第三百一話
前回のあらすじを三行で
攻撃を防ぐボーガ
大剣を振り回すボーガ
レイラ、本気の投擲
「ぬおおおおおお」
それでもボーガはいまだグニルの攻撃をなんとか抑え込もうとしていた。足を踏ん張り、腰を落としてその威力を受け止めようと必死だった。
「これも、くらえええええええ!!」
だがレイラは次の一投、紅王投擲の態勢に入っている。手の中にある紅王は彼女が込めた力によって真紅のオーラを纏っていた。
投げ放たれたそれは、鋭い赤い矢となってボーガへと飛んでいく。
「もう、一本!?」
驚いたボーガだが、次の瞬間更に驚くことになる。
威力を抑え込みつつあった一本目の槍が次に飛んできた槍の柄にあたり、後ろから最初の槍を押すことで更に鎧に押し込まれていく。
「ぐぎぎぎぎぎぎ!」
グニルの攻撃ですら受け止めるので精いっぱいだったのに、さらに追い打ちをかけるように追撃され、この攻撃が早く終わってくれればいい。彼の頭をそれだけが占めていた。
紅王は回転しており、その穂先から伝わった回転がグニルをも回転させ、鎧にめり込んでいく。
「ぐが、これは、がはあ!」
それをも抑え込もうとするボーガだったが、徐々にめり込む穂先に焦りを隠せなかった。
一方のレイラはそれをただ眺めているだけには終わらない。これを逃さないと言わんばかりに次の攻撃へと頭を切り替えた。
「そりゃ防ぐよね。鉄壁だもん、でもこれならどうかな」
ぐっと力をため込むように構えたレイラの身体は竜力に包まれている。
「いくよ! ぐるあああああああああああああああ!!」
鱗に覆われた真っ赤な身体が次第に青いオーラに包まれ、全身を包むと咆哮をあげた。
咆哮と共に周囲にはレイラを中心に竜力の波動が広がっていく。
以前、蒼太に見せてもらった龍魔法はドラゴニックロア。これは竜力を体内で凝縮して口から放つ魔法だったが、今レイラが使おうとしているのはそれとは異なり、体中に竜力を巡らせて自身を強化するというものだった。
「ぐおおおおおおお!」
声はいつものレイラのものではなく、竜のそれであった。
「なっ!」
何とか槍を抑え込もうとしているボーガは、あまりの槍の力に防ぎきれないかもしれないと考えていた。その彼が周囲の空気が変わったことに気付き、槍から一瞬レイラへと視線を移すとその異様さに言葉を失う。
そして、そのレイラが雄たけびをあげならが自分へと向かってくる。
「あ、駄目だ」
そう彼が絶望のまま呟いた時には迫ってきたレイラが槍を押し込もうとするところだった。
「ぐらああああああ!」
レイラが紅王を押し込み、それがグニルを押し込み、ついに鉄壁と言われた鎧に亀裂が入る。
「鎧が!」
亀裂を中心にヒビが入り、ついにはバラバラに割れていく。そして、槍はそのまま突き抜けるようにボーガの肉体を貫こうとまっすぐに進んでいく。
「える、だーど様……」
敗北を認識した彼が諦めからそっと目を閉じた。そのまま呟かれたそれが彼がこの世のでの最後の言葉になった。かと思われたが、それは現実のものにはならなかった。
「もう、何でこれで死ぬみたいな空気出してるんだよ!」
ボーガを貫くと思われたグニルと紅王は、いつの間にか元の竜人族の姿に戻ったレイラの手の中におさまっていた。
「えっ? あれ? なんで?」
なんで無事なのか。なんで槍が何事もなくレイラの手の中にあるのか。なんでレイラが元の状態に戻っているのか。その三つすべてを意味する『なんで』だった。
「あたしは、元々あなたと戦う気はあったけど殺すつもりはないよ。目的が違うもん」
レイラの言葉は当然でしょ? といった意味を含んでいる。
「だ、だが俺たちはお前たちと敵対しているんだから」
「敵対してるからってイコール殺すって短絡的すぎないかな?」
短絡的すぎる。この言葉をレイラに言われるボーガのことを蒼太が見たならばきっと憐みの視線を送ったであろう。
「た、短絡的、か」
自分でも思い当たることがあるため、ボーガは自嘲気味に呟いた。
「そもそも、あたしたちの目的はあの将軍さんだっけ? のところまでソータさんがたどり着くことなんだから、ぶっちゃけた話、あたしたちの戦いの勝敗なんてどっちでもいいんだよ。ただ……」
それは本当のことではあったが、レイラも戦いに際して含むところがあったようだ。
「ただ?」
「ただ、あたしはあなたに負けたくないって強く思った。だから、勝ちたいと思った。最強の防御、鉄壁を突破したいって思ったんだ。そして、その鉄壁を突破することに成功した。だから満足!」
すっきりとした笑顔でいうレイラにボーガの肩の力は完全に抜けていた。
「満足か。最初から俺たちの戦う目的が違ったのか……ははっ、それじゃあこれで終わりになるのも納得か。はははっ」
レイラのあっけらかんとした態度にボーガは思わずおかしくなったのか笑いがこみあげてきた。
「もう、なんだよ! 笑うなんて失礼じゃないか!」
レイラは頬を膨らませて怒っていたが、その様子もボーガは面白く、しばらくの間彼から笑いが止まることはなかった。
最上階
「……負けたか」
先ほどまでの余裕ぶりはどこへ行ったのか、本郷は睨み付けるようにその映像を見ていた。
「なかなか悪くない戦いだったな」
反対に蒼太は満足そうに画面を見ている。レイラが負けることなど微塵も疑っていなかったが、蒼太の想像以上の結果を彼女は出してくれたからだ。
「お前の仲間はなかなか強いようだな」
苛立ちながら本郷は蒼太に視線を移す。
「まあ、あいつは元々は俺たちの中でもわりと下のほうだったんだがな……なかなか成長したものだ」
「そうですね、今だったらもしかしたら私のほうが負けてしまうかもしれません」
そう言ったディーナだったが、表情は嬉しそうな笑顔だった。それは自分が負けることよりも、レイラが成長したことを嬉しく思っているがゆえだった。
「初めて会ったときは、そこらのやつらと大差なかったんだけどなあ。まさかここまで化けるとは」
「ふふっ、思ってもみなかったですか?」
ディーナは含みを持たせながら蒼太に質問する。
「いや、思ってたさ。元々レジナードの家系で、俺たちが修行をつけてやって、あの装備を用意してやったんだ負けるわけがないだろ? そもそもあいつは最後まで竜力をうまく操れなかったから竜力を操りやすくする細工を防具につけてやったんだからな」
ここで明かされる新事実。彼女が身に着けていた装備は蒼太のアイデアでその能力を付与していたのだ。それをうまく使いこなせるか否かは彼女の実力にかかっていたが、結果はうまくいっていた。
「それだからなのか、すごく竜化がスムーズだと思いました。そのあとの身体強化の竜魔法もとても自然に使えてましたからねえ」
レイラについて蒼太とディーナは盛り上がっていたが、それは本郷を更にイライラさせていた。
「おい、盛り上がっているところ悪いが、次の戦いを見るぞ。お前のとこの古龍とうちの黒古龍。果たして、どちらが強いかな?」
黒古龍の実力に自信のあった本郷はイライラをなんとか抑え込み、最後には笑みを浮かべていた。
お読み頂きありがとうございます。
誤字脱字等の報告頂ける場合は、活動報告にお願いします。
ブクマ・評価ポイントありがとうございます。




