってハンバーグを作るってことで!」
乃子さんが全速力で走り出す。
「は、ちょ!? 早!? ていうか片方が作るんですか!? この前いかなる努力も惜しんじゃダメだって言ったじゃないですか!!」
「それはそれ! これはこれ! 走る努力は惜しまないぃ!」
「そもそも私、目的地知らないんですけど!?」
「ついてくればわかるぜ!」
「いや、ついていったら追いつけないんですよ!?」
「それが狙いだっての!」
「やぁーい!」と子どものようにはしゃぎながら乃子さんは走っていく。ホント遠慮なんてする様子もなく一目散に。
「もう……仕方ないな!」
いつもどおりの夕焼けが、いつもどおりの街を照らす。
私は、乃子さんに追いつこうと全速力で駆け出した。
これにて一旦『ChAiN soul Girl』おしまいとなります
香菜と乃子のお話を最後まで読んでくださかった皆様、本当にありがとうございましたっ
感想、レビュー等お待ちしておりますので、是非ともよろしくおねがいいたします(´・ω・ `)




