第二百五十七話
前回のあらすじを三行で
どこに行けばいいんだろ?
ホーンラビット四散
お手本を見せよう
「むぅ……」
レイラは納得していない顔だったが、これまでの自分の失敗を考えてアトラの進言通りお手本を見せてもらうことにした。
『まず、レイラ殿は敵を倒そうとして失敗している。本来ならその力調整をできるのが一番だが、それが難しいのであれば何も無理に倒す必要はない』
アトラはそう言うとホーンラビットの気配を探り、発見した一番手前のそれに襲い掛かる。
「やった!」
声をあげたのはレイラだった。
アトラの攻撃では、レイラと同様に一撃で倒してしまう。そう思っていたが、アトラは攻撃を与えずに、動きを封じると、口でくわえレイラたちのもとへと運んだ。
『わかってもらえたか?』
どさりとレイラの足元に動きを封じられた際に気絶した魔物を下ろしてからアトラは質問を投げかける。
「う、うん。力が調整しきれないのであれば、別の方法を考えろってことだね」
レイラの答えにアトラはと古龍は深く頷いた。
『力のコントロールはすぐにどうこうできる問題ではない。これは自分の力を正確に判断していればわかること。で、あるならば』
「倒さずに依頼を達成する方法を考える、と」
アトラの言葉の続きをレイラが口にした。
「うん……そうだね。それなら今のあたしでもできるかもしれない」
レイラは手にしていたグニルを鞄の中にしまうと、素手のまま構えをとる。アトラと古龍はその姿を見て、レイラから距離をとった。
目を閉じて周囲にいるホーンラビットの気配を探っていく。今回の依頼で必要なのはホーンラビットの角が十本。レイラが気配を探った数も同じく十体。それが完了すると、目を開いて動き出す。
「いくよ」
ホーンラビットからすれば風が通り抜けたのではないかと感じたであろうレイラの動きはまさに風のごとく、素早い動きでホーンラビットに近づくと角に手をかけ、根元を手刀で斬りおとす。手に入れた角は取ったそばからすぐにマジックバッグへと格納する。それを都合十度繰り返した。
角を斬られたホーンラビットたちは、しばらくの間自分の角がないことに気づいていない様子だった。それほどにレイラの動きは素早く、また無駄に衝撃を与えず一瞬でことを終えていた。
「ふぅ、これでいいかな? えっと、いち、に、さん……」
レイラはマジックバッグに入れたホーンラビットの角を数えていく。
『自分のやれることを見つけてからの判断と動きが早かったのう』
『さすがレイラ殿。動き方さえわかれば能力は一級品だ』
手際よく済ませるその様子を見て古龍とアトラが感心していた。訓練の成果もあり、ただやみくもに動くのではなく、考えて行動するという切り替えが上手くなっていた。
「なんか一本すごく大きいのがあるけど……何とか依頼達成だね。受付のお姉さんが見せてくれた資料に、折れた角は時間が経てば復活するってあったからあの子たちもきっと生きていけるはずだね。殺しちゃった子たちには申し訳ないことをしたけど……うん、考えても仕方ないね。もどろっか」
無駄にその命を奪ってしまったホーンラビットたちへ心の中で謝罪をし、装備を解除すると平野をあとにした。
ギルドに戻って報告をすると、受付嬢から帰って来た返答は予想外のものだった。
「えっ? これじゃダメ?」
「い、いえ、ダメといいますか。この大きい一本はホーンラビットの角ではなくてですね、その、グレートラビットの角なんです。こちらのほうが稀少で買取価格も高いのですが、あの、今回の依頼はホーンラビットの角十本なわけでして……」
受付嬢は申し訳なさそうな表情で、レイラの納品アイテムについて指摘した。
「あー! やっぱりダメだったかあ。一つやけに大きいなあとは思ったんだけど……」
肩を落とすレイラの足をアトラがつんつんと押す。
「ん? なあに?」
レイラが視線をアトラに向けると、その口にはホーンラビットの角がくわえられていた。
「あっ! こ、これいいの?」
それを受け取ったレイラが尋ねるとアトラはこくんと頷いていた。それはお手本を見せた際にアトラが確保しておいたホーンラビットの角だった。順調に角を集めていたレイラに一抹の不安を覚え、念のためとその角を持ってきていたアトラのファインプレーであった。
「お姉さん、これでお願いします! あとこっちのおっきいやつも買取してもらってもいいですか?」
「あ、はい! これなら大丈夫です。依頼達成お疲れ様でした! 買取の件も承知しました。計算しますので、少々お待ち下さい」
アトラの一本を加えた十本で依頼の完遂を受付嬢が宣言し、そのまま魔物買取カウンターに行き計算を行う。しばらくすると彼女が戻ってきた。
「それではギルドカードを……はい、ありがとうございます。それでは、こちらが報酬と買取金になりますのでご確認下さい」
それを受け取ると、思っていた以上の金額が手元に来たためにレイラは驚いていた。
「あ、あの、これ間違いじゃなく?」
受け取った金額から、依頼の報酬を引くと角の値段が算出される。当たり前のことだったが、その多さに目を丸くする。
「はい、傷もなく良品でしたので少し色をつけさせて頂きました。正当な価格なので、気にせずお受け取り下さい」
受付嬢はそんなレイラの反応を微笑ましく思い、笑顔で対応する。それに安心したレイラはもらっていいんだ! とやや興奮気味でその報酬を受け取り、それを鞄の中にすぐにしまった。
これは蒼太に言われたことで、金が原因でトラブルになることが多いため報酬などはすぐにカバンにしまうように、との指示だった。
「お姉さん、ありがとうございました」
「いえ、またご利用下さい」
受付嬢は、しっかりと礼を言えるレイラにまた好感を抱き、笑顔で頭を下げるとそう言った。ここを利用する者は全体的に男性が多く、少数の女性もいるがどこかすれている者が多いため、レイラの初々しさや礼儀正しさは受付嬢にとって新鮮で眩しいものであった。
「はい、お姉さんも頑張ってください! それじゃ!」
満面の明るい笑顔で言った最後のレイラの言葉で受付嬢の心はガッチリと掴まれていた。
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