第三百二十九話 エピローグ①
蒼太と本郷の戦いが終わって数年後……。
今、蒼太とディーナとアトラ、そしてエドははるか上空にいた。
「イシュドラ急いでくれ!」
「イシュドラさん、お願いします!」
正確にはイシュドラの背中に乗って飛んでいた。その二人は焦っていた。
『やれやれ、全く二人とも忘れておるとはのう』
呆れるように笑うイシュドラは二人の言葉に応え、全速力で空を移動していた。
『今日の魔物はなかなかに大物だったので、仕方ない』
アトラがフォローを入れるが、急いでいる現状には何も変わらなかった。
「謝るから、急いでくれ! レイラの就任式に遅れてしまう!」
二人が焦っている理由がこれだった。本郷たちとの戦いのあとしばらくはレイラも蒼太たちと一緒に冒険者として過ごしていたのだが、その後竜人族の聖地へ帰り、族長としての教えを祖父であるガインから受けていた。
今ここにいないレイラは蒼太たち能力の高い者と修行をしていたため、竜人族の中でも群を抜いた実力を持つことになった。そのため、ガインはレイラに次代の長を譲ろうと考えていたのだ。前の彼女にとって最大の問題点は精神面だったが、それも蒼太たちとの旅の間に成長が見られており、時期尚早という声もあったが、ガインの決意は固かった。
「ついつい長いことダンジョンに潜ってしまったのが失敗でしたね」
申し訳なさそうな表情をしたディーナは反省していた。ここ数年で二人は冒険者としての依頼をこなす傍らダンジョンハンターとしても活動していた。
「いや、あれは仕方ない。まさか海底にダンジョンがあるなんて思わないだろ。あれは入ってみたくなる」
一方の蒼太はあっけらかんとしており、あまり反省していないようだった。
『面白いアイテムが手に入ったのだから結果としては入ってよかった』
アトラはダンジョン探索の結果に満足している。
『その結果、我がこうやって頑張ることになるのはわかっているのかのう?』
全力で空を飛ぶイシュドラの言葉にはどこか棘があった。それは海底のダンジョンに一緒に行けなかったこともあったようだ。
「うっ、すまん……次の時はお前も誘うことにするよ」
『ふむ、必ずだのう』
蒼太はどこかずれた返事をしたが、それはそれでイシュドラの機嫌を回復させていた。
「見えてきました!」
ディーナの言葉の通り、竜人族の聖地がある雲が見えてきた。
「イシュドラ、俺が障壁を張るからお前はそのまま突っ込んでくれ。ディーナ、内側にもう一枚の障壁を頼む」
「承知しました!」
ディーナは蒼太が障壁を張るのに続いて、内側に二枚目となる障壁を展開していく。万が一を考えて精霊の召喚もしていた。
『いくぞ!!』
イシュドラは掛け声とともに、更に速度をあげて勢いよく雲の中に飛び込んだ。
中は前回と同様に積乱雲になっており、雷が飛び交っている。その雷が蒼太の障壁にぶつかってバリバリと音を立てるが、障壁はそれを完全に防いでいた。
「いけるな」
蒼太の言葉はフラグにはならず、その後も次々に襲いかかる雷を防いでいく。
しかし、これは蒼太だけの功績ではなかった。確かに障壁は強力なものだったが、自然の雷が持つ強力なエネルギーを防ぎ続けるのは難しい。実際、蒼太の障壁も雷を受けるとその部分が一時的に薄くなっていた。
ディーナはその場所に的確に自分の障壁を貼り付けることで補修している。
「イシュドラ、一気に行け!」
『言われずとも!』
圧倒的な速度で進んだため、積乱雲をあっという間に抜け、聖地にもすぐにたどり着くこととなった。
しかし、全力で飛んでいたため速度を落とすのは難しく、そのまま聖地の空中を飛んでいく。
「ディーナ、アトラ、エド飛び降りるぞ!」
蒼太が言葉を発した時には既に三人とも準備を終えており、一緒に飛び降りる。
聖地のどこに降り立つか、などという細かい調整はできず、集落の中央に飛び降りることとなってしまった。
「な、なんじゃ!」
「敵襲か!!」
空からの急な来訪者に対して竜人族は武器を手にとり、物々しい雰囲気になっている。
蒼太たち一行はディーナが呼び出しておいた風の精霊の力で着地の衝撃を和らげていたが、それでも勢いを殺しきれず止まるまでに少々の時間を要していた。軽く土煙が立ち込めたが周囲を確認するのに困ることはなかった。
「ふう、一時はどうなるかと思ったが間に合った、のか?」
見覚えのある集落の中央に竜人族が集まっている様子を見て蒼太はそう判断した。物々しい雰囲気は特に気にした様子はない。
『我々の登場が彼らを混乱させてしまっているようだが……』
アトラの冷静な突っ込みに蒼太は周囲の物々しさに気付き、思わず頬を掻いていた。
「お前たち、どけ、通してくれ!」
人だかりをかき分けてやってきたのは、族長のガインだった。
「おぉ、ガイン。久しぶりだな。騒がせて悪かった、レイラの就任式に間に合わないかと思って全速力でやってきたんだが……」
「お久しぶりです」
二人はガインに挨拶をするが、見える範囲にレイラがいないことに疑問を持っていた。
「お久しぶりじゃな、みなさん。わざわざあの孫のために遠いところをありがとう」
おだやかにガインも挨拶を返すが、二人の視線がさまよっていることに気付く。
「……レイラだが、ここにはおらんのじゃよ」
少し言いづらそうなガインの様子に何かがあったのだと蒼太たちは察する。
「何があった?」
ディーナもアトラもエドも表情を固くして蒼太の質問に対する答えを待つ。
「いや、それが、その」
しかし、ガインの反応はどこか歯切れの悪いものだった。
「レイラはどこに行った? そして、何があった?」
蒼太が更なる追及をするが、ガインの反応は芳しくなかった。
すると、竜人族の人だかりの後方からざわざわと声が聞こえてくる。そちらに目をむけると、自然と中央に道ができていく。
「ん? どこかで見た人たちが……あーー!! ソータさん、ディーナさん、アトランにエド!」
そこにいたのはレイラだった。離れた場所からではあるが、蒼太の目には彼女がピンピンしているように見える。ガインが何を言い淀んでいたのか蒼太たちには一見したかぎりではわからなかった。
「どういうことだ?」
蒼太に聞かれたガインは頭に手をあて、苦い表情をしていた。
「実は……」
話を聞いてみるとなんてことはない、レイラが族長就任前に自分の腕試しに出かけていただけだった。
「あのゴーレムたちを一人で倒しにいったのか」
「えへへー、いやあやっぱり強かったよ。なんとか倒したんだけどね、しばらくあそこで休憩してたから戻ってくるのが遅くなっちゃったよ」
以前、共に倒したゴーレムたちを彼女一人で倒したとのことに、蒼太たちは驚くこととなる。彼女は蒼太たちと離れた後も鍛錬を怠ることはなかったことがわかる。
「しかし、これでお前の心のつかえも取れただろう。レイラ、お前は十分強い。心も彼らと一緒に旅をすることで成長した。お前こそ次代の族長にふさわしい!」
ガインの宣言は周囲にいる竜人族の拍手を引き出す。それは徐々に広がって、集落にいる全員が拍手をしていた。
「うーん、認めてくれるのは嬉しいんだけどね……ソータさん、イシュドラは?」
盛り上がっている周囲と違い、彼女は困った表情のまま蒼太に質問する。
「ん? あぁ、あいつも来てるぞ。速度を出し過ぎて止まれなかったから、どこかで旋回して戻ってくるはずだ」
蒼太の言葉にレイラはにやりと笑い、ガインへと振り返った。
「じいちゃん、じいちゃんってば!」
孫の成長を見届けて感無量といった様子のガインにレイラが大きな声で呼びかける。
「な、なんじゃ急に大きな声を出して」
「あのね、ゴーレムと戦って思ったんだ。まだまだ世界には強いやつがたくさんいるんだって」
レイラが何かを語り始める。その話の本質がどこにあるのかわかっていないため、ガインの表情は困惑している。
「もう、わかんないの? つまりは、こういうことだよ!」
レイラは蒼太とディーナの手を取ると、集落から離れるように走り始めた。
「みんな、行くよ!」
声をかけられたアトラとエドも遅れまいと急いでレイラのあとを追っていく。
「お、おい、どういうことだよ!」
どこへ行くのかわからないまま手を引かれる蒼太の質問にレイラはにかっと笑うだけだった。
そして、蒼太とディーナの体勢が整ってレイラと並走し始めたところで彼女は指笛を吹いた。それは空に響き渡った。
『やれやれ、ソータたちといい、レイラといい、みんな竜使いが荒いのう』
それに反応してイシュドラが低空飛行でやってきた。
「みんな、飛び乗るよ!」
レイラの指示に従って、一斉にイシュドラの背中に飛びのった。そのままばさりと大きく羽ばたいたイシュドラは飛び立った。
「みんな、じゃーねー! あたしはまだ族長にはならないよ! ソータさんたちとまた旅にでるんだからね!!」
それがレイラの竜人族に対する別れの言葉だった。追いかけてきたガインをはじめとする竜人族をしり目に聖地からどんどん離れていく。
「おい、いつからだ?」
蒼太の問いはレイラに向けたものではなく、イシュドラに向けたものだった。
『い、いや、その、のう? 前にレイラをここに送ってきた時に、こういった事態を想定して、のう?』
今度はイシュドラが歯切れが悪くなる番だった。彼はレイラがこうすることをあらかじめ知っていたようだ。
「もう、仕方ないですねえ」
もうすっかり竜人族の聖地から離れてしまったことで吹っ切れたのかディーナは呆れているような口調だったが、その表情は笑顔だった。
「えへへ、ねえいいでしょ? またあたしも一緒に連れて行って下さい!」
「ふう、全くお前ってやつは……次は火山地帯のダンジョンに行く予定なんだが、来るか?」
「うん!」
一つため息をついたあとの蒼太の言葉にレイラは満面の笑みになった。彼女は決して族長になることが嫌なのではなく、ただその前にもう一度自由に旅がしたかったのだ。
また全員が揃っての冒険が始まる。
そんな時に蒼太がふと思い出したのは、同郷である本郷たちのことだった。彼らは小人族の生活のために尽力しているのは話に聞いていたが、その後どうなったのか。
それは、また別の物語……。
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