第二百七十六話
前回のあらすじを三行で
案内してくれるドワーフの女の子
森の中の宿屋?
201号室と202号室
蒼太たちは部屋に戻り各自着替えをしてから、一階のロビーに集まる。
ロビーには受付がある以外に、待ち合わせできるようにテーブルとイスがいくつも用意されている。蒼太が今までに泊まったことのある宿屋の中でも広い部類に入るロビーであった。
「なかなかこないな……」
蒼太は先に着替えが終わっており、そのロビーで獣魔二人と共に待っていた。
『女性は色々と準備があるのかと』
アトラが二人のためにフォローをいれる。
『そういうことだのう、何やら二人は色々と用意しているようだったからのう』
楽し気な口調の古龍も何か知っているようだった。
「まあ、仕方ない。こっちは待つしかないからな、時間はまだある。はずだ……慌てることもないだろ」
人目がある以上、アトラと古龍は念話で蒼太と話しているため、端から見れば彼が独り言を言っているように見えた。
そのため、ロビーを行き交う人々や受付にいる者たちは不思議そうな視線を送っていた。女将も同様に内心では不思議なものを見る気持ちだったが、さすがプロというだけあり、そっと視界に捉えるだけに留めて不必要な視線を送ることはしなかった。
蒼太が二人と話をしながら待っていると、どよめきが起こった。
「ん? なんだ?」
蒼太があたりを見回すと、ちょうどディーナとレイラが降りてくるところだった。
「お、おい、すげーぞ!」
「レベルたけー!」
ロビーには蒼太以外にも待ち合わせや休憩をしている者がおり、階段の先をチラチラ見ながら噂話を始めている。
「おぉ!!」
ひと際大きな歓声があがったのは、二人が蒼太のもとへたどり着いた時だった。
「お待たせしました」
「ソータさんお待たせー、んっと……変、じゃないかな?」
二人の服装はいつもと違うものだった。ディーナはいつもと同じようなワンピースタイプの服装であったが、薄い青をベースとしたカラーのもので、レイラはピンクをベースとしたワンピースを着ていた。
「おぉ……」
蒼太は二人の、特にレイラの変貌ぶりに驚いていたため、そこで言葉が止まる。
「わー、やっぱ変なんだ! 戻って着替えてくるー!」
着慣れない服装のため、恥ずかしさをこらえてきていた。それなのに蒼太の反応が芳しくないように見えたため恥ずかしさに顔を両手で押さえながらUターンして戻ろうとする、がそれをディーナに止められた。
本来であれば竜人族のレイラのほうが力が強いはずだったが、ディーナのそれは抗えない謎の力強さを持っていた。
「落ち着いて下さい、ソータさんは驚いているだけですよ。ね、ソータさん」
柔らかな笑みを浮かべたディーナに話を振られて蒼太は驚きから立ち直った。
「あ、あぁ、驚いた。見違えたよ……二人とも良く似合ってる」
以前に蒼太と別れて行動している間に買った服だったが、それをいつ着るか機会をずっとうかがっており、ディーナは今回の散策をその機会だと決めてレイラも着替えさせていた。
女性らしい服装であり、華美にならない程度にアクセサリを身に着けているのがいいアクセントになっていた。
「ありがとうございます、ほらレイラもこっちに来て下さい」
「あ、ありがとう……うーん、やっぱ恥ずかしい!」
竜人族の聖地にいた頃から、男に交じって戦いの練習や島の探索に明け暮れていたため、こんな女性らしさを前面に出した格好をするのは初めてだった。
ディーナは彼女の素材の良さを感じとっていたため、着せ替え人形のごとく今回の服を着てもらうことにした。偽装の腕輪を装備してはいるものの、本来の身長などはそのままでありすらーっとしたモデル体型だったため女性らしい服装が映えていた。
「ディーナもいつもと違うイメージの色もいいな。似合ってるよ」
レイラのことでしてやったりといった様子のディーナだったが、ここで不意打ちで蒼太に褒められたため、思わず顔を赤くしていた。
「あ、ありがとうございます」
なんとかそう返すが、すぐに顔をそらしてしまう。
「さて、全員揃ったところで行ってみるか。みんな、はぐれないように……といっても人が多いからな、はぐれそうになったらアトラか古龍がついてやってくれ」
その言葉は主にレイラがはぐれるであろうことを予想していた。
「あと、みんなにこれを渡しておこう。これは位置確認のアイテムだ」
蒼太が取り出したのは一見変哲もない指輪だった。小指につける俗にいうピンキーリングというものである。
「指にはめれば自動でサイズ調整してくれるはずだ、これがあれば設定した指輪の相手の位置がおおよそだがわかるようになる。これがあればはぐれてもなんとかなるだろ」
アトラと古龍は指輪をつけるのが難しいため、蒼太とディーナとレイラの三人が指輪を身に着ける。
「そしたら、魔力を流して他の指輪の場所を探るように念じてくれ」
蒼太に言われてためしに魔力を送ってみると、他の指輪がある方向が思念として自分の中に入って来るのがわかった。
「ふえー、蒼太さんはなんでももってるんだねえ。すごい!」
素直に褒めるレイラに蒼太は少し戸惑う。
「いや、まあ昔仲間と作ったやつだ。あんまり離れすぎると使えないのと、指輪を外すとその位置を探ることができなくなるから気を付けてくれ」
みんなが頷いたのを確認すると、早速出発する。
街中はこれから祭りでもあるのかというほど混雑していた。馬車が余裕で通れるくらいの広い街路も今は人でごった返している。これだけたくさんの人がいれば彼女らの眩しいほどの魅力も人ごみに紛れるらしく、先ほど宿屋のロビーのようにチラチラと見られることもなかった。
「すごいな、まるで東京みたいだな」
蒼太がイメージしていたのは東京の、それも人の行き来が多い駅だった。
「あっ、前に言っていたところですね。ソータさんがいた国の首都にあたるところだとかって……それほどまでにここは人が多いんですね。ここにいる人々の表情に活気があるところを見ると、生活が苦しいということもないんでしょうね」
本で読んでいた以上の盛況ぶりに蒼太とディーナも改めて驚いていた。
レイラはというと、既にはぐれそうな勢いで露店を眺めるために移動していた。
「すごいすごい!」
語彙力が突然なくなり、それしか言えなくなっていた。そのままうろうろと露店の美味しそうな匂いにつられ、人の流れに紛れて蒼太たちから離れていった。
「アトラ、頼む」
『承知した』
心得たもので、頼まれる前から既にアトラはレイラのもとへと向かっていた。その背中にはアトラたちについて行った方が美味しいものが食べられるであろうと見当をつけ、周りを楽しげに見まわしている古龍が乗っていた。
お読み頂きありがとうございます。
誤字脱字等の報告頂ける場合は、活動報告にお願いします。
ブクマ・評価ポイントありがとうございます。




