第三百八十一話
大輝の第一試合で盛り上がった大会は第二試合、第三試合を終え、一回戦最終第四試合。
ついに秋が登場する。
「それではアキさん、舞台に向かいましょう」
「はい」
係員の案内で表情を引き締めた秋は静かな足取りで入場していく。
そんな秋の心は落ち着いていた。
さきほど大輝の戦いを見ていたが、彼の戦いには成長が見られた。戦い方も、相手に何もさせずに勝利をおさめる力量も。
「――でも私も負けない」
秋は前衛職を大輝と二人で担っている。そこで力の差が明確に生まれてしまっては、大輝が暴走した時に止められる者がいなくなってしまう。
「……違うわね、そんなのは建前だわ。大輝に負けたくない。それが本音だわ」
かっこつけていた自分に対して思わずこぼれた笑みと先導する係員には聞こえない程度の小さな呟き。しかし、それはこれから戦いに赴く自分の気持ちをはっきりとさせる効果を持っていた。
薄暗い通路を抜けると外の光が秋の目に入り、眩しさに一瞬だけ目を細める。熱い試合に対する期待で観客席からは大きな歓声があがっていた。
「第四試合、両選手の入場が完了しました。これより、審判によるルール説明が二人へと行われます」
場内アナウンスが歓声に包まれている場内に高らかに響き渡る。
大輝の時と同様の説明が審判によって行われた。
試合前の独特の気持ちよい緊張感を身に感じながら秋はその声がどこか遠くから聞こえるような、しかし内容は理解しているという不思議な状態だった。
「――両者ともよろしいですか?」
審判からの確認の言葉で現実に引き戻された秋は黙って頷き、対戦相手は返事を返す。
「……了解だ」
秋の相手は、大輝と同じC組を勝ち上がった男だった。新調した剣を背に持ち、精悍な顔立ちをした彼は相変わらず厳しい表情をして立っている。
「嬢ちゃん、悪いがあのダイキという男とはわしが決勝で戦わせてもらうことにしよう」
低く響くような声で口を開いた男は予選での戦い振りから大輝に興味を示しており、目の前の秋には興味がないといった様子だった。
「それは無理」
ピクリと眉を動かした秋は睨み付けながらそうキッパリ答えると、開始位置へと移動していく。
決して相手の男を弱いと思っているわけではなかったが、最初から秋は負ける気は毛頭なく、更に言えば負けるかもしれないと思えるような相手ではなかった。
予想外の反応に男は一瞬ポカンとしてから、自分が勝てないと言われたことに気づき、厳つい皺を深くして苦虫をかみつぶしたような表情で開始位置へと移動していく。
「決勝トーナメント第四試合、ガバンVSアキ――はじめ!」
ここで秋は初めて対戦相手の名前を知ることになる。
「ふふっ」
そして、思わず笑いがこぼれていた。その笑みは無邪気さや懐かしさを思わせる。
「……何がおかしい!」
ガバンは真剣に戦おうとしていた矢先、突然笑われたことに怒りの声をあげながら、剣を構えて秋に向かって走り出していた。
「ごめんなさい、昔絵を描く時に画板を使ったなって思い出しちゃったの」
穏やかな表情で思い出したことを話しつつ、リラックスした雰囲気の秋は剣を構えていた。
「そんな細い剣など!」
秋の持つ細剣を鼻で笑いながら、男は自身の勝利を確信する。予選で相手の剣を破壊したように、ガバンは秋の剣も打ち砕こうとしていた。
「うん、隙が無くて力強くて強そうな剣ね!」
口角を少し上げた秋はガバンの剣技を評してそう言うが、それでも自分の力が上であると自負しているからこそ言える言葉であった。
「……その言葉、額面通りには受け取れんな!」
剣を振り下ろしたガバン。その一撃は鋭く豪胆で気合に満ちたものだった。観客のほとんどがこの一撃で決着がつくであろうと思うほど強力な攻撃だった。
「そうね、でもそう思っているのは本当よ!」
襲い来る攻撃をしっかりと見据えた秋は自らの剣に魔法を纏わせて、振り下ろしてきた剣を目がけて下から斬り上げる。
双方の剣が激しくぶつかり、大きな音が会場に響き渡る。
「――ぐっ、やりおる!」
一斉に身を乗り出した観客たちの目に映ったのは、ガバンの剣は秋によって弾かれ、身体が起き上がってしまっている光景だった。飛ばされた剣は回転したのち、少し離れた床に突き刺さる。
「っ……強いわね!」
しかし、秋もその隙を撃つことができず相手の攻撃を受けた手には痺れを感じている。
バックステップで二人は距離をとって、それぞれ体勢を立て直していた。
「……わしの一撃を防ぐどころか、弾いて動きを止めるとはな」
秋のことを所詮女剣士と舐めていたガバンだったが、その考えを改めることにする。その実力に感心したような眼差しで秋を見ていた。
「あなたもね。――でも、やっぱり私には勝てないわよ」
今度の秋の言葉に対してはガバンは怒ることなく、落ち着いて聞いていた。秋の実力を見た上ではその言葉があながちただの挑発ではないと考えていた。
「……大輝はあっさりと勝って見せたわけだし、私も時間をかけるわけにはいかないわね」
秋は相手が誰であれ、接戦の末の辛勝では大輝に対して示しがつかないと思っていた。大輝に対する対抗心ではあったが、力を見せるのは大事だという考えは間違っていなかった。
「勇者が舐められるわけにはいかないわよね。――いくわよ!」
気合を漲らせた秋は再度剣に魔力を流していく。先ほどよりも幾分力の込められたその剣を右手に持ってガバンへと向かって行く。初撃とは異なり、今度はガバンが受けに回る番となる。
「先ほどの一撃は確かに強力だった。しかし、わかっていればどうということもない!」
武器を失っても厳めしい表情を崩すことなく、ガバンは腰を落としてゆったりと構える。彼は魔法をうまく使うことができず、剣技のみで生きて来た。
しかし、学んでおらずとも自然と魔力を身体にいきわたらせて身体機能を向上する方法を身に着けていた。
それゆえに、守りに回った彼はじっくりと魔力をいきわたらせる時間があり、初撃以上の力で秋の攻撃を迎え撃つ。ガバンの身体はにじみ出るように濃厚な魔力のオーラを纏っていた。
対して彼女の攻撃は先ほどとほぼ同じ力で、今度は片手での攻撃となっていた。その行動に疑問を抱きながらもガバンは力を緩めることはない。
「せええええええいっ!」
気合のこもったかけ声とともに秋の剣がガバンへと振り下ろされる。
「てやあああっ!」
そして、ガバンも気迫のこもった声で拳をふるって秋の攻撃を下から撃ちあげる。身体強化された攻撃は鋭く、秋の手にしていた剣を勢いよく弾き飛ばす。
「……これで、終わりだ!」
そして、がら空きとなった胴へともう片方の拳で攻撃を繰り出してチェックメイト――それがガバンの考えだったが、秋はにやりと笑っていた。彼は何か来る、とハッとしたような表情になるが、時すでに遅し。
「それは、こっちのセリフよ!」
実はさきほど秋は剣の握りをわざと甘くして、次の攻撃の準備をしていた。空いていたはずの彼女の左手に握られているのは短剣。魔力の光を帯びたそれは強い力を秘めていることを表している。
「……魔法剣!?」
魔法だけで剣を作り出すのは多くの魔力を消費してしまう。しかし、魔核が封じられた短剣を媒介にすることで魔力を押さえ、かつ強力な剣を生み出すことに成功していた。
驚きに目を見開くガバンへとその魔法剣が勢いよく振るわれ……。
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