想いは呪いに変換される
これまで司を中心に描いてきた『踊る星』シリーズの過去編ですが、ここからは少し視点を変えます。
本作は、異世界「翼の城」で健吾と共に過ごした少女・瑠璃の物語。
『男性Vtuber四人の担当になったが、全員普通ではなかった話』へとつながる、健吾と瑠璃の過去編です。
第1話は瑠璃視点で始まり、物語の途中から司視点へと移ります。
魔女は言った。
「あなたの大事な人を守る手伝いをしましょうか?」
そのとき、私は一人で野バラの庭で留守番をしていた。健吾さんも、私の相棒、ごまだんごも出かけてる。健吾さんは信頼できる人と一緒だから、きっと安全。私は普通にお留守番していればいいだけ。
そう思っていたのだけど、魔女がやって来た。私は野バラの茂みの中に隠れてやりすごそうとしたのだけど、魔女の足音がこちらに向かってきて茂みの前で止まった。
「いるんでしょう、うさぎさん。私はあなたと話をしに来たの。私が、あなたの大事な人を守る手伝いをしましょうか?風の王子、私の弟の身代わりの王子を守る手伝いを」
私は息を呑む。健吾さんのことを言っているんだ。この城で、健吾さんは風の王子と呼ばれている。女王の本当の息子の代わりにこの城に来た存在で、強大な風の力を使うから。
私はどきどきした。駄目、絶対に応えたら駄目。
魔女は続けて言った。
「私は彼の味方。私の弟の代わりに来た子ですもの。彼に死なれては困るの。だから私と話をしましょう?」
私はまだ黙って様子を見る。この魔女は健吾さんの敵ではないらしい。ということは、二番目の魔女ではないんだ。あの人なら、健吾さんを見るなり、殺すとかそういう怖いことを言うだろうから。
魔女はまだ帰らない。
「私が今日ここに来たのは、あなたに彼を助ける方法を授けるため。それがないと、彼は死んでしまうとの卦が出たから。あなたが今ここで決断しないと、大変なことになるわ」
私は思わず野バラの茂みから顔を出した。目の前に魔女がひざまづいていた。波打つ金色の髪をとうもろこしのひげ糸のように頭の上で結っている。綺麗だけど少し不思議な感じがする、これは四番目の魔女だ。
呪いを得意とする魔女。
私は茂みの中に引っ込みたかったけど、それよりも話がききたかった。
「卦、って、占いっていうことですか」
「ええ。私の姪で、占いだけは絶対に外さないというのがいるの。その子が読んだの。風の王子はこのままだと死んでしまうと」
私は思ったことを口にした。
「女王の不死の魔法があるのに?」
「そう。不死の魔法が及ばない場所で。あるいは、不死の魔法を上回る驚異のために、彼は三回死にかける。でも、あなたが私の言う条件を呑めば、彼を助けるための祝福を私が掛けてあげることができる」
「祝福?でも、あなたの力って」
「そう。私は、呪いを得意とする。でも、呪いは祝福でもあるし、祝福は呪いでもある。私が使うから、それを呪いと呼ぶ者もいる。私にとってはどうでもいいことだけれど。肝心なのは、私の力は誰かに請われて初めて使えるということ」
「……どうしてですか」
私は訊いた。
「どうして健吾さんを、ううん、私を助けてくれるんですか」
「言ったでしょう、私は風の王子を助けたいのだと。彼が無事に元の世界に戻らないと、私の弟は送り込まれたその世界を出ることができない。そして、あなたに声を掛けたのは、あなたにしかできないことだから」
結局は弟を助けるために、私に力を貸す、ということらしい。
魔女は言った。
「彼が必要な祝福を受けるために、あなたは三つのモノを差し出さなければならない。それが代償。それが対価」
「それを受け入れたら、健吾さんは助かるんですか」
「ええ。彼は死なずに元の世界に戻れる。それがなければ、彼は一つ目の危機を乗り越えることもできずに死んでしまう。そしてその時は近づいている」
「受け入れます」
私はすぐに言った。と、声が上から降ってきた。
「駄目ですよ、何考えてるんですか!魔女と取引だなんて!」
声から少し遅れて、白黒の八割れ猫が上から魔女めがけて落ちてきた。ごまだんごだ。こっちの世界に来てできた私の相棒。
魔女はごまだんごをよけて後ろに跳んだ。そうしながら言う。
「約定は成立した。風の王子を助けるために、私はその者に力を貸す」
「成立してませんよ。あなたは条件を言っていないじゃないですか。それで約束が成立するとか、誤魔化しでしょ!」
魔女は少しばかり眉をひそめながら、
「確かに、そのうさぎが差し出すことになるものを当人は知っておかないとならない。私に差し出すものの価値を当事者自身がわかっていないと、祝福の力は得られない」
「やっぱりそれって呪いなんじゃないですか!」
ごまだんごが声を張り上げて言う。ごまだんごはいつも飄々としているから、こんな風に怒っているのは珍しい。
魔女は淡々と、
「私の出す条件をきいた上で、判断して。この取引を受け入れるか。納得した上で受け入れないと、効果は得られない」
私はごまだんごを見た。ごまだんごは心配そうな表情で私を見る。
うん、わかった。これは本当に呪いなんだ。ごまだんごは私と同じ世界から来たんだけど、どうしてかそういうのに詳しいのよね。
「教えてください。私は何を差し出せばいいのか」
私が言うと、魔女は三つの条件を言った。それが、私が差し出すもの。
三つのうち二つは、そんなに重いものじゃなかった。私の声と、姿。この二つ。この城にいる限り、私は健吾さんに人間の言葉を話すことはできないし、人間としての姿を見せることができない。
でも、問題ないよね。今だって、健吾さんとは話せない。健吾さんは念話の才能がないから。それが続くだけだわ。
姿だって、ウサギの姿のままで問題ない。ウサギの方が、健吾さんの傍に居やすい、と私は思う。
問題は、残る一つだった。私はそれを聞いて、息を呑んだ。でも、健吾さんが死んだら元も子もないのだから、受け入れることにした。
ごまだんごは、最後の一つは絶対に認められない、と言った。私の人生に影響が大きすぎる、って。
ありがと、ごまだんご。私のことを心配してくれて。
でも、私の答えは変わらない。健吾さんを死なせないために必要なことなんだったら、決まってるじゃない。
「それを受け入れたら、健吾さんは助かるんですね。だったら、私はその取引を受け入れます」
「約定は成立した。私は風の王子に祝福を授ける」
私は頷いた。辺りに風が吹き荒れ、何も音が聞こえなくなった。
そしてそれが消えたとき、魔女はいなくなっていた。
魔女は約束を守った。健吾さんは三回、死にかける目に遭い、そして死ななかった。
でも三回目の危機は、私と魔女の契約だけでは健吾さんを本当の意味では助けられなかった。
別の助けが必要だった。私は、健吾さんを助ける方法を一生懸命探した。
「僕が巧と出会った日」「僕が巧を思い出すまで」「僕が守ることになったもの」に続く、「男性Vtuber四人の担当になったが、全員普通ではなかった話」の過去編です。
今回は、健吾と瑠璃の物語を中心に、司が巧を助けようとする話が絡みます。
そして、『踊る星』シリーズの過去編はこれが最後になります。
明日も6時に更新します。




