第9話 幻創術師と赤竜
俺は淡々と次の作業を進めていく。
道中で拾った木の枝に幻創魔術を施して弓を生み出した。
これは魔力で生成した矢を放てる優れものだ。
以前、武器屋で見かけたので想像は容易かった。
幻創魔術の上乗せで射撃すれば、たとえ竜でも通用するはずだ。
(ひとまず準備はこれくらいか)
俺は弓を片手に持って止まる。
あとは状況に応じて術を行使する形にしたい。
念入りに備えを固めすぎると、想像力や判断力に支障を来たす場合があった。
柔軟な対応をするためにもこれくらいで留めた方がいい。
騎士の容姿となった竜が剣を構えた。
盾を全面に出して防御も万全にしている。
その姿勢で竜は述べる。
「人間よ、名乗れ。我に魔術を通した者の名は憶えておきたい」
「レードだ」
「そうか。しかと憶えたぞ。では死ぬがいいッ」
吼えた竜が斬りかかってきた。
剣を掲げて突進してくる。
大上段からの振り下ろしを狙っているようだが、実際の動きは不明であった。
竜なのだから噛み付きや尻尾の殴打、或いは炎のブレスかもしれない。
選択肢は無数に存在する。
しかし、俺は騎士が斬りかかってきたと解釈した。
魔眼を介して見える世界がすべてなのだ。
だから何も考えず信じ込むだけでいい。
それは真実より優先される。
急加速で迫る竜に対し、俺は弓による攻撃を選んだ。
素早い動きで魔力の矢を連続で放つ。
命中する光景を強く思い浮かべるだけで、矢は軌道を曲げて竜に殺到した。
甲高い音を立てて鎧に炸裂する。
「ぬぅ、鬱陶しいッ!」
竜が矢を切り払う。
既に何本も鎧に突き立っているが、動きに乱れは感じられなかった。
その程度の負傷では意味を為さないのだろう。
(やはり弱体化も万全ではないようだ。人型にできただけで、身体能力は馬鹿げている)
俺は飛び退きながら矢を飛ばし続ける。
竜は盾で防ぎながら接近し、滅茶苦茶に剣を振るってきた。
斬撃が渓谷の地面や岩壁を切り裂いていく。
俺は紙一重で回避を続けた。
掠めるだけで致命傷になるのは明白である。
幻創魔術で強化した肉体を駆使して、なんとか攻撃に当たらないようにする。
その間も片手は矢をひたすら放つ。
(武具には耐久的な限度がある。素体が竜であってもそこは同じだ。幻創魔術で手を加えた以上、必ず綻びが生じている)
矢が騎士を穿つ光景を脳裏に焼き付けながら戦い続ける。
それが術の強度を徐々に高めていく。
攻撃が着実に通っているのだ。
いつかは実現できる。
精神が確信している限り、幻創魔術はきっと応えてくれる。
そうして地道に矢を飛ばすこと暫し。
渾身の一射が剣に命中し、刃を粉々に粉砕した。
さすがの竜も驚愕して動きを止める。
俺は畳みかけるように矢を連射しまくった。
無防備なところへ浴びせた矢は、さらに盾を割って鎧に深々と刺さっていく。




