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蝋人形と遠藤君と壁の蔦

遠藤君は俺の3つ上の先輩だ。

昔住んでいたマンションの隣の住人で、よく遊んでくれた。

いいお兄さんだった。

たしか隣町に引っ越し、今は高校生だったと思うけど。

しかし、蝋人形ってなんなんだろう。

俺に対応できることなのだろうか。


ふと小学六年生の給食の時間のことを思い出した。

その日は、給食にシイタケが出た。

しかも切ってない大きいままのシイタケだ。

多くの同級生が、ムリだと言った。


そんな生徒たちを見て

「神は乗り越えられる試練しか与えない」

と担任は言った。


俺は疑問に感じ、

よく父さんが言ってた言葉を引用した。


「デカルトは“困難は分割せよ”と言っています。シイタケが分割され小さいものであれば、これほどの抵抗は出なかったはず。シイタケという困難は分割されるべきなのでは」

と俺は言った。


同級生からは賛美の声が聞こえた。


「それは一理ある。給食センターには私から言っておこう」

と担任は言い、しいたけはムリして食べなくて良くなった。


あの時のしいたけのように、

今の俺に対応できなければ、分割すればいい。

それだけだろう。

俺はそう思った。


しかし……デカルトって誰なんだろう。

政治家かなんかなのかな。

まぁいいか。


俺はそんなことを考えながら、目を閉じた。


「朝ごはんできたわよ」

と母さんの声が聞こえる。


俺はスマホを確認する。

7月20日で、新聞社もポータルサイトの日付も、そしてテレビ番組も7月20日だった。

俺は宿題を見る。

宿題はしていない。

俺は財布を見る。

財布の中身も7月20日時点の金額5800円だった。

同じだ。


俺は父さんに宿題と爺ちゃんの家のことを確認して、宿題を始める。

そして爺ちゃん家に……

今回も58,000円だった。

俺は急ぎ家に戻る。

次は純ちゃん家に行き、蚊を撃退。

そして茜ちゃん家に行き、告白し地震発生し引っ越し回避。

モデル君に連絡を取り家へ行く。

覚君と従姉妹のお姉さん家に行く。

これでフラグは折れた。


次は遠藤君だ。


俺は遠藤君に連絡を取り、遠藤君の家に遊びに行く約束をした。


……

遠藤君に会うと、遠藤君の髪の毛は金髪になり、とがっていた。


「ひさしぶり。ずいぶんイメージ変わったね。校則大丈夫なの?」

と俺は言った。


「あぁこれ。夏休みの間だけだよ。終わったら染めるよ」

と遠藤君は言った。


「そうなんだ」

と俺は言った。


「音楽かけるね」

と遠藤君は言った。


遠藤君はヘビーメタルをかけた。


「あいかわらずヘビーメタルが好きなんだね」

と俺は言った。


「そう。ヘビーメタルは俺の生き甲斐だ」

と遠藤君は言った。


しかし遠藤君はなぜ亡くなったんだろう。

事故

蝋人形

なにか怪しい影がちらつく。


よし思い切って聞いてみよう。


「遠藤君……なにか悩んでることない?」

と俺は言った。


「えっ。なんでわかる?」

と遠藤君は言った。


あっこの驚き方は、ちょろいかもしれない。


「顔に書いてあるよ」

と俺は言った。


遠藤君はあわてて部屋を飛び出す。

「はじめ。なにも書いてないじゃん」

と遠藤君は言った。


「そういう意味じゃないよ。不安な表情してるから、なにかあるのかなって。ほら虫の知らせだ」

と俺は言った。


「虫の知らせ?勘みたいなもの?」

と遠藤君は言った。


「そうそう。それ……」

と俺は言った。


「いや……。実は親にも友達にも言ってないんだけど……、あぁでもこんなこと言ったら頭おかしい奴扱いされるからな……」

と遠藤君は言った。


「だいじょうぶ。俺も頭おかしい奴だから」

と俺は言った。


「そうだな。じゃあ言うわ」

と遠藤君は言った。


「おいおい。そこ肯定すんなよ」

と俺は言った。


俺のツッコミを華麗にスルーし、

「実はすごい怪しい洋館があって、そこがすごく気になっているんだ。なにか悪魔的な……」

と遠藤君は言った。


「悪魔的な洋館……」

と俺は言った。


「そう。ある晩その洋館に金髪の美少女が窓際に立っているのが見えたんだけど、それっきり見ないんだ」

と遠藤君は言った。


「えっ。それって恋的なやつ?」

と俺は言った。


「違う違う。あの少女は殺されたんじゃないかなって。そう思うんだ」

と遠藤君は言った。


「警察には言ったの?」

と俺は言った。


「そんなのムリムリムリ」

と遠藤君は言った。


「……で、まさか、見に行こうとか?」

と俺は言った。


「……そうだ」

と遠藤君は言った。


「他には悩みとかないんだよね」

と俺は言った。


「……他に、大きいシイタケが苦手なことくらいだな」

と遠藤君は言った。


「あぁそれはデカルトだよ」

と俺は言った。


「デカルトって、あの風車に挑む物語の人?」

と遠藤君は言った。


「あっそうなんだ。なんかね。困難は分割せよって言ってたから、シイタケも小さく切ればいいよってことだよ」

と俺は言った。


「はじめ……。お前天才」

と遠藤君は言った。


「だろ。で……今からその洋館行く?」

と俺は言った。


「ついてきてくれるのか?」

と遠藤君は言った。


「あたぼうだよ。遠藤先輩」

と俺は言った。


「くすぐったいよ。遠藤君でいいよ」

と遠藤君は言った。


「じゃあ行こう」

と俺は言った。


「おぅ」

と遠藤君は言った。


……

遠藤君の家から30分ほど歩いたところに、その洋館はあった。

壁が蔦でおおわれて、いかにも悪魔的な雰囲気。

裏手に塀の壊れたところがあるということで、遠藤君についていった。


「めっちゃドキドキするね」

と俺は言った。


「俺、高校生になって、こんなことすると思わなかった」

と遠藤君は言った。


「だよね、バカだよね」

と俺は言った。


「バカっていうなよ」

と遠藤君は言った。


「ちょっと待って、人が……」

と俺は言った。

俺たちは口を閉じる。

窓際にキレイな黒髪の美少女がいた。


「あの子じゃないよね」

と俺は言った。


「うん。キレイだけど違う」

と遠藤君は言った。


「でもあの子ピクリとも動かないよ」

と俺は言った。


「ウソだろ」

と遠藤君は言った。


俺たちは5分ほど黙って観察する。

「あれ……人形じゃないの?」

と俺は言った。


「本当だ……」

と遠藤君は言った。


「ちょっと待って。あっちにもあるよ。そっちにも……」

と俺は言った。


「これ全部人形なのか」

と遠藤君は言った。


洋館にはおびただしい数の人形があった。


俺たちはその異様な風景に凍り付く。


「これヤバいんじゃない?」

と俺は言った。


「これは人を蝋人形に変える恐ろしい悪魔が住む屋敷だ」

と遠藤君は言った。


「だれだ」

と突然大きな声がした。


俺たちはあまりの驚きで、その場に座り込んでしまう。


手に木刀を持った初老の男が近づいてくる。

「誰だお前たちは」

と初老の男は言った。


「探検ごっこをしてたら、迷い込んじゃって」

と俺は言った。


「そうそう。探検してたんです」

と遠藤君は言った。


「そうか探検か。ワシも昔はよくやった。驚いたじゃろ。すまんすまん。最近イタチが多くてな」

と初老の男は言った。


「そうですか。お騒がせしました。では帰ります」

と俺は言った。


「すいません。失礼します」

と遠藤君は言った。


俺たちが帰ろうとすると、男の目が光った。


「ちょっと待て。茶くらい出す。ついてこい」

と初老の男は言った。


俺たちは恐怖から、その申し出を断ることはできなかった。


俺たちは客間らしき部屋に案内される。

そこには三体の人形があった。


「ちょっと待っていろ」

と初老の男は言った。


俺たちはうなずく。


「どうしよう。遠藤君。これヤバい奴だよね」

と俺は言った。


「あぁきっと、生きたまま人形にされる」

と遠藤君は怯えた表情で言った。


3分ほどたち、初老の男は戻ってきた。


「どうぞ」

と初老の男は、

黒い塊と紅茶を差し出した。


「この黒い塊は?」

と俺は言った。


「羊羹だよ。昔からこの家を訪ねた者には、羊羹をふるまうようになっておる。この家のしきたりじゃ」

と初老の男は言った。


「まさか。洋館だけに、羊羹」

と俺は言った。


「バカ。そんなことがあるわけ……」

と遠藤君は言った。


「するどいな。一発で見抜いたのは、君が初めてだ」

と初老の男は言った。


「あざす」

と俺は言った。


「まじか……」

と遠藤君は言った。


羊羹はお歳暮とかでもらう高級なやつだった。

洋館に来た客に羊羹を出す悪魔なんかいるのか?

俺の頭はそれでいっぱいだった。


「すごいリアルな人形ですね」

と俺は言った。


初老の男の紅茶を飲む手が止まる。


「……バカ。よせ」

と遠藤君は言った。


「これはな。蝋人形なんだよ。生きたように見えるだろ。でもただの蝋人形。命は通じておらん」

と初老の男は言った。


「なんでこんなに沢山?趣味なんですか」

と俺は言った。


「……バカ。よせ」

と遠藤君は言った。


「……実はこの蝋人形は全部先々代のもので、邪魔だし、夜怖いからネットオークションとかにかけてるのだが、全く売れなくて、困ってるんだ」

と初老の男は言った。


「全然売れないの?スゲーリアルなのに」

と俺は言った。


「……バカ。よせ」

と遠藤君は言った。


「だろ。私も即売れると思っていたけど、まったく。10年間出してるけど、てんで反応がない」

と初老の男は言った。


「そのページを見せてもらっていいですか」

と俺は言った。


「いいよ。ちょっと待ってくれ」

と初老の男は、そのオークションページを見せてくれた。


「うわ怖っ」

と俺は言った。


「いや。これマジでホラー。さすがにひくわ」

と遠藤君は言った。


「えっそう?ゴシック調がいいとか聞いて、そんな感じにしたんだけど」

と初老の男は言った。


「さすがにやり過ぎかな」

と俺は言った。


「うんうん。これ絶対中身人間だと思われてるよ」

と遠藤君は言った。


「えっそうなの。じゃあどうしたらいい?」

と初老の男は言った。


俺は、オークションページとかの文章とか写真の撮り方をアドバイスしだす。

素直にアドバイスに応じる初老の男。


「こんな感じかな」

と俺は言った。


「うん。いいね」

と遠藤君は言った。


「まぁ怖くはないけど、こんなんで買ってくれる?」

と初老の男は言った。


(ぴこん)

通知ボタンが表示された。


「これって落札されたんじゃね?」

と俺は言った。


「本当だ」

と遠藤君は言った。


「いや。少年たち。お前らスゲーな」

と初老の男は言った。


……

遠藤君の死亡フラグは完全に消えたと俺は確信した。


それから、また日常をくり返し。


そして気が付くと、8月31日になっていた。

これでもう終わるはず。

そう思った。


(ぷるぷるぷる……)

家の電話が鳴る。


「はい。はい。はい。えっ本当ですか?で……はい。はい。はい。失礼します」

と母さんは誰かと話している。


またか……


「……町内会長さんの所の息子さんが亡くなったって」

と母さんは言った。


「なんで?」

と俺は言った。


「事故らしいけど、周りに闇バイトが……って言っていたらしく」

と母さんは言った。


遠藤君の次は、町内会長さんの所の息子……。

しかも闇バイト……って、何があったんだ。


こんどこそ、手に余るのではないだろうか。


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