第四百六話
大輝と秋は二人で黒い鎧を挟み込んだ立ち位置をとり、次々と剣戟を浴びせていく。
二人の剣速は黒騎士の防御速度を上回り、次々にダメージを与えていった。
それぞれが早朝に修行をしていたこと、武器を作ってもらう間、魔道具で自分の力を抑えこんで行動していたこと、そして装備によって能力が強化されていること。それらが二人の現在の攻撃速度を生み出していた。
しかし、黒い鎧は攻撃を受けてもすぐに修復して決定打とまではなかなかいかなかった。
「冬子ちゃん、リズちゃん、うちらも二人に加勢しようよ!」
状況が膠着しつつあることに気づいたはるながそう提案するが、冬子が真っ先に首を横に振る。
「気持ちはわかるけど難しい。相手の動きも遅くはないし、あっちは接近戦で戦っているから、私たちが外から攻撃して鎧だけ狙うのは多分無理。それに……」
淡々と告げた冬子はそこまで言うと、大輝と秋に視線を向ける。
「――二人とも楽しそう」
そう、二人は笑顔で戦っていた。それを邪魔するのはよくない――それが冬子の結論だった。
「あ、あの、私は少しトーコさんとは違うのですが、それでもやはり私も手助けはしないほうがいいと思います」
そおっと手をあげながらリズも加勢に反対するというのを聞いて、どうして、と言わんばかりにはるなは目を見開いて驚いていた。
「あ、え、えっと、違うんです! あの……ダイキさんとアキさんはとても強いです。だから、あの鎧くらいならきっと二人で倒せると思います。いえ、むしろ倒せないと魔王と戦うのは難しいと思います」
はるなの反応に最初、慌てたように両手を振っていたリズはこれから先のことを考える視野を持っていた。魔王ともなればその側近も強者がいて、それらを相手取らなければいけない。だからこそ彼らを信じて見守ろうと言う。
「リズちゃん――なんか、すごく恰好いいね。……うん、そうだよね、二人を信じよう!」
はるなはリズと冬子の意見を聞いて、留まるべきなのだと判断し、飛び出したい気持ちをぐっと押さえて戦いを見守り始めた。
「――あっちは動かないって決まったみたいだね」
大輝ははるなたちのやりとりを気にしており、加勢しないという判断を感じ取っていた。幼なじみとしてずっと一緒だったはるなの気持ちは普段鈍感な大輝でもわかるものだったため、内心安堵していた。
「そうみたいね。これは二人で何とかしないと」
秋も同様に彼女たちの話し合いに気付いており、薄く好戦的に笑った彼女の剣を持つ手には気合が入っていた。
「秋、どうしようか?」
猛烈な一撃を加えるように剣を振りながら、何気なく問いかけるように大輝は秋へと相談を投げかける。
「そうねえ、このままだと体力が削られるだけこっちが不利ね。ってことは方法は三つかしら」
秋もまた剣を振るいながら余裕を持って口にしたとおり、三つの案が浮かんでいた。
「聞かせてもらおう、かな!」
作戦を聞くなら一度距離をとるべきだと、大輝は黒い鎧の剣を弾き飛ばす。
「やるじゃない!」
その隙を秋が突こうとするが、飛ばされたはずの剣は黒い鎧の手の中に再び納まっており、秋の攻撃は防がれてしまう。
「あちゃあ、これはやっかいだ。――それで三つってどんな案?」
いい攻撃だと思っていただけに、剣が手に戻っていることに大輝は顔をしかめていた。だが戦っている最中であるがゆえにすぐに頭を切り替える。
「一つは、今よりも手数をあげて修復速度を上回るだけの攻撃をする――でもこれはなかなか厳しいわね。速度はかなり上げてるけどやっと拮抗しているか、こっちが負けているくらいだもの」
秋もまた攻撃を防がれて不満そうな表情だが、作戦を話し出す。
その言葉に大輝は頷く。これ以上速度をあげるとなると、何かしらのブーストが必要になる。
「次は手数じゃなく、単発の威力で勝負。一人が攻撃を受けて、もう一人が強力な技を打ち出すという方法ね。こっちならできなくはないけど、相手が耐えられる上限を超えないと厳しい状況になるわ」
もし効かなかった場合、こちらの隙が大きくなってしまう――と秋は語る。
「……じゃあ、最後の一つは?」
秋があえてここまでダメな案を出すということは、最後の一つはよほどリスキーなものであるか、確実性のあるものだと考えられた。
「どこかにあるはずの核を破壊する。リビングアーマーは大抵の場合、どこかに核があってそれが原動力になって動いているの。だから、それを壊すことができれば……」
「――倒せる」
秋の言葉の続きを大輝が口にして、それに対して彼女はその通りだと頷く。
最後の案を採用することにした二人の意思は統一される。
問題はその核がどこにあるかだったが、秋は既に見当つけていた。
「さっきから色々な場所に攻撃を当ててるけど、相手の右のお腹あたりに攻撃があたりそうになったときだけ、やけに必死に避けようとしていたわ」
「確かに……じゃあ、まずはそこからねらおうか」
秋の分析を聞いた大輝は楽しそうに笑いながら一度黒い鎧から距離をとる。
その間、秋が一人で相手をすることになるが、黒い鎧の攻撃は防ぎきれないものではなく、一人でも十分戦うことができている。
「いくぞ、“トリプルスタブ”!」
大輝は一気に距離を詰めながら三連続の鋭い突きを放っていく。
一発目は頭部を、二発目は胸のあたりを、三発目は先ほど秋が指摘した腹部を狙う。
一発目が見事ヒットして鎧の頭の部分を吹き飛ばし、二発目が胸の装甲を貫き、三発目は黒い鎧の剣によって防がれる。
どこを狙われたとしても腹部だけは守り切るつもりであるらしく、鎧の剣がギリギリのラインで大輝の突きを止めていた。
「――まだまだ!」
大輝の攻撃はそれで止まらず、そのまま突き続けていくと、その中の一撃が黒い鎧の腹部付近に突き刺さった。
そのチャンスを逃さず、気合を入れた大輝は剣を上へと大きく振り上げる。
黒い鎧は強固なために切り裂くことは叶わないが、相手の隙を生み出す。腹部を狙われていることに気づき、ひたすら防御に徹していたが、焦ったようにぐらりとバランスを崩してしまった。
「“バーストスラスト”!」
いつの間にか後ろに回り込んでいた秋の剣が深く鎧の腹部に刺さる。
そして、刺さった先端から魔法が発動し、大きく爆発した。狙いは、黒い鎧の核。
強力な魔法の発動を感じた大輝はそこからすぐに飛びのき、秋は自分の魔法では傷つかないためにその場にいた。
秋が攻撃を加えた場所から大きな爆発音が炸裂するように広場に響き渡り、黒い鎧は内側から粉々に砕け散った。
もちろん、鎧の核も一緒に。鎧の破壊音とは別に、核が壊れるガラスの割れるような音が彼らの耳に届いていた。
「――くはあああ、疲れたあ」
黒い鎧が粉々に破壊されたことを確認し、離れた位置で座り込んだ大輝は大きく息を吐く。新しい武器や防具を存分に試せて楽しかったものの、全力を出して戦ったために疲労感がどっと押し寄せた。
「ちょっと大輝、すぐに警戒を解かないで。他の敵が隠れているかもしれないし、あいつだって倒しきれてないかもしれないでしょ?」
倒せたことは手ごたえでわかっていたが、秋は大輝の反応をぴしゃりと注意する。
「ごめんごめん――でも、結構強かったね」
「まあ、大技を禁止にしてたしね」
鉱山の中であるため、あまり大きな技を使っては鉱石に影響が出ると考えていた二人はなるべく弱い威力の技でだけ戦っていた。
制約がある中での戦いも学ぶ、いい機会となっていたようだ。
それから土煙が完全に晴れてからも、鎧が復活する様子はなく、地面には鎧の欠片が散らばっていた。
「ふう、今度こそおわりね。いいわよ、警戒を解きましょう」
秋の判断で了承が得られ、そこで全員が安堵して一か所に集まってきた。
目的はまだまだ先であるため、彼らは悠長に休憩はしていられなかった。
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