三十五本目
眩しい光と、子供たちの元気な掛け声で目が覚めた。
「……ん」
頭に伝わる、少し硬くて、でも確かな温もり。視界いっぱいに広がっているのは、真っ青な冬の空だ。近くでは子供が縄跳びをしていて、その規則正しい音が遠くの騒音みたいに聞こえる。
ゆっくりと体を起こした私の視界に、信じられない光景が飛び込んできた。
「……薫!?」
すぐ隣で、ベンチの背もたれに頭を預けて爆睡している薫の姿。
混乱する頭で状況を整理する。私の頭があった場所、薫の太もも。太陽の位置、公衆の面前。携帯の履歴……私から朝の8時に「飲みいこー」。
全部繋がった瞬間、全身の血が逆流するような感覚に襲われた。
「待って……恥ずかしすぎる……ッ!」
図太い女だと思われてもいいと思って生きてきた。でも、これは別だ。好きな男を朝っぱらから呼び出し、泥酔して、あろうことか外で膝枕。自分から仕掛けるのと、無意識に醜態をさらすのは、天と地ほどの差がある。
「絶対嫌われた。終わった。絶対嫌われた、絶対嫌われた、絶対嫌われた……」
寝顔は相変わらず綺麗だけど、今の私には直視する勇気なんて1ミリもない。
最悪だ。一生の不覚。何が祝杯だ、バカか私は。
その時、薫が微かに身じろぎした。起きる。まずい、どんな顔をして会えばいいのかわからないよ.........
「……あ、う……ごめん! 薫! 私、先に帰る、ねっ!」
寝ぼけ眼の薫が何か言いかける前に、私は弾かれたように立ち上がり、全速力で公園を後にした。
背後から薫の声が聞こえたような気がしたけれど、振り返る余裕なんてない。
(バカ、バカ、私のバカ……!)
心臓がバクバクと暴れている。お酒のせいじゃない。
あんなに近くにいた。あんなに温かかった。
逃げ出した路地の角で、私は燃えるように熱い頬を両手で押さえ、うずくまった。
彼と少しでも話すことができればいいと思っていただけなのに.........




