変わらぬ日々
変わらぬ日々
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普通が一番って言うけど、普通が一番難しいよね?
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魔石研究所で、永遠の恋人【助言】に質問する。
「スキルを継承する事が出来るって分かったけど、魔石合成をスキルと考えた場合、継承は可能か?」
『この世界にあって魔法という概念が不確定。
最悪、世界の崩壊を招く恐れが考えられます』
前の世界でも研究されていた事だが、全く未知の技術が入って来ると、文明文化が滅びてしまう可能性があるという。
「なら、今ある物で代替する事は可能か?」
別のアプローチで解決策を調べていく。
『魔石合成に必要な事は、正確に魔法陣を描く技術と魔法陣に流す魔力。
魔法陣に関しては学習は可能と考えます。
魔力に関しては、現時点で情報が無く回答不可』
「つまり魔力の代替品をどうするかが問題な訳・・ね」
魔力の代わりかーと、弄んでいた魔石を見て思いつく。
「【助言】に問う。魔石はどうやって出来る?」
『魔物が自らが生み出す魔力や外部からの魔力を吸収し、体内で結晶化していると考えられています』
「という事は、この世界に魔力は存在するんだよな?」
『肯定。魔力に類する物があると考えます』
魔法は無くても、魔石を作り出すための何らかの力はあるならば・・
「じゃあ、魔法陣を魔力の満ちた所、例えばダンジョンに持ち込むと魔法陣は起動するのか?」
『理論的には起動すると考えます』
「あとは実験のみか・・。非常に面白そうだ」
新たなる研究材料に、ザルトーニュクスの顔が気持ち悪いぐらいに崩れていた。
破壊された城にあって、まだ使えそうな場所を国王は執務室に当てていた。
一連の国家反逆に関する事後処理をしていると宰相が報告に訪れる。
「国王陛下、この国の救世主が分かりました」
「そうか! 良くやってくれた。それで?」
「以前、陛下の前に現れた盗賊を覚えていらっしゃいますか?」
「ああ、覚えておるが?」
一瞬、救世主と盗賊が結び付かず眉をひそめる。
「その人物でございます」
「ん!? ・・何故、盗賊が救世主になったのだ?」
「そこまでは・・」
宰相は集めた情報を統合した結果と合わせて、ザルトーニュクスという人物について報告していく。
グルナート商会で、コラレを見つけると声を掛ける。
「よぉ。今いいかい」
「いらっしゃい、ザルトーニュクス様。素材の卸ですか」
「それもあるけど、ちょっと聞きたい事があってな」
「何ですか? 大事になりそうなら、会長の所へお願いしますよ」
今までのザルトーニュクスの行動から、危険な臭いを感じ取る。
「いや、スキルを人に教えることが出来ると聞いてな。
今持っているスキルを継承させると幾ら位になるのかなーと思って」
「うーん、そうですね。
お金にはなるかもしれませんが、かなり面倒な事になりますよ」
「そうなのか?」
多分何処かで聞きかじって来て、相談に来たのだろうと思い丁寧に説明してくれる。
「スキルを継承するには、受ける側がかなりの才能が必要と言われています」
「えっ!? でも多くの人に教える事は可能だろう」
王宮では全ての騎士たちが、スマラクト騎士団長の闘気術を使おうとしていた。
「はい、教えて使えるようになるだけなら可能です。
しかし更に次の世代へのスキル継承というのは殆ど成功した例がありません」
スキルの完全な継承が行わなければ、一世代でそのスキルは終わりとなる。
一世代で終わってしまうなら、後継者より講師としてスキル持ちを雇い入れ様とするのだろう。
確かに講師という立場は、かなり束縛されて面倒臭そうである。
「言われている・・というのはどう言う事だ?」
「成功例が少なすぎて、検証が出来ていないんです。
正直成功した人には才能があったかどうかすら分かっていないんですよ」
「なる程、そういう事ね」
今までスキル継承の研究はされてきたのだろうが、何も分かっていないと言う訳だ。
「どんなスキルを売ろうと考えたんですか?」
「魔石を大きくしたり、質を高めるスキルなんだ・・が!?」
カッと目を見開くコラレ。
そのままザルトーニュクスを、グルナートの元へと引きずって行く。
自分の所の店員の形相にドン引きするグルナート。
「コラレがあんな顔をするなんて、一体何があったんですか?」
「いや何・・、魔石を大きくしたり、質を高めるスキルを売ろう・・と」
だがその一言でグルナートは、コラレの行動が正しい事を一瞬で理解した。
「それでどういう事なのですか?」
「いや、そもそもおかしいと思わなかったのか? あれだけの魔石を入手してくる事に」
「確かにおかしいとは思いましたが、上級や最上級に潜っていれば可能なのかと」
あまりお目に掛かれない素材を持ち込むザルトーニュクスだからと納得していたらしい。
「それでスキル継承の話に戻るが」
「いいえ、聞きたかったのはそうでは無く」
「うん?」
「何故、今になってこの話を、私の商会に?」
スキルは秘匿が当然であるし、継承しなければ金のなる木なのである。
自分の所へスキルの継承を持ち込んだのか知りたかったのだ。
「スキルの継承が可能と最近知った事が一つ」
「なる程、そういう事でしたか」
「もう一つは、俺がいずれ死ぬか、また何時いなくなるか分からないという事」
グルナートは何度も忠告を受けていた。
ザルトーニュクスが散々口を酸っぱくして頼るなと忠告してきた事を。
グルナートが黙った事で、話を先に進めてしまう事にする。
「それで俺の持っているスキルは、小さい魔石を合成して、大きくしたり、質を高めたりするスキルを持っている訳なんだが」
百聞は一見にと、用意しておいた紙に描かれた魔法陣に魔石を10個置いて魔力を流す。
すると同じ大きさでありながら、透明度の増した魔石が一つ出来上がる。
「こ、これは・・」
目の前で起きている事なのに、信じられないと言う顔をする。
「まぁ、問題としては大きくなるか、質が上がるかがランダムという所だ。
そこは勘弁してくれ」
「いやいや、そんなこと大した問題ではありませんよ」
大量に人足を集めて、大量生産出来れば些細な事でしかない。
実演した後の、魔法陣の描かれた紙や魔石を手に取って調べる。
「見て貰って分かると思うが、魔石合成のスキルは、魔法陣、この図柄の事な、を描くスキルと魔法陣を動かす力というスキルの二つによって成り立っている」
「ふむふむ」
「魔法陣の描くスキルの方は、ひたすら練習あるのみで習得可能と考えている。
そもそもスキルかすら怪しいがな。
あとは俺が起動させる力をどんどん流せばいい」
「分かりました。早速手配します」
「原画は・・、これで良いか?」
実際に動く図案を指し示す。
これほど最適な教材はあるまい。
「ありがとうございます。確かにお預かりしました」
さぁーて一仕事終わったと、背伸びをして部屋を出ようとした時、何気なく声を掛ける。
「そうだ一つ忘れてた」
「どうしましたか?」
「いや、魔石ってどうやって出来るか知っているかと思ってな」
「存じませんが・・」
「どうも魔法陣を動かす力が、魔物の体内で結晶化した物らしくてな」
「ほぉ」
超極秘事項がサラッと口にされている事を全く気付かない。
「なぁ、魔石ってどこで手に入るか知っているか?」
「それは勿論、ダンジョ・・ンの・・」
途中までグルナートは口にすると、目を見開いて固まってしまう。
「まさか・・」
「正確に魔法陣を模写できたら、ダンジョンで起動出来たりしてな」
ザルトーニュクスが立ち去った扉を、しばらく見続け一言つぶやく。
「まったく変わらないお人だ」
そんな平和な悩みと無縁の、国王とは宰相は揃って頭を悩ませていた。
崩壊した城、空っぽの国庫と宝物庫、反乱に関わった残りの者の捕縛と処分などなど・・。
考えなければならない事、やらなければならない事は山積みであった。
「何にせよ、先ずは国庫をどうにかせねばな」
「しかし誰が奪ったかまでは・・」
「間違いなく、兄上と騎士団長を捕えた者であろう」
「ザルトーニュクス・・、ですか?」
謁見の間に侵入し、いつの間にか逃げおせた盗賊であった。
しかし彼の情報を集めると、単なる盗賊であったとも思えないのである。
「素直に返還に応じるでしょうか?」
「まずは一番親しいものから彼の人となりを聞いてみたいと思う。呼べるか?」
「承知いたしました」
いつもいつもザルトーニュクスから、とばっちりを受けるグルナートであった。
ちなみにノース市長はノーウ町長を。
ノーウ町長のヤーデはグルナートをと段階的に下へ下へと推薦して行った結果ではある。
国王に謁見すると挨拶もそこそこにグルナートは、ザルトーニュクスについて聞かれる。
「彼が・・、何か?」
ザルトーニュクスには大きな恩があるが、犯罪者であれば話は別である。
しかし出来る限り弁護するつもりではあったし、罪を償えば今まで通りの関係を持ちたいとさえ考えている。
例え商会と引き換えになるとしても・・。
「我と、この国を救ってくれた者だ」
「なっ!?」
そんな覚悟を簡単に打ち砕く言葉に驚く半面、なる程とも思われる事ではあった。
「ただ、な。その後で城にあった全ての財宝が奪われてしまった。
心当りは・・無いか?」
うーんと、グルナートは言葉を選んで答える。
「冒険者の多くは、悪人の所持品を奪っても問題無いと思っております。
・・ザルトーニュクスもその内の一人に含まれます」
「その辺りは咎められる事では無い。
つまりザルトーニュクスは国家反逆者故に悪人、だから奪ったというのだな」
「いえ、少し前の事となりますが、悪徳商会の蝦蟇一派が彼の命を狙いまして。
その黒幕が、ブルートシュタイン様だったという事では無いかと」
「・・なる程、国王とか関係なく、自分の命を狙う輩だからという事だった訳か。
あらゆる面で金がかかる状態なのだが、国庫の返却をして貰えないだろうか?」
少し思い悩まし、今までのザルトーニュクスの思考と行動から回答を出す。
「彼に今回の報酬の様な物はありますでしょうか?」
「無論出したい所ではあるが、無い袖は振れぬ」
「いえ、そういうご意思があるのであれば・・」
国王と宰相に、対ザルトーニュクスの秘策を授ける。
ザルトーニュクスがグルナート商会に素材を卸しに顔を出すと、コラレには珍しく相談を受ける。
「ザルトーニュクス様、お時間はありますか?」
「ん? 何かあるのか?」
「ダンジョンのドロップ品についてお聞きしたい事がありまして」
「どういう事だ?」
「この素材を確実に得るには、みたいな事をお聞き出来ればと思いまして」
「なる程・・」
勿論ザルトーニュクスの持ち込みに不満がある訳で無ないだろう。
しかし商人としては、何が、何処で、どのくらいの確率で得られるかを知って置く事で、必要な物をより多く確実に得たいと考えるのは当然と理解する。
今までの経験から、分かる範囲の事を教える事にする。
かなり長い時間話し商会を出ると、一台の馬車が止まっていた。
後ろを振り返ると、店員総出でお辞儀していた。
「行ってらっしゃいませ!」
「・・嵌めたな?」
先程の相談は商人としての立場としては、決して嘘偽りでは無かったはずだ。
ただし馬車の方も商会としても断るに断れず、先程の相談を利用して時間稼ぎをしたと言った所だろう。
仕方ないと溜息を吐き、馬車に乗り込む。
最悪の気分と乗り心地を結構な時間味わいつつ、かなりの速度で向かった先は・・。
「到着しました」と半壊した王宮を見た途端、思わず回れ右して帰ろうとするのを必死に止められる。
多少の罪悪感もあり、国王に仕方なく二度目?の謁見をする事になる。
「はぁ・・」
「すまんな、無理やりに呼び立てて」
これ見よがしの溜息に、咎める事無く詫びてくる。
「まぁ、いずれは話が来るだろうなとは思っていましたから・・。
で、本日はどのようなご用件で?」
「この国を救ってくれた礼をな」
気楽にと言われたが、国王に対面して取るべき態度ではない。
「救う? 上が変わっても国は続くと思いますが?」
「まぁそうではあるのだがね」
身も蓋も無い言い方に、思わず苦笑する国王。
「なら儂を救ってくれた礼となるか」
「救う救うと仰いますが、私は自分の命を狙った者に報復しただけです」
「お主から見ればそうかもしれんが、儂から見れば別に見えるのだ」
このまま話を続けても平行線だろうと考える。
「分かりました、礼は受け取りましたから」
そう言うと、席を立とうとするのを国王が止める。
「もう一つ聞きたい事がある」
「何でしょうか?」
「国庫や宝物庫が空になっておったのだが、貴殿は何か知らないか?」
「存じ上げません」
きっぱりと言い切ると、お互いの腹を探るような視線を国王の方から外す。
「そうか・・、ならば良い。
そう言えばそなた、商いで色々と成功している様だな」
「さあ? 世話になっているグルナート商会の手腕だと思います」
サラッとかわすザルトーニュクスに、国王が準備した爆弾をぶち込んでくる。
「空の国庫では何も出来ん」
「まぁそうでしょうね」
「そこで大陸全土の商会に援助を願っている所だ。
お主も支援をしてもらえぬか?」
「支援・・、投資という事ですか?」
「国家救済基金という名目ではあるがな」
深く深く溜息を吐くと、国王に問いかける。
「・・近くにグルナート会長が居ませんか?」
「さぁな?」
再び腹を探る視線を交わすが、今度はザルトーニュクスが外す。
「条件があります」
「聞こう」
「グルナート商会に一任で」
何処からか、ガタッと音が聞こえた様な気がした。
何処からか、声無き叫びも聞こえた気がした。
でも敢えて無視した。
「上手く取り謀ろう」
もう一度深く溜息を吐く。
「私が戻って来るまで、此処を動かないで下さい」
「ん? 分かった」
そう言ってザルトーニュクスは部屋を出て、左程時間も掛からず戻ってくる。
「今の時間に何か意味があるのかね?」
「有り金を国庫と宝物庫に入れてきました」
「なっ!?」
「確認して下さい」
それを聞くと宰相が直ぐに飛び出していく。
直ぐに戻って来て、確かに国庫と宝物庫が満たされている事を報告する。
これで終わりとばかりに席を立つ。
「出来ればもうお会いしたくないですね」
「期待に添うよう努力はするがな」
苦笑いを浮かべる国王の言葉を聞いて、扉の方へ一歩また一歩と歩みを進める。
何も無い所で足を取られ、躓きそうになる。
この世界に来た時のような音は聞かれなかった・・様な気がする。
ザルトーニュクスは既視感に一瞬目を見開くが、直ぐに意味深に笑みを浮かべる。
「さてさて、ここは前の世界か、そのままの世界か。
はたまた他のパラレルワールドか・・」
頭をよぎる既視感に、姿勢を戻す前に目を閉じ一人呟く・・




