第二話
エドワルドがひく馬車に揺られた一行は、北の大きな湖にあるという迷宮に向かっていた。
「湖畔の迷宮というくらいだから、水属性のダンジョンなのか?」
手綱を握る蒼太の隣で、ディーナはグレヴィンの残したメモ帳をめくっていた。
「えっと……そうみたいです。生息する魔物の多くが水属性で、迷宮の中も水が流れているようですね」
それを聞いて蒼太は亜空庫に入ってる装備を確認していた。
「ディーナの武器はライウスにしておいてよかったよ。アンダインだと水属性だけだから、ダンジョンの魔物に通用しない可能性があるからな。水相手なら火か雷が有効か」
ディーナがメインに使っている武器ライウスは、水の魔剣アンダインをベースに作り直された武器であり、その他の属性も使えるようになっている。
「はい! ライウスがあれば、どんな相手でも戦えます!」
ディーナは腰にある愛剣に手を伸ばして笑顔でいう。彼女は自分の剣に対して絶対の信頼を持っていた。製作者が蒼太とアントガルという信頼できる人物であるというのも、武器の力を信じる理由になっている。
「俺は夜月と蒼月だな。まあ、二刀使うこともそうそうないだろうから、夜月をメインに使っていこう」
蒼太はというと、腰から外しておいてある二刀をチラリと見てそう言った。
「久しぶりに武器の出番ですね。帝国での戦い以来、まったりと過ごしてましたから腕がなまってなければいいんですけど……」
言葉は不安だなというものであったが、彼女の表情は満面の笑みだった。
「ディーナ、言葉と表情があってないぞ。……まあ、気持ちはわかるけどな。うまく動けるかというのは不安だが、やっぱり自分の剣を振るうのは楽しみだよな」
『二人はさぼりすぎだ。私は普段から森で身体を動かしていたから、万全の状態だ』
馬車と並走するアトラは軽く自らの爪を振るって、すぐに戦えることをアピールする。
「あぁ、アトラを頼りにしているよ。どんな魔物がいるかわからないから、全力でやっていかないとな」
蒼太は再召喚されてからも、ヒュドラと戦ったり大会で優勝したり、転生者と戦ったりと強者と戦い続けてきたが、ダンジョン攻略となると勝手が違うだろうと考えていた。
「ふふっ、ソータさんだったらどこででも大丈夫だと思いますけどね」
口元に手を当てるディーナは蒼太の実力を理解しており、まだ見ぬ場所とはいえ、彼であれば余裕で切り抜けられるだろうと思い、優しい笑顔になる。
「油断大敵、と思っておいたほうがいいからな。もしかしたら、本郷くらい強いやつが十人くらい出てくるかもしれないからな」
「――十人!?」
ディーナは蒼太とまともに戦っていた本郷のことを思い浮かべ、更に彼が十人いる光景を想像して驚きの表情になった。
「それは……怖いですね」
恐ろしい光景だったため、ディーナは身震いする。
「ははっ、リアルに想像したのか。まあ、さすがにそこまでの敵はいないだろうから、それくらいを想像しておけばなんとかなるだろ……っと、みえてきたぞ」
彼らが街を出てから既に数日経過しており、目的の湖が見えてきた。
「うわあ、綺麗ですねえ……」
天候は晴天、穏やかに広がる湖は太陽の光を反射してキラキラと輝いている。
周囲は森に囲まれており、森の中にぽっかりと湖があるのが、遠くからでも見て取れた。
「……湖の周辺からは魔物の気配はあんまり感じられないな」
ダンジョンがあるといっても、それが起点に何かが起きているということはなく、このあたりは静かで時折鳥の鳴き声が遠くから聞こえてくる以外は、エドとアトラの足音、そして馬車の移動音が響いてるだけだった。
それからしばらく進んでいくと、すぐに湖のほとりに到着する。
「ふう、到着だな。エド、お疲れ様」
「お疲れさまでした」
馬車を停めて蒼太とディーナが馬車を降りる。
エドワルドは二人のいたわりの気持ちを受取って軽く嬉しそうに身震いした。
改めて蒼太が周囲の気配を探るが、魔物や動物の気配がちらほらある程度だった。
「中には俺とディーナとアトラで行こう。エド、馬車は外しておくからこのへんにいてもらえるか? もし怪しいやつがダンジョンに近づきそうだったら牽制しておいてくれ。普通の冒険者っぽければ放っておいて構わない」
「ヒヒーン!」
蒼太の言葉に、エドワルドが任せておけと言わんばかりに凛々しく返事をする。
本郷との戦いの時のように、蒼太の力になることは嬉しいことであったが、元来のエドワルドはのんびりと過ごしたいというタイプであり、せっかく訪れたこの森でゆっくりとしようと考えていた。
「それじゃ、俺たちは行こうか……入り口はどっちだ?」
蒼太は自分たちが経っている場所から対岸まで視線を巡らせていくが、それらしい場所は見当たらない。ただ穏やかな湖が広がるばかりだ。
「えっと、メモによるとあっちみたいですね」
メモと見比べながらディーナが指差したのは、向かって右手の方向だったが、ここから目をこらしても、そちらに何かあるようには見えない。
「ふむ、とりあえず行ってみるか」
ぱっと見は何も見当たらないが、グレヴィンのメモであるならば何もないということはないだろうと、蒼太はそちらへ向かってみることにする。
「そうですね、メモを見る限りあちらの地面に入り口があるようですが……」
ディーナの目にも何も映っていないため、少し不安になりながら蒼太の隣を歩く。
風がさわさわと木々を撫でる音と、蒼太たちの足音が心地よく耳に入ってくる。
「それにしても、こうやってゆっくり散策するのも気持ちいいもんだな。あとで釣りをするのもいいかもしれないな」
湖では時折魚が跳ねるのが見えたため、蒼太は亜空庫に入っている釣り具を思い出し、そんなことを口にする。これまでの冒険に明け暮れる日々もよかったが、こうして穏やかに過ごす時間は蒼太の心を穏やかにさせた。
「釣りですか、私やったことないのでやってみたいです!」
釣り、という言葉にディーナも食いついてくる。好奇心旺盛な性格が顔を出したようだ。
かつての彼女は、王家に名を連ねる者であるがゆえに、あまり自由に行動することを許されなかった。
だからこそ、今蒼太と共に色々な場所に行くのが楽しく、釣りをはじめとするやったことのないものに挑戦してみたいという気持ちも強かった。
「ダンジョン攻略して、まだ気力があったらやってみるか」
「はい!」
『二人とも、どうやらアレが入り口のようだぞ』
雑談をしている二人に、静かな声音でアトラが声をかける。
「あー、なるほど。こういう風になっているのか……」
「これはあっちからだとわかりませんね」
近づいてみてようやくわかるのだが、目的の入り口付近は一見すると普通の地面のように見えるが、魔力の揺らぎがぼんやりと存在し、そこから湖の下へ伸びる空間があるのを感じられた。
どうやら入り口は魔法によって偽装されているようで、魔力の流れを感じられない者であれば確実に見過ごしてしまうようになっている。
それは魔力を感じる力の強い二人でも、遠くからではなんの変化も起きてないように見えているほどであった。
「それじゃ、釣りを楽しむためにも」
「はい! 迷宮攻略に行きましょう!」
『楽しみだ』
楽しそうに顔を見合わせて頷きあう蒼太とディーナだけでなく、アトラもダンジョンという未知の場所に挑戦するのを楽しみにしていた。
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8月27日(火)より、
本作「再召喚された勇者は一般人として生きていく?」コミカライズ開始します!
配信は電子コミックサービス「LINEマンガ」、漫画担当は濱﨑真代さんとなります。




