第三百八十八話
城に到着した五人は謁見の間ではなく、食堂へと案内される。
食堂といっても、大勢が集まって食事をとるような部屋ではなく、王族が客とともに食事を楽しむ専用の部屋だった。上品だが野性味のある調度品が並べられているのは獣人国ならではといったところだろうか。
「よく来てくれたな。突然の呼び出しに応えてもらった感謝する。――まあ、王族と国を代表する勇者という立場だと俺の誘いを断れないのかもしれんが……すまんな」
自分の立場を使ってしまったことを申し訳なく思った王は潔く五人に頭を下げる。
「いいよいいよー、ご馳走食べられるんだから気にしなーい!」
いち早く反応したのははるなだった。あまりにも砕けた言葉遣いを止められなかったことにリズは自分の顔を思わず両手で覆っていた。
「うむ、よいよい。ここは謁見の間ではない。立場でいえば客人であるお前たちが上といっても過言ではないからな。はっはっは!」
過言であることは誰もがわかっていたが、王が気を使わせないようにと振る舞ったことで部屋の空気が弛緩したのを全員が感じていた。リズもほっとしたように息をついている。
「――ごほん、それでお話というのはなんなのでしょうか?」
そこを狙って大輝が質問をした。
「うむ、そうだったな……まあ、まずは食事にしよう。おい、食事を運んでいいぞ」
王は側仕えのメイドに声をかけて、食事の準備を始めさせる。
既に料理の準備はできていたようで、次々とメイドたちの手によって部屋に運ばれてくる。それを見たはるなはキラキラと目を輝かせていた。じゅるりとこみ上げる唾液を飲み込んでいる。
大輝と冬子と秋は冷静を装っていたが、豪勢な料理の数々にときめく心を隠しきれずにいた。
「うむうむ、始めてくれ。マナーなどは気にしなくていいぞ、食べやすい食べ方で食ってくれればいい」
大らかに笑う王の寛大さに感謝し、五人は食事を始める。
「「「「いただきまーす!」」」」
リズを除く四人が食事開始の挨拶を口にしてから、料理に手をつけていく。リズは一人丁寧に王族としてのマナーを順守して綺麗に食べて始めた。
その様子を見た王は薄く目を細め、やはりと何かを納得しているようだった。
「んんぅーっ、美味しいー!」
頬を片手で押えたはるなはとろけた表情で素直に感想を口にする。
王宮務めの料理人の腕前は全て一流であり、四人だけでなく、王族のリズの口も満足させるものだった。
「満足してもらえたようでよかった。――それでは本題に入るとしようか。あぁ、食事を続けながら聞いてくれればいい」
そう王に言われてもリズは手を止めて口元を拭き、他の四人は食事をしながら注意は王に向けていた。
「話というのは――お前たち四人が召喚された勇者ということ。そして、その召喚にはもう一人いたんだろ?」
誰にも言っていない、国内でも秘密にされていることを他国の王が口にしたことで、思わず五人は動揺する。
ナイフを床に落としてしまう者、持っていたコップを倒してしまう者、食事の手が完全に止まる者など反応は様々だったが、全員が王への警戒心を表に出していた。
力こそが全ての獣人国の王に成長途中の五人が正面から挑んで勝てるかといわれると怪しいが、隠していたことをズバリ言い当てられたことは警戒せざるを得ない状況だった。
「はっはっは、まあそう構えるな。一応言っておくと、人族の誰かが情報を漏らしたなどということはないから安心してくれ。この情報は、そのもう一人から聞いたものだからな」
警戒されても気にした様子もなく笑った王のその言葉に、五人は更に驚かされることとなる。
「近衛!」
「近衛君が?」
「……」
「近衛……」
それぞれが思い思いに口にする四人の言葉を聞いて、おやっと王は首をかしげていた。
「このえ? 確か名前はソータだったと思うが……」
四人の誰もが口にしていない下の名前があっていることに王の言葉の真実味が増していた。
「そいつです!」
思わず立ち上がった大輝が声をあげて王の言葉を肯定する。
「お、おぉ、そうか……お前たちを再度ここに呼びつけたのは、ソータに言われたからというのが理由だ。この国に自分以外の四人の召喚された勇者が来るかもしれない。もし訪れた時に、力ある者たちだったら手を貸してやってくれとな」
まさか、城で別れた蒼太の名前を別の国で、しかも王の口から聞くことになるとは思ってもみないことであり、五人はポカンと口をあけて驚いていた。
「それで、大会を見させてもらったわけだが、十分な実力を兼ね備えていると判断した。それゆえに、何か力になれればと思ってな」
今回、王が城まで大輝たちを呼んだ理由はそれで全てだった。ニヤリと笑った王は彼らの実力を認めたようだ。
「い、いつ会ったんですか?」
「……なんであいつが王様と?」
「近衛君すごいねぇ、王様と知り合いだなんてー」
「――やっぱり」
困惑交じりに椅子にすとんと座る大輝、硬い表情の秋、のんびりと笑うはるな、相変わらずの無表情の冬子の順に口を開く。リズは一人考え込むように黙っていた。
「あー……いつだったか、大会が終わってしばらくしたあとだったか? 自分の用事が色々終わったから、一緒に召喚されたお前たちのことを考える余裕ができたと言っていたな」
大会というのが、獣人国主催の武闘大会であることは想像でき、それからしばらくということは最近の話なのではないかと大輝が予想する。
「も、もしかして、けっこう最近ですか?」
「どうだったか……ルードレッド、あいつが来たのはいつだ?」
同じく食堂に控えていた大臣ルードレッドは忘れないで下さいよという視線を王に向けつつ、彼の質問に答える。
「確か、ひと月ほど前のことだったかと記憶しています」
「――ひと月!」
思っていたより近い日付であったため、大輝は大きく目を見開いて驚いていた。他のメンバーもそれぞれ驚き、蒼太のことについて色々考えを巡らせているようだった。
「まあ、あいつのことはいいじゃないか。……それよりもどうだ? 何か俺にしてもらいたいことはあるか? 金銭の補助でも、戦闘訓練の相手でも、俺にできることなら大抵のことは力を貸すぞ」
どんと鍛えた胸を叩いて笑顔で言う王のそれは魅力的な申し出であるのは確かだったが、すっかり蒼太のことに意識がとられてしまった四人は、王の質問に答える余裕がなくなっていた。
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