20 無自覚な
「おお、こりゃあまた派手な」
「随分とキラキラした石窯だねえ」
フラムとスピサが、炎の魔石で作られた仮の石窯の感想をこぼした。
厨房の雰囲気から浮いている宝石のような赤い石窯に、ホムラが「きれーでしょ!」と胸を張る。隣にいるサリクスは、恥ずかしそうに肩を縮こませた。
「申し訳ありません、塗装のことをすっかり忘れていて。ペンキを塗っても熱で溶けてしまいますので、結局このままに……」
「ああ、悪い。責めているわけじゃねえんだ。魔石そのままを使うなんて珍しいから、つい派手だなと思ってな」
「普通は加工するからな。とはいえ、急ごしらえにしては上出来だ。メンテナンスは必要だが、新しい方ができるまではこれでもつだろう」
「この窯のままじゃダメなのか?」
「これが長期的に使えるなら最初からそうしている。魔石は耐久性がないんだ。手入れせずに使い続けたら、一週間でまた壊れるぞ」
「なので、五日置きにメンテナンスしにきます。そのときはまた、よろしくお願いします」
「悪いね、サリクスさん。何から何まで」
「なあに。その分の報酬は弾んでもらうからな、スピサ」
「やだ、ちゃっかりしているねえ。雇い主の方は」
ユーカリ達のやり取りにサリクスがクスクスと笑っていると、下からスカートが引っ張られる。見れば、ホムラがニコニコとわらっていた。
「どうしました、ホムラさん」
「おねえちゃん、ありがと。お料理できるようにしてくれて。でね、でね」
ホムラが何か言いたげに背伸びをしてきたので、サリクスは屈んで視線を合わせる。ホムラはサリクスにだけ聞こえるよう小さく言った。
「おねえちゃん、ユーカリさんのお嫁さんって本当なの?」
「!? だ、誰がそんなことを……」
「パパとママ」
「ああ……違いますと、フラムさんとスピサさんにお伝えください」
「違うの? やった。じゃあ、おねえちゃん。今度きたとき、一緒にお買い物しよ! デート、デート!」
うなだれるサリクスとは対照的にはしゃぐホムラ。
二人のやり取りに、ユーカリが怪訝そうな顔で覗き込んでくる。
「どうした。ホムラにいたずらでもされたか、サリクス」
「いえ、大丈夫です……」
疲れた顔をするサリクスに、ユーカリが微笑んだ。
「今日はよくやってくれた、サリクス。試すような真似して悪かった。帰ったら、とっておきのワインを振る舞うぜ」
サリクスを労うユーカリは、見たこともない穏やかな顔をしていた。
そんな彼を見て、サリクスの胸がドキリと鳴る。
「……あ、ありがとうございます」
咄嗟に顔を逸らし、熱をもった頬を手で覆う。
(やだ、なんで、こんな、どきどきしているのかしら……変な感じ……)
サリクスの心の変化は、ユーカリどころか、彼女自身もまた気づいていなかった。
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