第三話
魔力で偽装されている入り口は、自らの身体に魔力を纏わせることで問題なく通過することができる。
「これは、誰がやったんでしょうか?」
通常、ダンジョンの入り口というのは隠されてはおらず、ぽっかりと口を開けて普通にそこにただあるもの。
しかし、今回の入り口は侵入者を拒むように隠されていた。
「グレヴィンがやったか、もしくはそれを誰かが引き継いでいるか、それとも……」
最初の二つであれば、何も問題はないと思われる。
しかし、蒼太が口にしようとした第三の可能性――これが当たってしまえば、きっと問題に巻き込まれるのだろうな、そう考えていた。
「――誰だ!」
その考えを口にしようとしたのと同時に、三人に向かって鋭くとがった声がかけられる。
「……人? 俺たちは冒険者の蒼太とディーナ、それと仲間のアトラだ」
声のする方に顔を向けると、そこには人の姿があった。
魔物がいるのは想定していたが、まさか先客がいるとは思っていなかったため、蒼太は軽く首を傾げながら相手の質問に答える。
「冒険者ふぜいが何をしにやってきた!」
明らかな敵対心をむき出しに男が蒼太たちに向かって剣を抜き、剣先を向けてくる。
姿を見せた男は人族であり、構えている剣も上級者が持つような武器、防具もそれなりのレベルのものを身につけている。
「いやいや、会ったばかりでそこまで敵視されても困るんだが……俺たちはこのダンジョンの探索に来ただけだ。そっちの邪魔をするつもりはない」
蒼太は両手を上げて敵対の意志がないことを示しながらその場で会話をする。
ディーナもアトラも何かをするつもりはなく、蒼太に対応を任せることにして一歩下がっていた。
「どうしてここがわかったんだ……? おい、お前たち! どうやってここに入ってきたんだ!」
蒼太たちが訪れたことに対して激しく警戒する未だ彼の態度は変わらず、一方的に質問――というにはきつい言葉を浴びせてくる。
「ふう……これはなしのつぶてだな。俺たちはとある筋の情報でここにダンジョンがあると知った。そして、ここの入り口は魔法で隠されていたが、俺たちの目にはあることがわかっていた。だから、ここに入った」
何か問題でもあるか? どうだ? と蒼太は彼に話を振る。
「……そういうこともあるのか……ちっ、大丈夫だって聞いてたのに! あぁあぁ、いいさ! とにかくお前たちは出ていけ! 俺は誰もここを通すなと言われているんだ、出ていかないと殺さなくちゃになるからな!」
正論をぶつけられて一度考え込むようにぶつぶつと言っていた男は、やけくそ気味に吐き捨てる。
そんな男の態度に、蒼太はやれやれと肩を竦め、内心呆れかえっていた。
男の様子をじっと観察していた蒼太は大体の状況を察した。
「なるほど、奥に誰かいるのか……それじゃあ、とおらせてもらおう――アトラ」
『承知』
目を細めた蒼太の言葉にアトラは返事をすると、次の瞬間には男の目の前にいた。
「なっ!? げふっ!」
そして、そのままアトラは男の腹部に突撃する。
不意をつかれた男はそのまま後ろに吹き飛ばされ、強く頭を打つ。
兜を装備していたため、大きな怪我にはならなかったが、ぐったりと壁にもたれ、意識を失っていた。
ディーナが周囲の気配を探るが、この男以外の気配は近くにないと蒼太にアイコンタクトする。
その合図に頷いた蒼太は、アトラの鋭い一撃で倒れた男の元へと近づいた。
「ご苦労さん、何か身元がわかるようなものは……」
蒼太は彼の身体を探り、何か情報がないかと見ていく。
すると、鎧の下の服になにかマークが記されているのを見つける。
「このマークはなんだ?」
製作者のマークではなく、恐らくどこかの騎士団、警備隊、私設兵などなんらかのグループのマークであると思われるものだった。
「うーん、見たことないですねえ。でも、どこの国の騎士もこんなマークはつけていなかったので、国の所属というわけではなさそうです」
蒼太の隣で男を見るディーナも、そのマークには見覚えがなかったが、それは反対にこれまで見た団体の誰もつけていなかったことを示していた。
「秘密結社、秘密組織、そんな怪しいものなのか、それともどこかの貴族の手のものなのか……まあ、先に行けばわかるか」
男から情報を引き出すのを辞めて蒼太は立ち上がると、ダンジョンの奥へと視線を向けた。
入り口付近からではなんの変化も感じ取れないが、倒した男の話から察するに、この先に彼の仲間がいることは予想できた。
「そうですね、変な人がいないといいんですが……」
ディーナも同じ方向に視線を向けて表情を曇らせていた。
「まあ、いたらいたでなんとかなるだろ。それよりもすごいなここは……湖の近くのダンジョンだけあって、水が壁に沿って流れてるぞ」
蒼太はこの先にいるであろう、正体不明の何者かよりも、これから探索していくダンジョン自体へと興味が向いていた。
視線を彼の指す方に向けると、壁一面が水の流れる美しい光景となっており、湿りながらも心地よい空気が流れている。地上もなかなか居心地の良い空間だったが、ここもまた違った点で癒される場所だ。
「綺麗ですねえ……通路の横も水が流れているんですね。水の精霊さんが気に入るかもしれません」
洞窟の美しさに柔らかく目を細めたディーナは、そこで水の精霊を呼び出す。
ふわりと現れた水の精霊は、この空間を気に入ったのか、ディーナの周囲をピョンピョン跳ね回り、喜んでいるようだった。
水属性のダンジョンは水の魔力を空気が含んでいるため、同属性の精霊はその空気を身体に取り入れることで気持ちよくなっているようだった。
「ふふっ、よかった。精霊さんが喜んでます」
ふわりと微笑んだディーナは、そのまま精霊を呼び出したままにしておく。
呼び出している間、こちらの世界にとどめておくには魔力が必要となるが、精霊の調子が良くなることを考えてそのままにしていた。
「確かに……水の魔法が使いやすいようだな」
蒼太は試しにと、水の玉をいくつか生み出してみるが、普段よりもスムーズに行うことができ、少ない魔力で今までと同等の威力の魔法が使うことができる。
「反対に……こっちはやりづらいのか」
今度は火の玉を生み出すが、こちらは必要な魔力量が多くなっているのを感じていた。
だが生み出された火の玉の威力はいつものそれと変わらない。
「事前に考えていたとおりですね。ここまで影響が大きいとは思いませんでしたけど……でも、ソータさんなら些細な問題だと思います!」
何も心配していないという笑顔でいるディーナに、思わず蒼太は苦笑する。
「まあな、炎の魔法を使うことは多いが、それ以外が使えないわけでもないから大丈夫か」
そのやりとりを聞いているアトラは口を挟まなかったが、内心では二人であればどんな怪物がでてきても負けるはずがないだろうと考えていた。
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8月27日(火)より、
本作「再召喚された勇者は一般人として生きていく?」コミカライズ開始します!
配信は電子コミックサービス「LINEマンガ」、漫画担当は濱﨑真代さんとなります。




