友の死
「朝ごはんできたわよ」
と母さんの声が聞こえる。
俺はスマホを確認する。
7月20日で、新聞社も、ポータルサイトの日付も、そしてテレビ番組も7月20日だった。
俺は宿題を見る。
宿題はしていない。
俺は財布を見る。
財布の中身も7月20日時点の金額5800円だった。
同じだ。
俺はそんな事を思いながら、リビングの扉を開ける。
「今日は夏休み初日なんだし、今日からちゃんと宿題しなさいよ」
と母さんは言った。
「そうだぞ。エリートは始めの1週間で宿題を終わらせるんだ。お前もエリートになりたければ」
と父さんは言った。
同じ展開だ。
「今日終わらせる」
と俺は言った。
「すごいこというな。そういえば、爺さんが夏休みの間に、家の片づけしたいって言ってたけど、お前一人で爺さんのところ行くか? バイト代くれるらしいぞ」
と父さんは言った。
「今日宿題終わらせて、明日から行くから。もちろん出来たら二人に見せるから」
と俺は言った。
「まぁ終わってから連絡するわ」
と父さんは言った。
朝ごはんを食べ、俺は宿題をどんどん解いていく。
答えを知っているから、時間はかからなかった。
その日の夕方までには宿題は終わってしまった。
その後、爺ちゃんの家に向かい、片づけを終わらせる。
爺ちゃん達は、あまりにテキパキした行動に、驚いていた。
爺ちゃんの不要品を売った金額は今回も58,000円だった。
俺は急ぎ家に戻る。
あとは純ちゃんをどうするかだ。
純ちゃんは小さい頃によく遊んだが、最近はまったく会話もしていない。
どうしているのかもよくわからない。
そこで思い切って、遊びに行くことにする。
ピンポンをならすと、純ちゃんのお母さんが出てきた。
「お久しぶりです」
と俺は言った。
「あぁあなたは純の友達の……」
と純ちゃんのお母さんは言った。
「純ちゃんいますか?」
と俺は言った。
「いまちょっと買い物に出かけていて、上がって」
と純ちゃんのお母さんは言った。
「ありがとうございます」
と俺は言った。
「ひさしぶり……だよね」
と純ちゃんのお母さんは言った。
「そうですね。もう5年ぶりです」
と俺は言った。
「どうしたの。急に……」
と純ちゃんのお母さんは言った。
「なんか急に気になって」
と俺は言った。
「そう。実はね。最近純の様子がおかしいのよ」
と純ちゃんのお母さんは言った。
「どうしたんですか?」
と俺は言った。
「急にね。部屋で……、うるさい、来るな、お前の来るところじゃないって叫ぶのよ」
と純ちゃんのお母さんは言った。
「純ちゃんはどう言ってるんですか」
と俺は言った。
「それがその事には答えてくれないの。あなたからそれとなく聞いてくれる」
と純ちゃんのお母さんは言った。
「わかりました」
と俺は言った。
(ただいま……)
玄関で声がする。
「おかえり。お友達来てるわよ」
と純ちゃんのお母さんは言った。
「誰友達って……あっハジメ君」
と純ちゃんは言った。
「ひさしぶり。ちょっと純ちゃんの事を思い出したから来たんだ。どうしてるかなって」
と俺は言った。
「僕もふとハジメ君の事思い出したんだ。よかった。部屋に行こ」
と純ちゃんは言った。
「うん」
と俺は言った。
「じゃあ。ちょっとお母さん、オヤツ買ってくるから。ちょっと待っててね」
と純ちゃんのお母さんは言った。
「あそこのどら焼き。ハジメ君に食べさせたいんだ」
と純ちゃんは言った。
「そう思って今からいくのよ。じゃあね」
と純ちゃんのお母さんは言った。
「頼んだよ。お母さん」
と純ちゃんは言った。
俺は純ちゃんと、いろんな話をした。
純ちゃんお気に入りのどら焼きを食べ、昔話に花を咲かせる。
すると突然。
「うるさい、来るな、お前の来るところじゃない」
と純ちゃんが叫んだ。
純ちゃんは耳をふさぎ、何かを追っ払おうとしている。
「だまれ。来るな。俺はお前になんか屈しない」
と純ちゃんは言った。
「どうしたの?」
と俺は言った。
でも純ちゃんは、空を睨みつけるだけで、答えてくれない。
(ぷーん)
とイラつくような音がした。
まさか……
俺は手を見る。
そこには黒と縞の悪魔がいた。
(ぱち……)
俺は手を思い切り叩いた。
そこには真っ黒なシミができた。
「あれ……声が消えた」
と純ちゃんは言った。
「純ちゃん、大丈夫」
と俺は言った。
「ハジメ君が救ってくれたの」
と純ちゃんは言った。
「たぶん蚊だと思うんだ」
と俺は言った。
「でも、僕刺されていないんだよ」
と純ちゃんは言った。
「刺す蚊と刺さない蚊がいるんだ」
と俺は言った。
「そうなんだ。なんか悪魔かなんかだと思ってた」
と純ちゃんは言った。
「知らなかったら怖いよね」
と俺は言った。
「うん、ありがとう」
と純ちゃんは言った。
俺は純ちゃんのお母さんにも一部始終を話した。
純ちゃんはこの事で悩んでいたらしく、寝不足だったそうだ。
もしかしたら事故も寝不足が原因だったのかもしれない。
俺は思った。
これで純ちゃんが亡くなるフラグは折れた。
……
純ちゃんの件を終え、俺はふたたび自堕落な生活に戻る。
そして気が付くと、8月31日になっていた。
これでループは解けるはず。
そう思った。
(ぷるぷるぷる……)
家の電話が鳴る。
「はい。はい。はい。えっ本当ですか? で……はい。はい。はい。失礼します」
と母さんは誰かと話している。
えっまさか純ちゃんが……
「もしかして……」
と俺は言った。
「……お前の友達の茜ちゃんが亡くなったって」
と母さんは言った。
「なんで」
と俺は言った。
「茜ちゃんは転校する予定だったんだけど、引越し直前でトラックにひかれたんだって」
と母さんは言った。
純ちゃんの次は、茜ちゃんか……。
しかも引越しするなんて、全然知らなかった。
いったい……
いつまでこの夏休みは続くのか。
俺は怖くなっていた。




