第二百六十七話
前回のあらすじを三行で
蒼太ジャンプ
怪しむ小人族
族長の集落を紹介してくれ
蒼太は無言で小人族の彼の回答を待つ。彼も無言で思案しており、他の小人族もその結果が出るのをそわそわと待っていた。
「ソータさーん!」
無言のまま向かいあう二人のところへと、蒼太の仲間たちがやってくる。近くで地上に降りてそこから移動してきたようだった。
「みんな、来たのか」
蒼太はちらりと仲間の姿を確認してそれだけ言うと、再び視線を小人族の男へと戻す。
「これは一体どういう状況なんですか?」
何かを待っている様子でその場にいた小人族や蒼太が立っている現状に質問したのはディーナだった。
「あぁ、族長のいる集落が今は移動しているらしいんだが、それを教えてくれないかと彼に頼んだ結果今のこう着状態ができあがっている。俺への恩と一族に対する危険要因の排除の間で板挟みってところだな」
自分の思案していたことを的確に蒼太に言いあてられた小人族の男はより一層険しい顔になっていた。
『男よ、ソータ殿は小人族の救いの主であり、彼のおかげでトゥーラにたどり着いた集落の者たちは救われている。そのことを肝に銘じたうえで答えを出すと良い』
そう声をかけたのはアトラであった。彼は小人族にとって守り神とも呼べる存在であり、その言葉は小人族の心を動かすのに十分な力を持っている。
「……わかりました。アトラ様までがそうおっしゃるのであれば、私の責任でお教えしましょう」
男は背中に背負ったカバンから一枚の地図を取り出すと、族長のいる集落の場所を指し示す。
「助かるよ……安心しろ、悪い結果にはならないはずだから」
男の表情に影がさしていたため蒼太が笑顔でそう言って、肩を一度ポンッとたたいた。それはなぜか男の心を落ち着かせるものであり、彼らなら何とかしてくれる。そう思わせる何かを感じ取っていた。
「た、頼みます! 族長たちのこと、お願いします!」
それは自然と出た言葉だったため、男は言い終えたあと驚きで慌てて口に手をあてる。
「任せろ」
蒼太はシンプルにそう返した。それだけで十分だった。小人族の男たちはそれを聞いて一礼すると、それ以上は何も言わず自分たちの任務に戻り、馬を走らせて去っていった。
「さあ、俺たちも行かないとな」
地図を片手に蒼太は教えられた集落の方向を見据え、そうつぶやいた。
教えられた集落の場所は離れていたため、再度古龍に乗って向かった。途中で地上に降り、徒歩で集落にたどり着くと情報の通りそこには集落があった。
入り口にいた兵士は蒼太たちのことを覚えており、即座に族長のもとへと案内された。
「おぉ、ソータ殿。よくぞ参られた、竜人族には会えましたかの?」
「おかげでな、それより状況はどうなっている? 俺が拠点にしている街にも帝国に追われた集落のやつらが逃げて来ていたし、ここに来る途中、この集落からやってきたらしい小人族の一団に会った。そいつらにこの場所を聞いたんだが」
恩人である蒼太を出迎えた時はほがらかな顔だったがその話を聞いた族長は険しい顔になる。
「……もう知っておるのですな。以前から帝国の者たちが攻めこんでくることはあったのですが、ここ最近になってそれが激しくなってきたのです。まだいくつかの集落が襲われただけですので、まだいまのところには転々と場所を移すように話しています。うちも何度か移動した結果、今はここに落ち着いています」
族長の家にたどり着くまでに見かけた家の中にはまだ作りかけのものもチラホラみかけられた。
「なるほどな、急に動き始めたのに何か心当たりはあるのか?」
蒼太の質問に族長はしばし考え込む、がすぐに首を横に振った。
「いえ、わかりません。時期でいえばソータさんたちを見送ってしばらくしてからになるのですが……」
「もしかしたら、それかもしれないな」
蒼太の表情は厳しく、何かを睨み付けるかのようだった。
「それ、とは?」
聞いたのはディーナだった。レイラは話題が重いため話には入らずにおとなしく出されたお茶を飲み、ディーナに出してもらったお菓子を食べていた。
「俺たちが会ったやつらのことを覚えているか? フードのやつと、鎧のやつ、あともう一人いたか」
「覚えています。なかなかの手練れでしたね……そういうことですか、彼らに我々の存在が知られたのが要因、ということですね」
彼と同じ考えに至ったディーナは蒼太の言いたいことを察して答えを返した。
「可能性はある。俺たちを狙ってというわけじゃないとは思うが、興味を示したというのはあるだろう。そして、小人族を狙っていけば本来の目的を達成できる上に、用心棒をしているかもしれない俺たちにもたどり着くといったところだろうな」
この蒼太の予想は的中しており、ここに帝国の者がいたらその通りと言っていたであろう。
「なんとそんなことが……」
族長は驚きを隠せず、ぼそりとそう呟いた。
「すまない、俺たちがうかつにあいつらを撃退したばかりに」
いくら助けようと善意で動いたとはいえ、結果的に良くない方向に事態が動いてしまっていることに申し訳なさを感じた蒼太は頭を下げるが、族長はとんでもないと大きく横に首を振る。
「いえいえ、みなさんがあそこで戦っていなければあの時にわしらは全滅していたでしょう。感謝こそすれ、それを責めるなどというのはお門違いです。それは村人たちもわかっているはずですじゃ」
その言葉に蒼太たちは救われ、ほっとしていた。
「しかし、やつらの勢いは増しているようだな……斥候を色々な場所に放っているのかもしれないな」
『ソータ殿!』
急に声をあげたのはアトラだった。その瞬間空気がピンと張り詰め、蒼太はその呼びかけに頷く。
「いくぞ!」
周囲を取り巻く空気の変化に気付いていたレイラとディーナ、それに古龍も既に外に向かう準備を終えていた。
「い、一体どうしたのですじゃ?」
「敵が来たぞ! お前たちは逃げる準備を始めろ!!」
蒼太はそう大きく声をかけたあと家を飛び出し、途中途中で村人たちに同じように呼び掛けていく。
そして村人たちがいなくなった集落の外に出ると、それぞれがある程度の距離をとって戦いにむけて身構える。
『それほど多くないようだな……斥候部隊か?』
すっと目を細めながらアトラは気配を感じ取り、そこからそう判断する。
「おそらくな、とりあえず集落には一体たりとも入れるなよ。前衛は俺とアトラとレイラで受け持つ、それを抜け出たのを古龍に頼む。さらにうち漏らしたやつらは」
既に見晴らしのいい位置に配置しているディーナが静かに弓を構えていた。
武器を構える音と共にこうして戦いの準備は終わった。
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