生前整理
「朝ごはんできたわよ」
と母さんの声が聞こえる。
今日から新学期か。
宿題はやったし、爺ちゃんの葬儀には行けなかったけど、みんな行かなかったし。
まぁいっか。
俺はそんな事を思いながら、リビングの扉を開ける。
「今日は夏休み初日なんだし、今日からちゃんと宿題しなさいよ」
と母さんは言った。
「そうだぞ。エリートは始めの1週間で宿題を終わらせるんだ。お前もエリートになりたければ」
と父さんは言った。
「えっ何言ってるの?今日はもう9月1日だよ」
と俺は言った。
「何寝ぼけてるの。ほら今日の日付。夏休み始まった所じゃない」
と母さんは言った。
「そうだぞ。そういえば、爺さんが夏休みの間に、家の片づけしたいって言ってたけど、お前一人で爺さんところ行くか?バイト代くれるらしいぞ」
と父さんは言った。
「お爺ちゃん。亡くなったんじゃないの。頭打って……」
と俺は言った。
「何言ってるの。なにか変な夢でも見たんじゃない」
と母さんは言った。
「まぁ行くなら言ってくれ。連絡しておくから」
と父さんは言った。
「あぁわかった」
と俺は言った。
俺は腑に落ちないまま、スマホを確認する。
たしかに7月20日で、新聞社も、ポータルサイトの日付も、そしてテレビ番組も7月20日だった。
俺は宿題を見る。
宿題はしていない。
俺は財布を見る。
財布の中身も7月20日時点の金額5800円だった。
そうか……。
たしかに7月20日だ。
ちょっと待て。
俺は宿題の中身を確認する。
これちょっと前に解いた奴だ。
そう思った。
俺は宿題をどんどん解いていく。
答えを知っているから、時間はかからなかった。
その日の夕方までには宿題は終わってしまった。
なんなんだ。これ。
時間は7月20日に戻っている。
宿題は終わっていない。
でも宿題をやった記憶はあるし、簡単に解ける。
これは記憶を保持したまま、過去に戻ったという事なのかもしれない。
ちょっと待て。
爺ちゃんはまだ亡くなっていない。
そして、爺ちゃんは餅の臼に頭をぶつけて亡くなっている。
という事は、俺が家の片づけを手伝えば助かるんじゃないか?
そう思った。
俺は父さんにメッセージを送る。
「父さん。夏休みの宿題終わったから爺ちゃん家に行くよ」
「OK。お前エリートに目覚めたな。でも本当にやったかどうかは確認するぞ」
と父さんから返信が来た。
俺は父さんと母さんに宿題を全部見せ、電車賃と小遣いをもらった。
爺ちゃんにも連絡を取ってもらい、爺ちゃんを手伝いに行くことにする。
……
爺ちゃんの家は、電車で2時間半かかるところにあった。
いわゆる田舎の家で梅の木が3本あった。
「ただいま」
と俺は言った。
「おかえり。元気そうだな」
と爺ちゃんは言った。
「素麺ゆでるからお食べ」
と婆ちゃんは言った。
「駅弁食ったから大丈夫。それより片付けって」
と俺は言った。
「いやな……。ほら生前整理ってあるだろう。流行りの。爺ちゃんも流行にのろうかなと思ってな」
と爺ちゃんは言った。
「そうなのよ。今老人会ではトレンドなのよ。ナウいのよ」
と婆ちゃんは言った。
「そうなんだ。それで……、なにから始めようか?」
と俺は言った。
「それがよくわからんから教えて欲しいんだ」
と爺ちゃんは言った。
「そうなのよ。何を捨てたらいいのかわからないのよ」
と婆ちゃんは言った。
俺はスマホで片付けについて調べ出す。
「一年使ってないものってどれ」
と俺は言った。
「一年使ってないもの……。これと、あれと、それと……。ふーん。一年以内に使ったことのあるものの方が少ないのぅ」
と爺ちゃんは言った。
「そうですね。たしかに、もう1年というより10年20年は使ってないものがほとんどですね」
と婆ちゃんは言った。
「そういうのは全部処分なんだって、もう使わないから」
と俺は言った。
「ほう。なるほどな。それで捨てるのか?」
と爺ちゃんは言った。
「それはもったいないですよ。誰か欲しい人がいるかもしれないし」
と婆ちゃんは言った。
「じゃあ。いらないものの写真を撮って、父さんと母さんや親戚とかにも送って、それでいらないっていえば、リサイクルショップに売れば良いんじゃない?」
と俺は言った。
「そんなことできるのか?」
と爺ちゃんは言った。
「それは良いですね」
と婆ちゃんは言った。
俺は親戚のメッセージアプリのアドレスを聞き、グループを作り、送ることにした。
期日は1日。それまでに欲しいと言わなかったら売るという事に決めた。
俺は家じゅうを回り、写真を撮りまくる。
「これで後は待つだけだね」
と俺は言った。
1日経ち。みんなから、うちはいらないというメッセージが届いた。
「誰かが使うかなと思って取っておいたが、誰もいらんのだな」
と爺ちゃんは言った。
「そうですね。早く捨てとけばよかったですね」
と婆ちゃんは言った。
俺は爺ちゃんと二人で軽トラに荷物を詰め込み、リサイクルショップに向かう。
リサイクルショップで売れるものは売り、売れないものは持ち帰った。
リサイクルショップに行くこと10回。
沢山の荷物があった爺ちゃんの家は、途端に殺風景になった。
売れなかったものは、軽トラで市のゴミ焼却施設に持ち込んだ。
その中には臼と杵もあった。
あんだけあった荷物を売った金額は58,000円だった。
「スッキリしたね」
と俺は言った。
「まぁでもなんか寂しくなったな」
と爺ちゃんは言った。
「でも。これでトレンディですよ」
と婆ちゃんは言った。
俺は思った。
これで爺ちゃんが亡くなるフラグは折れた。
……
爺ちゃんの家の片づけを終え、俺はふたたび自堕落な生活に戻る。
そして気が付くと、8月31日になっていた。
これでループは解けるはず。
そう思った。
(ぷるぷるぷる……)
家の電話が鳴る。
「はい。はい。はい。えっ本当ですか?で……はい。はい。はい。失礼します」
と母さんは誰かと話している。
えっまさか爺ちゃんが……
「もしかして……」
と俺は言った。
「……お前の友達の純ちゃんが亡くなったって」
と母さんは言った。
「なんで」
と俺は言った。
「トラックにひかれたそうなんだけど、ずっと悩んでいたみたいだから、ひょっとして……」
と母さんは言った。
爺ちゃんの次は、純ちゃんか……。
一体俺はどうすればいいんだ。




